光神王国 感冒編2


「はあっくしゅんッッ!!」
 顔中が口になったような大きなクシャミをする王子を前に、ティワズは王子のシャツのボタンを嵌めていた手を止めて申し訳なさそうな顔をする。
……やっぱりうつしてしまいましたか」
 そう言うティワズの言葉にハボックはニコッと笑うと言った。
「平気!うつってないもん!きっと誰かがオレの噂してるんだよ、それだけ!」
 ハボックはそう言うと額に手を当てようとするティワズの腕をすり抜けて走っていってしまう。
「若!」
 呼び止める声を無視してハボックは廊下を駆け抜け階段を駆け下りると手近の部屋に飛び込んだ。
「はあ……あぶなかったぁ」
 幼い王子はそう呟くともたれた壁際、ズルズルと座り込む。朝、目が覚めた時からクシャミが止まらず、きっとティワズに風邪がうつったと言われてしまうと心配していたのだ。
「ちょっとクシャミが出るだけだもん。誰かが噂してるとクシャミが出るって言うしっ、あっちこっちで噂してるんだ、きっと」
 子供はティワズにした言い訳を自分に言い聞かせるように呟くと膝を抱えて蹲る。
「なんか寒い……
 そう呟くと抱えた膝に頬を載せ目を閉じた。

「どこに行かれたんだ?」
 ティワズはきょろきょろと見回しながら廊下を足早に歩く。シャツを着せるため触れた体が熱かったように感じた事を思い出して眉を顰めた。
「絶対、風邪だうつしてしまったな」
 王子の必死さに負けて思わず傍に来るのを赦してしまった。体を拭いたりの世話は変わらず女官にさせたものの、薬や水を持ってくるのを頼んでしまった事をティワズは強く後悔した。
「若ッ、どちらですっ?」
 声を上げながら歩いていたティワズは部屋の扉が透いているのに気がつく。もしかして、と扉を押し開けば壁際に蹲る小さな姿が目に入って慌てて駆け寄った。
「若ッ!」
 蹲る体に触れれば燃えるように熱い。ティワズは唇を噛むと王子の体を抱き締めるようにして担ぎ上げた。部屋を飛び出て足早に王子の寝所に向かう途中、すれ違った女官に医者を呼ぶように頼むと王子をベッドに運び込む。発熱する体をそっと横たえ、靴を脱がせると王子の顔を覗き込んだ。
「若……
 幼い主を気遣ってそう呟いた時、医者が駆け込んできてティワズは場所を空けた。

「お薬です、若」
 そう言って薬を差し出せば子供が顔を顰める。紅い瞳を覗き込むように見ると言った。
「苦いからいらない」
「飲まなければいつまでたってもよくなりません、さあ」
 それでも不満そうに唇を突き出したきり手を出さない王子にティワズはため息をつく。
「若。私が具合が悪かった時はせっせと呑ませてくださったでしょう?苦い薬でしたけど若が飲ませてくださったおかげで元気になりましたよ?」
 そんな風に言われるとどうにもこれ以上嫌だと拒みきれず、ハボックは手を差し出すとグラスを受け取った。
「鼻摘んでー、ティ」
 そう言って息を吸い込む子供にティワズはくすりと笑って鼻を摘んでやる。そうすれば慌てて水と薬を飲み込んでハボックはうへぇと言う顔をした。
「よく飲めましたね」
 ティワズはそう言いながらグラスを受け取る。褒められて子供は嬉しそうに笑うと言った。
「これで早くよくなる?」
「そうですね、後はゆっくり眠れば」
 そう言って子供が横になるのを助けてやるとティワズはブランケットを引き上げてやる。
「ティ、手」
 甘えるように差し出される手をティワズはキュッと握ってやった。
「元気になったらかくれんぼしようね」
「はい、若」
 答えて握る手に力を込めてやれば、ハボックは安心したように笑って目を閉じた。


2008/11/19