| 彗星 |
| 司令部の扉をあけて入っていけば、そこには新聞を囲んでワイワイ話し合っている部下達の姿があった。 「何か面白い記事でも載ってるのか?」 と問えば 「今晩、彗星が最接近するらしいんですよ」 とフュリーが答えた。 「みんなで見に行こうって相談してるところなんです」 そういえばニュースでそんな事を言っていた。仲の良い連中のことだ、きっと酒でも飲みながら空を見上げるつもりなのだろう。 「大佐は夜勤ですか?」 と聞いてくるので「ああ」と答えると 「じゃあ一緒に行けませんねぇ…」 などと残念そうに言ってくれた。一緒になって新聞を覗き込んでいたハボックが、タバコをくゆらせながら近づいてきた。 「お前も行くのか?」 と聞けば 「そうっスねぇ…」 といいながら頭を掻いている。 「まぁ、風邪をひかんようにして楽しんで来い」 少し寂しい気持ちを押し隠して、ハボックの肩を叩くと執務室の扉を開けた。 今夜は街の人々も静かに星を見上げているのだろうか、特に事件もないまま時間が過ぎていく。いつも騒がしい司令部の連中がいない夜は、しんと静まり返ってやたらと部屋が広く感じられた。 そろそろ書類に向かうのも飽きて何か飲もうかと思ったが、自分で淹れるのも面倒でペンを投げ出して椅子の背にもたれかかる。その時、おざなりなノックとともに見慣れた金髪が部屋の中へ入ってきた。 「ハボック」 「ちゃんとサボらずに仕事してたっスか?」 人の顔を見るなり失礼なことをいうハボックを睨みつければ 「差し入れっス」 と持っていた袋をあげて見せた。 「コーヒーとサンドイッチ。いるでしょ?」 「ちょうど何か飲みたいと思っていたんだ」 寄越せと手を差し出すと 「屋上に行きません?」 と言う。 「屋上?」 「彗星、見られるかもしれませんよ」 そう言われて、そういえばと思い出した。 「お前は一緒に行かなかったのか?」 「ブレダたちは行ったみたいっスけどね」 そう言いながら部屋を出て行くので、仕方なく席を立って後に続いた。 屋上の扉を開けると冷たい空気が肌をさした。 「うわぁ、流石に寒いっスねぇ」 そう言いながら歩くハボックの背をを見ながら、扉の所から入れずに立ち止まった。 「どうしたんスか?」 ついて来ない私をいぶかしんでハボックが振り向く。 「…寒い…」 と言うと、 「しょうがないっスねぇ」 と言いながら手にしていた毛布を広げて巻きつけてくれた。 「用意がいいな」 「どうせ文句いうと思いましたからね」 憎まれ口を叩くのにすねを蹴飛ばしてやって冷たい空気の中へ入っていった。 「南西の方角って言ってたからこっちの方っスかね」 そう言って屋上の隅の方へ歩いていく。段差に腰掛けて手招くので近づいていき、隣に腰をかけた。見上げればたくさんの星が瞬いていた。 「街中でも結構星が見えるもんだな」 そういう私に「そうっスね」と頷いて、ポットのコーヒーを注いで差し出してきた。 「はい、熱いから気をつけてくださいね」 受け取って口をつけたそれは私の好みに合わせて砂糖とたっぷりのミルクが入っていた。 「もう一つポットがあるのか?」 と聞くと不思議そうな顔をするので 「ブラックだろう、お前は」と言うと、「ああ」と言って 「今日はアンタにあわせようと思って」 と目を細めて笑うのでなんだか落ち着かずに目をそらした。 「彗星どのへんですかね」 と言う声に振り向いて、その視線を追って空を見上げる。 「肉眼で見えるのか?」 「うまくいけば結構街中でも見えるらしいっスよ」 そういいながら二人して暫く空を探したが目当ての彗星はなかなか見つからなかった。くしゅんと小さくクシャミがきこえて傍らのハボックを見やれば、寒そうに肩を抱いている。 「お前の分の毛布は?」 「一枚しか持ってこなかったっス」 そういいながら鼻をすすっているのを見て、ため息をついて毛布の片端をあげてやった。 「入れてくれるんスか?」 「仕方ないだろう」 と言えばいそいそと毛布の中に入って、肩を抱いてきた。 コーヒーをすすりながら夜空を見上げているとハボックが小さな声で言った。 「3回願い事を言うとかなうんでしたっけ?」 「…それは流れ星じゃないのか?」 可愛いことを言うハボックに間違いを指摘すれば、残念そうな顔をする。ふとその願いを知りたくなって問いかけた。 「えー、いや、アンタの願いがかないますようにって言おうかと思ってたんスけどね」 でも、彗星じゃだめなのかぁなどとぼやいているハボックを見つめるうち、顔に熱が上ってくる。 全く、なんて恥ずかしいことを平気でいうヤツなんだ。聞いたこっちの方が恥ずかしくなって目をそらした。 その時――― 「あっ、大佐、あそこ!」 指差す先に目をやれば、うっすらと尾を引く彗星の姿があった。 黙ったまま暫くその姿を見つめていたが、やがてポツリとハボックが言った。 「よかったっスね、見られて」 「ああ」 と答えてハボックの肩に頭を預ける。柔らかく微笑む気配がして肩を抱く腕に力が入った。 星に私の願いを叶えることなんて出来ない。その願いを叶えることが出来るのはコイツだけだ。 だって、願うのは唯一つ、いつまでも側に居て欲しいということだけだから。 でも、絶対に口にしない。言えばそれは願いではなく、強制になってしまう。 コイツの意思で側に居ることを選んでくれるようそっと願いながら、ずっと星空を見上げていた。 2006/05/01 |
ゴールデンウィークの頃に丁度彗星が見えたんですよね。ニュースで聞いて「ネタっ!」(←こればっかり)って思ったもんで。でも寒くないとイチャイチャできないので寒い季節にしてしまいました。 |