光神王国 傷編


「若ッ!!」
 ティワズは降りかかる刃を前に身動き出来ない少年の前に己の身を晒す。襲撃者の凶刃をかわしきれずに頬に鋭い痛みを感じたものの、構わず手にした剣を振るった。
「若には指一本触れさせんッ!!」
 赤い瞳に怒りと主への忠誠心を燃え上がらせてティワズは剣をなぎ払う。怯む襲撃者に容赦なく攻撃を加え、瞬く間に物言わぬ塊へと変えてしまった。
「ティワズ!全員殺すなっ!捕まえて首謀者の名を聞き出さんと…ッ」
 遅れて駆けつけたマニが短剣を手に叫ぶ。その声に高く剣を振り上げていたティワズの手がピタリと止まった。
「ティワズっ!」
 息を荒げながら剣を振り上げたままでいるティワズの腕を、マニは掴んでそっと下ろしてやる。なんとか一人残った襲撃者を兵士に任せて、頬から真っ赤な血を流したティワズの赤い瞳が大きく見開いたまま見つめてくるのを見返しながらマニは言った。
「おちつけ。若様なら大丈夫だ。おちつけ、ティワズ」
 マニがそう言えばティワズはハッとして辺りを見回す。城の兵士に守られるように囲まれて座り込んでいる少年の姿を捉えると、ティワズは慌てて駆け寄った。
「若っ、お怪我はっ?」
「怪我してんのはティの方だよッ!血っ、血が…ッ」
 ハボックは泣きそうに顔を歪めてティワズの腕に縋りつく。赤い血が流れる頬に手を伸ばして、指先が触れた途端ビクッと震えて手を引っ込めた。
「ごめん…っ、ごめん、ティっ、オレのせいでティにこんな怪我…ッ!」
 ほんの軽い気持ちで城から抜け出した。自分の身分を隠す事も考えず、禁じられた事を密かに破るワクワクとした快感にはしゃいでいた幼い王子の目の前に賊は現れた。身を守る術もないままその命を失いかけたハボックを、抜け出したことに気づいて追ってきたティワズとマニがすんでのところで助け出したのだった。
 ボロボロと泣きじゃくる王子に怪我がないか見極めながらティワズが言う。
「若をお守りするのが私の役目。たとえこの命を落としたところで若をお守り出来ればいいのです」
「ティっっ!!」
 ティワズの言葉にハボックがギョッとして飛び上がる。ティワズの腕を掴んでハボックは言った。
「嫌だよッ!!ティが死んだりしたらオレも死ぬからッ!!」
「馬鹿なことを。私の命など若の命に比べたら露ほどの価値もありません」
「ティっっ!!」
 教育係であり、兄とも友とも言えるほど大切に思っている相手の唇から零れた言葉にハボックはワナワナと震える。涙に濡れた空色の瞳を大きく見開いて食い入るように見つめる王子と、それを見返すティワズの間にマニが割って入った。
「言い過ぎだ、ティワズ。若様にとってお前の命が露ほどの価値もないわけないだろう?」
 そう言えばブスッとした顔をするティワズの腕を叩いてマニはハボックに向き直った。
「若様が危険な目にあって、少し気が高ぶってるんですよ、コイツは。大丈夫、若様をおいて死んだりなんて、ティワズがする筈ないです」
「ほ、本当……?」
「本当です。さ、早く城に帰りましょう、若様」
 マニはそう言って幼い王子に手を貸して立たせてやる。ハボックは乱暴に手の甲で涙を拭うとティワズを見上げた。
「……帰りますよ、若」
「うん」
 見上げてくる空色の瞳にひとつため息をついてティワズはそう言うと、ハボックを一緒の馬に乗せ城へと帰っていった。


2010/06/15