| 平行世界 寒修行編 |
| 「うわ……すげぇ滝っスね」 「上の方、凍ってないか?」 ドウドウと音を立てて落ちてくる滝を前にハボックとマスタングが言う。真冬の滝ははらはらと降ってくる雪を従えて側に立つものを凍り付かせようとしているように見えた。 「ここで寒修行するのか……?」 「信じられねぇっス……」 上物のコートにきっちりと身を包んだマスタングと、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで背中を丸めたハボックは、とても考えられないと言う顔で見つめあう。今日、この滝では寒修行が行われる事になっており、それにジャンとロイが参加するというのでマスタングとハボックも一緒についてきたのだ。 「この滝に打たれるんだろう?考えただけでも凍り付きそうだ」 「修行の前に心臓麻痺起こしそうっスよ」 二人はそう言いあって首を竦める。厚着をしているにもかかわらず足下から忍び入る寒気にブルブルと震えていると、足音が聞こえて薄物をまとった一団がやってきた。その中にジャンとロイの姿を見つけてマスタングとハボックは慌てて二人に駆け寄る。声をかければ気がついたジャンがにっこりと笑った。 「あ、大佐、ハボ」 「ジャン!」 マスタングは薄物一枚を纏ったきりのジャンの体をギュッと抱き締める。その空色の瞳を覗き込んで心配そうに言った。 「ジャン、こんな半分凍ったような滝に打たれたら心臓麻痺を起こしてしまう。やはりやめた方がいい」 「そうっスよ、ロイもこんな馬鹿げた修行はやめましょう」 マスタングが言えば珍しくそれに同調してロイを抱き締めたハボックが言う。だがロイはハボックの腕を振り解いて言った。 「馬鹿げたとはなんだ、毎年一般の人も大勢参加する由緒ある修行なんだぞ。冷たい滝に打たれて煩悩を払うんだ」 「アンタ、払わなきゃならんほど煩悩なんてないっしょ?だいたい寒がりの癖になんで寒修行なんスか」」 なんとかやめさせようとしてハボックが言う。それにムッとしてロイが言い返す前にジャンが笑みを浮かべて言った。 「大丈夫、ちゃんと事前に健康診断も受けてるし。心配しないで、大佐、ハボ」 ね?と首を傾げて言うジャンにマスタングとハボックが顔を見合わせる。その時、主催者が呼ぶ声がして、ジャンとロイは心配性の恋人の腕から抜け出して言った。 「時間だ、行ってくる」 「行ってきます。見ててくださいね、大佐」 「ちょ…ロイっ」 「あっ、おいっ!」 止める間もあらばこそジャンとロイは手を取り合って行ってしまう。順番に並んで楽しそうに言葉を交わしている二人を今更止めることも出来ず、マスタングとハボックは他の見学者と一緒に滝のすぐ側に立った。 「大丈夫っスかね」 「滝から出たらすぐに暖めてやらねばッ」 心配そうに二人が見守る中、ジャンとロイの順番がきて滝壺へと入っていく。音を立てて降り注ぐ冷たい水の中にジャンとロイが立った。すると。 胸の前で指で印を組む二人の頭上から降り注ぐ水が薄物を纏った体を瞬く間にずぶ濡れにする。そうすれば白い布地がぴったりとまとわりついて体の線をくっきりと浮き立たせた。 「……おい」 それを目にしたマスタングが傍らのハボックに低く言う。 「あれは煩悩を払うというより、周りに煩悩を引き起こしてないか…?」 「オレもそう思うっス」 そう言って周りを見回せば、案の定周囲の男どもが色めき立っているのが目に入って、マスタングとハボックは目を吊り上げた。 「アンタ、発火布持ってないんスかっ?」 「生憎だが軍服のポケットの中だ」 「使えないオヤジっスね」 「なんだとッ」 思わずカッとしかけてマスタングはそんな場合ではないということに気づく。 「おい、ここはやはり」 「仕方ないっスね」 二人はそう言って頷きあうと上着を脱いで地面に置いた。二三度深呼吸して息を整えると。 「ジャンーッ」 「ロイッ」 不届きな男どもの視線から大事な恋人を守るべく、マスタングとハボックはザバザバと滝壺に飛び込んだのだった。 2010/02/08 |