nails


「ハボック、爪を切ってくれ」
 仕事が終わって遅めの夕食を一緒にとって、ソファでそれぞれにくつろいでいると大佐がいきなりそんな事を言った。
「はぁっ?何様ですか、アンタ」
 どこかの王様じゃあるまいし、爪くらい自分で切ってほしい。それでも立ち上がって引出しから爪きりを取って渡してやる。
「はい、自分で切ってください」
 爪きりを差し出すオレをソファに寝そべったままだるそうに見上げると、片手を差し出してひらひらさせた。
「切って」
「アンタねぇ…」
 どうしてこう、我がままなんだか。しかも寝そべったままでオレに爪を切れなんて、怠惰にもほどがある。
「爪くらい自分で切れるでしょう、いい大人のくせして」
 切ってやるのは簡単だが、甘やかすと碌なことがないのは判っていたので、オレは敢えて繰り返した。すると、ひじを突いて体を起こしてじっとこちらを見つめてくる。
「…切ってくれないのか…?」
 ひどく傷ついたような目をして小さく呟くから。
 どうしてオレってこう、この人には甘いんだろうと思いつつ、ソファの下に座り込んで彼の手をとった。
「もう、今回だけっスからね」
 そう言って、一本ずつ指をとり、パチンパチンと爪を切っていく。
 節の目立たないその指は男にしてはほっそりしている。でもこの指が敵を焼き尽くす焔を生み出すのをオレは知っている。
 綺麗な指から生み出される綺麗な焔。
 初めてその焔を見た瞬間から目をそらせなくなった。この綺麗な指を、苛烈な色を宿す瞳を、誰にも傷つけさせたくなくて、触れさせたくなくて。
 最後の一つを切り終わって、ふと彼を見ればゆっくりと指を絡めてきた。思わず握り返して腕を引いて、ソファから自分の上に引きずりおろした。そのまま優しく抱きこんで、その唇を塞ぐ。何度も口付ければ甘い吐息がこぼれた。
「…高い爪きり料だな…」
 と呟いて、それでもまた口付けてくる。そんな仕草に止まらなくなる自分を感じて、強く抱きしめた。
「この手、オレにください…」
 思わずこぼれた言葉に自分自身驚いた。
 そんなオレを黒く濡れた瞳が見つめて。
「この手の爪を切るのはお前だけだろう?」
 囁きとともに口付けが降ってくる。
 細い体を思い切り抱きしめて、今この幸せを噛み締めた。


2006/04/30


子供に言われた「ママー、爪切って〜」の一言から生まれたSS。現実とは似ても似つかない甘々な世界だわ…。