the day before 2


 忙しくて買出しに行く暇もなかったので冷蔵庫の中にはろくな物がなかった。それでもありあわせの物でパスタとサラダとスープを作り、食事を済ませた。手早く片づけを済ませ、ハボックはソファで本を開いているロイのところへコーヒーを持っていく。
「どうぞ」
 とハボックが差し出したコーヒーを受け取るとロイは読んでいた本を閉じた。
「あ、と…。その、すんません」
 と向かい側に腰を下ろしたハボックがぼそぼそと言うのにロイが視線で問いかけると、ハボックは小さな声で「ソファ」と呟いた。言われてロイは自分が座るソファを見下ろしてそこに転々とのこる染みに気がついた。ハボックに目をやれば極まり悪そうに目をそらしている。そんなハボックににやりと笑ってロイは立ち上がるとテーブルを回ってハボックの側に行き、その足元に座り込んだ。そうしてその筋肉に包まれた長い脚を撫で上げてやるとハボックが慌ててロイの腕を掴んだ。
「…っ!アンタは、また…っ」
「嫌なのか?」
 真っ赤になって自分を留めようとするハボックにロイは問いかける。思いがけず真剣な表情にハボックは言葉に詰まった。
「嫌って訳じゃ…」
 優しく抱いてやりたいのだ。なのにロイに煽られるとどうにも抑制がきかなくなる。自分が理性も何もない獣のように感じられていたたまれないのだ。ロイ自身がそれを望んでそうなるように仕向けているとはハボックには思いもよらない。
 まだ理性が勝っているハボックの様子にロイは内心舌打ちすると立ち上がってハボックの腕を引いた。
「大佐?」
「風呂」
「へっ?」
 素っ頓狂な声を上げるハボックを半ば強引にバスルームへと連れて行く。最初は何を言われたのか理解していなかったハボックがロイの意図を察して必死にその腕を振りほどこうとした。
「待って待って待ってっ、た、たいさっ」
 真っ赤になってロイを押し留めようとするハボックをロイは思い切り眉間に皺をよせて睨んだ。
「ベッドに入れば好き勝手してくるくせに何をいまさら騒いでるんだ、お前は」
 露骨にそう言われて思わず言葉に詰まるハボックをバスルームに押し込んでロイはさっさと服を脱いだ。脱衣所の壁に張り付いたままロイから視線を逸らせずにいるハボックにロイはふんっと鼻をならして浴室へと消えていく。ハボックは小さくため息をついて、それでものろのろと衣服を落とすとロイの後を追って浴室へと入っていった。


「ぅわっぷっ!!」
 中に入った途端、顔目がけてシャワーを浴びせられる。手で降り注ぐお湯を遮って指の隙間から覗けばロイが楽しそうに目を輝かせてハボックにシャワーを向けていた。
「この…っ」
 性悪猫っと呟いてハボックはシャワーを持つロイの手首を押さえ込んでシャワーのコックを捻った。
「なに子供みたいなことやってるんスか」
 いい年して、と続ければ頭からシャンプーを振りかけられた。
「わっ!」
 目に入ったと騒ぐハボックを無理やり椅子に座らせるとロイは上からシャワーをかける。
「大佐?」
「洗ってやる」
 そう言って改めてシャンプーを手に取るとゆっくりと泡立ててハボックの髪を洗っていく。思いがけず優しいその手つきにハボックは小さく息を吐いて目を閉じるとロイが洗うのに任せた。
「気持ちいいっス…」
 ため息とともに言葉を吐き出せばロイが背後でくすりと笑う。綺麗に洗い上げてシャワーで泡を流してやるとハボックは頭をぶるぶる振って滴を飛ばした。
「犬か、お前は」
呆れたように言うロイに
「じゃあ、交代」
 と、ハボックは立ち上がって代わりにロイを座らせた。湯で髪を湿らせるとシャンプーを泡立てて大きな手でわしわしと洗っていく。マッサージするように頭を洗われてロイはホッと息をついた。
「上手いな」
「そうっスか?」
「軍人やめて理容師にでもなれ」
「それって軍人として使えないヤツってことっスか?」
 ひでぇとわざとらしくぼやいて見せれば
「専属で雇ってやるぞ」
 とロイが答えた。くすくすと笑いながらハボックはシャンプーを洗い流した。湯をかけられて俯くロイの背中を滴が滑り落ちていく。その滴を辿るように思わず指を滑らせばロイの肩がぴくりと跳ねた。湯を出したままのシャワーをホルダーに掛けて肩越しに振り向いたロイに口付ける。無理な体勢に苦しげに身を捩るロイに構わず体重をかければ二人共々床に倒れこんでしまった。咄嗟にロイの頭に手をやって打ち付けないように庇ってやったものの上からハボックに圧し掛かられてロイは小さく呻いた。自分に圧し掛かる相手を見上げれば降り注ぐシャワーを頭から浴びてぽたぽたと金色の滴を落としながらこちらを見下ろしている。いつもより深い蒼に染まったその瞳に射竦められてぞわりと背筋を快感が駆け抜けた。落とされる口付けを受け止めてロイはその金色の髪に指を絡ませ更に自分に引き寄せた。ハボックの手が体を弄るのに合わせて急速に中心に熱が集まるのを感じロイは無意識に腰をハボックに摺り寄せた。そんなロイにハボックが小さく笑ってロイ自身に手を掛けたのとロイがハボック自身に手を伸ばしたのがほぼ同時だった。お互いを高めあいながら深く口付けを交わす。荒い呼吸を飲み込みながら無我夢中で互いを貪った。もうほとんど達するかと思った瞬間、ハボックがロイの体を引き離した。
「な、んで…っ」
 ロイが不満げに睨みつけてくるのにハボックは口付けて
「アンタの中に出したい…」
 と囁いた。瞬間目を瞠ったロイだったが目元を染めてハボックの耳元に唇を寄せた。
「なら、早くしろ…」
 挑戦的に囁かれてハボックはうっすら笑うとロイを立たせて後ろを向かせて壁に手をつかせた。突き出させた双丘を手で押し開くようにして滾る自身を埋め込んでいく。ロイが息を吐いて圧迫感を逃そうとするのを感じながら、ハボックはロイの乳首を乱暴に捏ね上げた。
「ああ…っ」
 背を反らすロイの肩口に甘く噛み付くとハボックを咥え込んだ部分がぎゅっと収縮する。その刺激を目を瞑ってやり過ごすとハボックはロイの腰を押さえ込んで乱暴に突き上げた。
「はっ…、あ、あぁ…っ」
 肌に当たるシャワーの滴さえも快感に変わっていく。腹に着くほどそそり立った自身に触れて欲しくてロイはハボックの手を取ると自分の中心へと持っていった。ハボックの大きな手に包み込まれて快感に唇が震える。
「ハボック…」
 流し目を呉れて行為を促すロイを焦らすようにハボックはロイ自身をその手で包み込んだままロイの首筋に唇を寄せた。
「ふっ…ァ…っ」
 ハボックの手の中でロイ自身がびくりと震える。ロイが焦れてハボックの手にそれを擦り付けるのにハボックのそれがロイの中で質量を増した。
「あ…っ、や…、大き…っ」
 熱い塊に内から押し広げられる感覚にロイが喘いだ。内側からぐずぐずと熔けていくような感覚に立っていることが覚束なくなって行く。ハボックと繋がっている部分に支えられようやく壁に縋って立っていたロイだったが、なかなか決定的な刺激が与えられないことに不意に涙が溢れてきた。
「お前…っ、な、んで…っ」
 ぼろぼろと涙を零しながらハボックをなじるロイに愛しさが込み上げていく。ロイの腰に手を当てるとハボックは激しく抽送を始めた。
「い…っ、ああ…っ」
 後ろから深く抉られる感覚にロイは必死に壁に縋りつく。
「たいさ…っ」
 ハボックの熱に内側を濡らされる感触にロイも自分の熱をほとばしらせていった。


「大丈夫っスか?」
 ベッドに横たえられ冷たいタオルを額にあてられてロイはホッとため息をついた。
「…のぼせた…」
 ぼそりと呟けばハボックが苦笑する気配がした。
 目を開けて睨みつけると慌てて目を逸らすハボックに小さく舌打ちする。ハボックはあやす様にロイの髪を撫でると背中の下に手を入れてロイの上半身を起こし、傍らのコップを差し出した。
「飲めます?」
 問われて黙ってコップを受け取ると中身を飲み干す。
「お前は大丈夫なのか?」
 空になったコップを手渡しながら問えば
「あー、ちょっとまぁ…」
 などとハボックは言葉を濁して答えた。体を横たえられるままにロイはハボックの腕を引いて自分に引き寄せる。ハボックは困ったような笑みを浮かべてロイの横に手をついて倒れこまぬように体を支えた。
「ダメです…」
 そう言われてロイの瞳が曇る。
「オレ、今日は歯止めが効かないっス。これ以上触られたらアンタのことめちゃくちゃにしちまいそうで。こんなにアンタに飢えてたなんて自分でもどうしていいのか分からないくらいで」
 だからダメですというハボックにロイは一瞬目を瞠ったがすぐうっすらと微笑んでハボックの首に腕を回した。
「私が望んでも、か?」
「大佐…」
「お前だけが飢えてるわけじゃない」
 引き寄せる腕に力を込めて唇を合わせる。
「お前をよこせ」
 口付けとともに囁かれてハボックはロイの上に覆いかぶさっていった。


2006/6/3


だいぶ前に書いたヤツだったんで内容忘れてましたが、読み返して思わず「ああまた、ロイの誘い受って言われる」って思いましたよ(涙)好きなんだな、きっと、こういうシチュが…(←他人事のように言うな!)やはりワンパから脱却せねば〜〜(滝汗)