百日紅


「はい、お土産」
 そう言って市内巡回に出ていたハボックがロイの執務室の机に置いたのは、ふわふわとした綿菓子のような真っ白い花がいっぱいについた大ぶりの枝だった。
「なんだ、これは?」
 山のような書類にこれでもかこれでもかとサインを書きまくっていたロイはこれ幸とばかりに手を止めて、目の前に立つ背の高い男を見上げた。
「百日紅っスよ」
 知りませんか?とのんびりと問う相手をむっとして睨みつけて
「百日紅ぐらい知ってる。どうしてそれがここにあるのかと聞いてるんだ」
 と返せば、ああ、とうなずいて
「巡回の時、川沿いの道を行ったんですがね、百日紅の花が満開になっていて木の下に立つとまるで雲に手が届いてる気分になったんスよ」
 青空の下でそれはそれは綺麗だったのだと、楽しげに話すハボックを見て、ロイはなんとなく面白くなかった。
「で、まさか折ってきたのか?」
 軍服を着た大男が枝を折ってきたとなれば、市民から苦情が出かねない。
「まさか」
 ハボックはさも心外だとばかりに目を瞠ると言葉を続けた。
「昨日は雨風がすごかったじゃないスか。枝が何本も折れちゃってて、そのままにしておいても枯れてしまうだけだから貰ってきたんです」
 綺麗でしょ、とかざして見せるのに曖昧にうなずいていると
「ホントはアンタも連れて行って見せてあげたかったんスけどね、仕事サボりまくって中尉に監禁状態にされてるから」
 でも、とても綺麗だったのでやっぱり見せてあげたくて持ってきたのだと言う。
 そうして優しく見つめてくる視線を感じているうちに、さっきまでのもやもやと面白くないと感じていた気持ちが少しずつ晴れていくのに気が付いて、ロイは小さく舌打ちした。
「それで、どうするんだ、これ」
 照れ隠しに少し乱暴に問いかければ、
「えー、バケツに挿しとくとか…?」
 などと小首をかしげている。
「色気がないな。少し切りそろえれば花瓶に入るだろう」
 だからお前はモテないんだと続けると、ひでぇとぼやきながらハボックは枝を持ち上げた。
「じゃあ、中尉に花瓶出してもらいますよ」
 後でコーヒー持ってきますから、真面目に仕事してくださいね、と釘を刺すことを忘れずに満開の枝を抱えて執務室から出て行く、その白い花の向こうに見える空色の瞳がきっと今日の空の色だとロイは思った。


2006/04/24


家の近所の川沿いに百日紅がたくさん植えられていて、季節になると白やピンクの花が咲いてとってもきれいなんです。これを書いた頃はまだ咲いていませんでしたが百日紅の木の下、空を見上げるハボを書きたくて生まれたお話です。