平行世界 聖夜編


「綺麗っスねぇ」
「ああ、そうだな」
 ハボックが並んで歩くロイに視線を移して言えば、ロイは辺りを彩る煌びやかなイルミネーションを見ながら答える。
「評判通り本当に見事なイルミネーションだな」
 目を輝かせてそう言うロイに、綺麗だと言ったのはイルミネーションの事だけではなかったハボックとしては、ロイの言葉は若干不満ではあったが、ロイの言う事も本当ではあったので敢えて何も言わずにおいた。
 二人は今、最近イーストシティでも評判の高いイルミネーションのスポットへと来ている。クリスマスイブともなればあたりはカップルで混み合っていて、二人も自然、より添うように歩いていた。
「ああほら、あれ、スゲェ凝ってません?トナカイがソリ引いて飛んでるっスよ」
「良く出来ているな、ホントに」
 寄り添いながら目に入る様々なイルミネーションを指差して歩く。そのロイの足が不意にピタリと止まった。
「ロイ?どうかしたっスか?」
 突然立ち止まったロイに、思わず5、6歩先に進んでしまったハボックが戻って来て聞く。ロイは人波の向こうをじっと見つめていたが、顔を輝かせると言った。
「ジャンだ」
「え?」
「ジャンが来てる。ジャーンッ!!」
「えっ、どこ?あ、ちょっと、ロイっ!」
 人ごみを縫って走り出すロイをハボックは慌てて追いかける。ロイの声に一際背の高い金髪がゆっくりと振り向いた。
「やっぱり!ジャンっ!!」
「ロイっ?!」
 飛びつくように走り寄ってくるロイにハボックと同じ容姿を持った男が目をまん丸にして差し出されたロイの手を取る。ハボックより幾分優しい作りのその顔を見上げてロイが言った。
「久しぶり、こっちに来てたのか」
「ロイ。ハボも!」
「ジャン!元気だったか?!」
 走り寄ってきた二人に抱き寄せられてジャンは嬉しそうに笑う。その背後から不機嫌そうな咳払いが聞こえた。
「おい、お前達、気安くジャンに触ってるんじゃないっ」
 その声と同時にマスタングの手が伸びてジャンの腕を掴む。グイと二人から引き離そうとしたその手を、ロイは思い切り抓り上げた。
「イテテッ!!」
 紅くなるほどその甲を抓られて、思わずマスタングは手を離す。そうすればその隙にロイはジャンを引き寄せその金髪を撫でてやった。
「元気にしていたか?そこの阿呆に酷いことされてるんじゃないだろうな」
「そうそう、ほっとくとロクでもないことをするからな、ソイツは」
 ロイの言葉にハボックも頷く。キッと眦を吊り上げるマスタングに宥めるような視線を送ってジャンが答えた。
「大佐はいつだって優しいっスよ、ね?」
 にっこりと笑って言うジャンにマスタングも上げかけていた声を飲み込む。ジャンは嬉しそうにロイとハボックの顔を見ると言った。
「二人もイルミネーション見に来たんしょ?だったら一緒に見ないっスか?」
 迷惑じゃなければ、と言うジャンに二人は頷き合って答える。
「迷惑なわけないだろう?お前がそう言ってくれなければこっちから言うつもりだった」
「そうそう。じゃあ、行こうか、ジャン、ロイ」
 そう言って両側からジャンを抱き込むようにして歩き出す二人にマスタングが怒鳴った。
「おいっ!!私はどうなるんだッ!!」
「別に帰ってもいいぞ。ジャンは私達が面倒みるから」
「そうそう、心配いらないっスから」
 肩越しに振り向いて言う二人にマスタングが頭から湯気を上げる。そんな3人を見やってジャンが困ったように言った。
「四人で一緒がいいんスけど……ダメっスか?」
 首を傾げてそう言うジャンにハボックもロイも顔を弛める。
「ジャンがそう言うなら」
「仕方ねぇな。ジャンがアンタも一緒に、って言ってるっスよ」
「当たり前だッ」
 とりあえず仲間はずれにされずに済んで、マスタングはホッと息をつくとハボックの肩を掴んだ。グイとジャンから引き離されてハボックは不服そうにマスタングを睨む。
「何するんスかっ」
「ロイはまだしもお前がジャンにべったりくっついているのはどうにも我慢がならん」
「はあっ?なんスか、それ!」
「手つきがイヤラシイからな、お前は」
「なっアンタと一緒にするなっ」
 往来でギャンギャンと言い合いを始める二人にジャンが心配そうに肩越しに視線を投げた。だが、ロイは構わずジャンの腕を引いて歩いていってしまう。ジャンは傍らのロイを見下ろすと言った。
「止めた方が良くないっスか?あの二人」
「構わん、ほっとけ。それより寒くないか、ジャン。襟元そんなじゃ風邪を引く」
 ロイはそう言うと自分が巻いていたマフラーを外しジャンの首に巻いてやろうとする。ジャンは慌ててその手を押し留めると言った。
「平気っス。それじゃロイが風邪引いちゃうっしょ?」
「だったらオレのを貸してやる、ジャン」
 そう声が聞こえたと思うと背後からふわりとかけられるマフラーにジャンが驚いて振り向く。そうすればハボックが深い青色のマフラーを手に優しく笑ってジャンを見つめていた。
「オレのをしてろ、な、ジャン」
「え、でも
「何言ってるんだ、私のマフラーをしておけ、ジャン」
 そう言うと青いマフラーの上から臙脂色のマフラーがかけられる。目を丸くするハボックにマスタングが駆け寄ると手にしていた袋から包みを取り出しハボックに突き出した。
「そんなものはいらん。これをしろ、ジャンッ!」
 突然綺麗にラッピングされた包みを突きつけられてジャンは益々目を丸くする。それでも包みを受け取るとそっとそのラッピングを解いた。
「これ
 現れた真っ白なマフラーにジャンは目を見開く。マスタングはジャンの手からフワフワのそれを取ると首にそっと掛けて言った。
「お前にはこれが一番似合う」
「たいさ
 そう言って笑うマスタングにジャンが頬を染めた時。
「バカか、貴様は。こんなに幾つもマフラーを巻いたらジャンが苦しいだろうがッ」
「そう言うロイこそオレのマフラーの上から巻いたくせに」
「煩いヤツらだな。ジャン、そんなマフラーは外して私のだけを巻いておけ」
 口を挟むロイとハボックにマスタングが答えてぎゃあぎゃあと喚きだす。誰のマフラーをつけるかで揉める3人を呆然と見ていたジャンはいつしか見開いていた瞳を細めて笑い出した。
「ありがとう、大好きっ」
 そう言ったジャンの言葉に一瞬言い合いをやめた3人は、次の瞬間その言葉が誰に向けられたものかということで揉め始めたのだった。



08/12/25