光神王国 特等席編


「ティーッ!」
「うわっ」
 バタバタと足音が聞こえたと思えば長椅子で本を読むティワズの膝の上に子供の体が飛び込んでくる。ティワズは咄嗟に読んでいた本を持ち上げて庇ったものの、すぐ脇に置いていた本は王子の襲撃を受けて跳びはねていた。
「若!」
 嗜めるような諌めるようなちょっときつい口調で呼んだが、子供はまるで気にした風もなく長椅子に座るティワズの膝の上に腰掛ける。
「やった!特等席〜ッ!」
 楽しそうにティワズの膝に手をついて体を揺する王子にティワズは呆れたため息をついた。
「若
「なあに?ティ」
 呼べば肩越しに振り向く空色の瞳を見つめてティワズは言う。
「私は本を読んでいるんですが」
「見てたから知ってる。いいよ、オレに構わず読んで」
「若がそこにいたのでは読めません」
 ティワズはそう言うと王子の体を膝から下ろそうとした。だが王子はティワズの膝にしがみ付いて下りようとしない。
「若」
「いいじゃん、座ってるだけ、邪魔しないから」
 そこにいること自体が邪魔なのだと言おうとした時、唇を突き出してハボックが先に言った。
「だって、ティ、成人の儀式済んでからやることがいっぱいあるって言ってオレとちっとも遊んでくれないでしょッ」
 そう言ってギュウと膝にしがみ付く子供にティワズは目を見開く。暫くの間ハボックのことを見つめていたがその金色の髪を撫でると言った。
「読みたい本がありますか?持って来てくださったら一緒に読みましょう」
うんッ、持ってくる!」
 子供は顔を輝かせると膝から飛び降り棚から一冊の本を取って走って戻ってくる。伺うように見つめてくる子供に紅い瞳が微笑めばハボックは嬉しそうに笑って再びティワズの膝に乗った。そうして二人は綺麗な挿絵を指差しながら一冊の本を仲良く読んだのだった。

 そして10年余り後。

「若
「んー?」
 長椅子で書類を読んでいたティワズは自分の膝を枕に本を読み始めたハボックにため息をつく。本を片手にやって来たかと思うとさも当然と言うようにハボックはティワズの膝を枕にして長椅子に長々と寝そべってしまったのだった。
「私は書類を読んでいるんですが」
「うん、気にしないから続けてー」
「私が気にします」
 ティワズがそう答えればハボックは不思議そうに見上げる。
「なんで?」
「えっ、いやその……お互い読みにくいでしょう?」
「そんな事ないよ、いつもの事じゃん」
 ハボックはそう言って本に視線を戻した。ティワズは主を突き落とすわけにも行かず、困ったように顔を顰める。
 そんな二人を見つめる黒い瞳があった。
「フュリー、あの二人、何やってるの?」
「はい?……ああ、ハボックさまとティワズさまですね。ティワズさまの膝は王子の特等席なんです」
「特等席?」
 フュリーが言った言葉を繰り返してロイは眉を顰める。
「はい。お小さい時からずっと。まだ子供の頃はティワズさまの膝に座って、大人になってからはああして膝枕で。本を読んだり話をなさったりするんです」
 微笑ましいお姿ですよねぇ、とうっとりと笑いながら言うフュリーにロイは益々眉を顰めた。
(なんでティワズの膝が特等席なんだッ)
 そう思いながらロイはティワズの横顔をじっと睨む。
(ああ、視線が痛い……
 頬に突き刺さる視線を感じてティワズはため息をついた。
「やっぱティの膝は特等席だよねっ」
 二人の気持ちなど全く気付きもせず、一人能天気なハボックだった。



08/12/10