究極神話異聞


「くそっ、なんて頑丈な奴なんだっ!」
 ブレダが剣を振り下ろしながら叫ぶ。ハボックの魔法で出来たシールドで敵の猛攻をかわしながらホークアイが言った。
「まったく、キリがないわね」
 時間をかければ倒せない敵ではないがこちらも生身の人間。長時間の戦闘は次に響く。ハボックは唱えていた呪文を一時中断して言った。
「彼の力を借りますっ!みんな下がってっ!!」
「判った!」
 ハボックの意図を察してブレダとホークアイが後方へと下がる。ハボックはそれを目の端で捉えるとスカーフを巻き付けた手首にもう片方の手を翳した。そうすればスカーフの下の烙印が光を放ち秘石がゆっくりと現れる。ハボックは目映い光を放つ秘石を両手で包み込むと空に向かって突き上げた。
「スピットファイヤーッ!!」
 それと同時に秘石に刻み込まれた召喚獣の名を呼ぶ。突き上げた秘石から空に向かって一条の光が走り、雲の間から何者かが一直線に地上に向けて降りてきた。降りてきたそれはくるりと一回転して地面に舞い降りる。長いマントを羽織って銀色の鎧をつけた黒髪の美丈夫に向かってハボックは言った。
「よろしく頼みますッ!」
 言うと同時に片手で倒すべきモンスターを指さす。だが、黒髪の召喚獣はモンスターに向かうどころか大欠伸をして座り込んでしまった。
「ちょ……スピットファイヤーっ!!何してるんスかっ?!」
「……その名前は嫌いだ。ロイと呼べと言っただろう?」
 スピットファイヤーと呼ばれた美丈夫の姿をした召喚獣は嫌そうに顔を顰めて言う。突然現れた召喚獣を警戒してこちらの様子を伺っているモンスターをチラチラと見ながらハボックは言った。
「……ロイっ!座ってないでアイツ等やっつけて下さいよッ!」
「なんで私が」
「その為に呼んだんでしょうがッ!!」
 まるでやる気のなさそうな召喚獣にハボックは目を剥く。だが、ロイは座り込んだ脚に肘をついて言った。
「別に私が手をかさんでもお前たちだけで何とかなるだろう、あれくらいの奴ら」
「ならないから呼んだんスよっ、ちゃっちゃとアンタの焔でやっつけて下さいよ」
「……疲れるからヤダ」
「ロイっっ!!」
 いくら言っても腰を上げようとしないロイにハボックはズカズカと歩み寄る。その端正な顔を睨みつけるように見上げていたがため息をついて言った。
「判りました、今度アンタの好きなオレンジのシフォンケーキ作るっスから、力貸して下さいっ」
「オレンジのシフォンケーキ?」
 ハボックの言葉にロイは背を伸ばして聞き返す。こくこくと頷くハボックにニヤリと笑ってロイは立ち上がった。
「いいだろう、力を貸してやる。そのかわりシフォンケーキ、忘れるなよ」
「勿論っス」
「なに、あんなモンスター私にかかれば一発だ」
 ロイはそう言って地獄の業火を繰り出すべく手を振り上げる。その手が空気に溶け出すように輪郭を失いつつあるのに黒い目を見開いてロイは言った。
「すまん、タイムリミットだ」
「えっ?!」
「力になれず悪かったな、後は自分たちでなんとかしてくれ」
「ちょ……っ、ロイッッ!!」
 慌てて引き留めようとハボックが伸ばした手の先で、輪郭を失ったロイの体が小さな光の珠になって空へと飛んでいく。それを呆然と見送ったハボックの側へ、後方へ下がっていたブレダとホークアイが駆け戻ってきて言った。
「まぁたまともに働かなかったんだな、あのクソ召喚獣ッ!」
「ごめん……」
 ダメージを最小限にとどめて敵を一掃するつもりが全く変わらぬ戦況に、ハボックは小さく身を縮める。敵に向かってピタリと剣を構えたホークアイがボソリと言った。
「この戦闘が終わったらもう一度呼び出して頂戴。私がきっちりシメてやるから」
 そう言って自前の冷気を身にまとったホークアイがモンスターを瞬殺するのを見て、震え上がるブレダとハボックだった。


2010/03/15