平行世界


「いきなり来たらロイさん、ビックリするだろうな」
 大きな花束を抱えてビリーはそう呟く。今ビリーが歩いているのはアメストリス国軍東方司令部の廊下。一般人である筈のビリーは顔パスで司令部の入口を潜り抜け、憧れのあの人がいるはずの司令室へと向かっているところだった。あの角を曲がればもうすぐ会える。そう思ったビリーの顔がますます嬉しそうにふやけた時。
 グラリと地面が揺れた。
「えっ?」
 地面ばかりかあたりの景色もグラリと揺れる。揺れた景色がグニャリと歪んだかと思うとあたりを眩い光が覆い。
「うわっ!」
 そのあまりの眩さにビリーは咄嗟に腕で顔を覆う。暫くして腕を外せばあたりは何事もなかったように忙しげに歩き回る軍人達の姿があるだけだった。
「…なんだ?」
 そう問いかけたものの答えてくれる相手がいる筈もなく、ビリーは暫くの間その場に立ち竦んでいたが緩く頭を振って歩き出す。「なんだったんだろう」と疑問に思いはしたが、司令室の扉を前にした途端そんなわけのわからない事象はビリーの頭から綺麗に消し飛んでしまった。
「こんにちはっ」
 勢いよく司令室の扉を開ければ中で仕事をしていた面々が一斉に顔を上げる。づかづかと許可も得ずに入っていくとブレダが眉を顰めた。
「おい、ここは花屋が来る様な所じゃないぞ」
 そう言って立ち上がるとビリーの前に立ちはだかる。ビリーはブレダを見下ろすと言った。
「やだなぁ、ブレダ。冗談きついよ。それとも久しぶりに会ったからイジワルしてんの?」
「はあ?馴れ馴れしいな、お前。冗談言ってるのはそっちだろう?」
 いいから出て行けと押し出そうとするブレダにビリーはムッとする。
「なんだよ、俺がロイさんに会いに来たのが気に食わないわけ? いつからジャンの味方になったんだよっ」
「ロイさんっ? って、大佐のことか? お前、大佐のファン?」
「ファン〜っ?! 俺はロイさんの恋人になる男だぜ、ブレダ。」
「こ、恋人っ!そりゃお前、ちょっとハボに似てっけど、それはありえないだろうっ!」
「なんだよっ、ありえないって決め付けんなっ」
 ぎゃあぎゃあと二人が言い合いを続けていると執務室の扉が開いてロイが顔を出した。
「やかましいな、何を騒いでいるんだ」
 懐かしいその声にビリーはパッと顔を輝かせる。ブレダを押しのけてロイの前に出ると言った。
「ロイさんっ、お久しぶりで――」
 嬉しそうにそう言いかけたビリーは目の前のロイの顔に言葉を飲み込む。目を見開いてジッと見つめたビリーは、やがて震える声で言った。
「アンタ、誰…?」
「は? ロイ・マスタングだが」
 そう答えてしまってからロイは思わず眉を顰める。失礼なことを言う相手に何か言おうと口を開く前に、ビリーがふるふると首を振った。
「嘘だっ、アンタがロイさんのわけがないっ!」
 突然そう喚く金髪の男にロイはムッと顔を顰める。
「失礼なヤツだな、私がロイ・マスタングな訳がないとはどういうことだ!」
「だって、だって俺のロイさんはこんないけ好かないオヤジみたいな顔してない…っ」
「なっ…?!」
 あまりといえばあまりの言い草にロイが目を剥いた途端、ビリーの口から叫び声が上がった。
「ちきしょうっ、俺のロイさんをどこへやったんだーーーっっ?!」
 そう喚いてロイの襟首をガシッと掴むとビリーはゆさゆさと揺さぶる。突然の事に目を白黒させるロイと喚きたてるビリーを見つめながら、ブレダ達は呆気にとられていたのだった。


2008/05/13



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