煙草


「大佐、この書類にもサイン下さい」
 そう言いながら執務室に入ってきたハボックの声はひどく掠れていた。
「…なんだ、風邪か?」
「あー、そうみたいっスね」
 間の抜けた返事を返すハボックは相変わらず煙草を咥えている。風邪を引いて喉を痛めているのなら吸わなきゃいいのにとロイは眉間に皺を寄せた。
「煙草は喉に悪いんじゃないのか?」
「大丈夫っスよ。オレにとって煙草はむしろ薬みたいなもんです」
 しゃあしゃあと言って煙をふかしている。ロイはどうにも気に入らなくて小さく指を鳴らした。
「あちっ!」
 ハボックが咥えていた煙草が一瞬で燃え尽きて床に落ちた。
「何するんスか!?」
「治るまで煙草はやめろ」
「アンタに指図されるいわれはないっス」
「上官命令だ」
「ええっ?!いくらなんでもそりゃ横暴ってもんスよ!!」
 命の次くらいに大事な煙草を禁止されてハボックは思いっきりごねた。
「ポケットの中のも置いていけ」
「えーーっっ!!」
「持っていれば吸いたくなるだろうが」
 置いていかなければ燃やすぞと言われてしぶしぶ煙草を出すと机の上に置いた。
「…なんか具合が悪くなったような気がするっス…」
 がっくり肩を落として呟くハボックに思わずロイがくすりと笑うと、恨めしげに睨まれた。
「それに、口が寂しいし」
「飴でも舐めていればいいだろう」
 そう言いながら書類に伸ばそうとしたロイの手を絡め取って、ハボックはぐいとロイを引き寄せた。
「もっと甘いものがいいっス…」
 そう囁いて唇を合わせた。
「んん…っ」
 腕を突っ張って離れようとするロイを腕の中に封じ込めてその唇を貪る。舌を絡めて口中をまさぐって長い長い口付けを交わせば、ロイの体から力がぬけて膝からくだけそうになった。
「はあっ…っ」
 ようやく唇を離されてロイはハボックの腕にすがるようにして自分を支える男を睨んだ。
「…お前な…」
「大佐が煙草を吸うなっていうんスから責任とってくださいよ」
 そう言って再び唇を合わせる。逃げようにも強い腕はびくともしない。
 ロイはハボックから煙草を取り上げたことを心底後悔しながら、ハボックのなすがままに口付けを交わした。


2006/5/12


ありがちなネタですが。喫煙吸う人って何があっても煙草、やめないと思うんだけど、どうでしょう。