菫青石の恋  〜 his meat is their feast 〜


 ロイは温めたリゾットを皿によそうとトレイに載せて2階へと上がっていく。寝室の扉をそっと押し開いて中へと入った。
「ハボック……?」
 トレイをサイドテーブルに置き、ベッドの上で小さく丸まるハボックのブランケットから覗く金色の頭を撫でる。そうすれば目深に被ったブランケットの陰の金色の睫が揺れて空色の瞳が現れた。
「気分はどうだ?」
「………さっきよりはマシになったっス…」
「そうか」
 いくら声をかけても顔を出してくれなかったハボックが答えてくれた事だけでも嬉しくてロイは目を細める。ベッドの傍の椅子に腰を下ろして言った。
「その…リゾットを温めたんだ。お前が作ったもので悪いとは思ったが、私が作るよりいいと思ったし、それに何より美味そうだったし。食えそうならと思ったんだがどうか、な……」
 じっと見つめてくる瞳に、話すロイの声が段々と小さくなっていく。やはり拙かったかとぼそぼそと言い訳のようなことを呟いて立ち上がろうとした時、ハボックがゆっくりと体を起こした。
「食います」
 掠れた声で言うハボックにロイはホッとしながら手を貸してやる。座りやすいようにクッションを背中に当ててやると、リゾットの皿を手に取った。
「食べさせてやろう、ほら」
 ロイはそう言ってリゾットを掬ってハボックの口元に運ぶ。だが、口を引き結んで俯いたままのハボックに、ロイはおろおろとその顔を覗き込んだ。
「あ、や……その…自分で食う、か?」
 やはり怒っているのだろうかとそう思いながら尋ねる。だが、ハボックからの答えはなく、どうしようかとロイが途方に暮れた時、ハボックがぼそりと言った。
「………オレがマスタングさんに食べさせてあげようと思ってたのに」
「え?」
 掠れた声が聞き取りにくくてロイはハボックの口元に耳を寄せる。そこに吹き込まれる言葉にロイは目を丸くした。
「……前に食べさせて貰って嬉しかったから………今度はオレが“あーん”ってやってみたかったのに…」
「ハボック……」
 俯き加減の頬を膨らませて不貞腐れたように言うハボックの顔をロイは驚いたように見つめる。チラリと恨めしそうに空色の視線を向けられたロイは、ハボックへの愛しさが込み上げてきて堪らなくなった。
「………!」
「え?」
 ロイは乱暴な仕草でサイドテーブルに皿を置くと寝室を飛び出していく。ハボックは突然のロイの行動に目を丸くした。
「マ、マスタングさん?」
 何も言わずに飛び出していってしまったロイを追いかける事も出来ず、ハボックは開け放たれた扉を呆然と見つめる。もしかしてロイの気分を害してしまったろうかと不安に駆られてブランケットを握り締めたハボックの耳に、バタバタと駆け戻ってくる足音がしてロイが寝室に飛び込んできた。
「マスタングさん……?」
 不安げに見つめるハボックの視線の先でロイは椅子に座りなおすとリゾットの皿を手に取る。それから今持ってきたスプーンをハボックに渡した。
「食べさせっこしよう」
「……え?」
「私に食べさせてくれるつもりだったんだろう?だったらお互いに食べさせればいい」
 ロイはそう言ってリゾットの皿に載せたままだったスプーンを手に取る。それからひと口掬うとハボックに差し出した。
「まずはお前から」
「マスタングさん……」
 優しく笑ってスプーンを差し出すロイの顔を目をまん丸に見開いて見つめていたハボックは、やがてふわりと笑う。恥ずかしそうに目尻を染めて口を開けばロイがリゾットを運んだ。
「美味いか?……って、お前が作ったんだから美味くて当たり前だな」
「……でも、マスタングさんが食べさせてくれるからもっとずっと美味いっス」
 ハボックはそう言うとロイが持つ皿にスプーンを持つ手を伸ばす。
「今度はマスタングさんの番。……はい、あーん」
 嬉しそうに目をキラキラさせてハボックが差し出すスプーンにロイは口を寄せた。リゾットを口にしてその優しい温かさに目を細めた。
「ああ、ホントだ。食べさせて貰うと余計に美味いな」
 ゆっくりと噛んで飲み込むとまたハボックの口元にスプーンを運ぶ。
「ほら、こんどはお前だ」
 そうやって二人は交互に食べさせながら、おかわりまでしてリゾットを食べたのだった。


2009/07/11


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


この間の「菫」の風邪ネタ。「マスタングさんにあーんってしたかった」っていうハボも見てみたいと言われたので。この間のでは「あーん」してもらって喜ぶロイが書けなかったしね(笑)いつものロイなら「あーんってしたかった」なんて言われたら、すっかり盛り上がってハボックを押し倒すに違いありませんが、菫のロイなら一緒に「あーん」ってするかなぁって思います(笑)