| 光神王国 |
| 「若!」 ティワズはちょっと目を離した隙に姿の見えなくなってしまった王子を探して声を張り上げる。沢山の書物で埋まった書庫を覗き、何かの催しの時には煌びやかな衣装で着飾った諸侯で一杯になる大広間を覗き、大きな鍋がグツグツと煮えたぎる厨房を覗いたが、王子の姿は見つからなかった。 「まったくもう…。何処に行ったんだか」 ティワズは紅い瞳をしかめてため息をつく。幼い王子は今、悪戯盛りであちこちで騒ぎを起こしてはティワズをやきもきさせるのだった。 「王子さまなら庭に出ていかれるのを見ましたよ?」 キョロキョロと辺りを見回しながら歩くティワズに女官がそう声をかける。ティワズが王子を捜し回っては連れ戻しているのはこの城ではありふれた光景であったのだ。 「ありがとう!」 ティワズは女官に礼を言うと階段を駆け下り庭へと走り出た。 「若!何処におられるんてすっ、若!!」 辺りを見回しながら声を張り上げれば頭上の方から声が聞こえた。 「ティ〜」 声の聞こえた方へ視線を向けたティワズは高い木の枝に腰掛けて手を振るハボックにギョッとする。慌てて木の下に駆け寄ると言った。 「何やってるんですか!落ちたらどうするんですっ?」 「大丈夫だよ!平気!」 「平気じゃありません!早く下りて下さい、若!」 あんな高いところまでどうやって上ったんだと思いつつそう言えば幼い王子は頬を膨らませる。それでも紅い瞳に睨まれるとそろそろと枝の上を移動して太い幹へと寄っていった。ハボックは枝の根元までたどり着くと幹に手を伸ばす。幹に縋った手を支えに枝の上に立ち上がろうとした時、枝にかけた足がズルリと滑った。 「あ」 その声が合図になったように小さな体が重力に引かれて落ちる。 「若っ!!」 考えるより早くティワズはハボックが落ちてくる辺りに向けて手を伸ばした。ザザザと葉を鳴らして落ちてきた体を受け止めた拍子にハボック諸とも地面に倒れこむ。金色の頭を庇うように地面に体を投げ出したティワズは、暫くの間荒い息を弾ませて身動きできなかった。 「んー」 その時、胸元で声が聞こえてティワズはハボックの顔を覗き込む。 「若ッ、怪我はッ?!お怪我はありませんかっ?!」 「うん、大丈夫」 にっこりと笑う空色の瞳にティワズはヘナヘナと力が抜けてしまった。ガックリとうな垂れているティワズの耳に「どうしたの?」とのんびりした声が聞こえて、ティワズはキッと顔を上げるとハボックを睨みつける。 「なんて危ないことをするんですっ?!落ちて大怪我でもしたら…っ、打ち所が悪くてもしものことがあったらどうするんですかッ!!」 カンカンになってそう言うティワズに、だがハボックはニコーッと笑った。 「大丈夫だよー。平気って言ったでしょ?」 「何が平気なんもんですかッ、現に今だって枝から落ちて――」 「うん。でもちゃんとティが助けてくれたでしょ?絶対ティが助けてくれると思ってたもん。だから平気なんだ」 「……ッッ」 続けて叱り付けようと思っていたティワズはにっこりと笑って言うハボックに出鼻を挫かれてしまう。パクパクと口だけ動かすティワズにハボックは腕を伸ばすとギュッと抱きついた。 「ティ、大好きっ」 そう言って抱きついてくる体をティワズは抱き返して肩を落とす。こうやって無条件の信頼を寄せてくる王子にティワズはいつだって敵わないのだ。 「とにかく、こんな事ばかりされていると私の寿命が縮まりますから」 ティワズはハボックの背中をポンポンと叩きながら言う。 「私を長生きさせたいならあんまり無茶なさらないでくださいね」 「うんっ」 返事だけは100点満点の王子を抱き締めながら、ティワズはそっとため息をついたのだった。 2008/10/12 |