| pretty boy |
| 「はい、わかりました。お大事に、少尉」 電話を切ったフュリーが何となく怪訝な様子で頭を掻いている。 「どうした、フュリー?」 とブレダが尋ねると 「ああ、はい、ハボック少尉からだったんですけど、今日、体調が優れないのでお休みするそうです」 フュリーが答える。 「なんだよ、風邪か?」 「うーん、はっきり仰らなかったんで良くわからないんですけど。なんかすごい変な声だったんでそうかも知れません」 「変な声?」 「ええ、なんだか子供みたいな声で」 「はあ?アイツが子供みたいな声って、想像つかねぇな」 フュリーとブレダが話しているのを黙ってきいていたロイだったが、ぱんぱんと手を叩く。 「おしゃべりはそこまでだ。ハボックが休みならその分働いてもらわんとな」 ロイのその言葉にブレダたちが声にならない叫びを上げていた。 真面目に仕事をこなしたおかげで定時に上がることができた。ロイは上着を着るのももどかしく司令部の建物を後にした。ハボックのアパートまでの距離がひどく長く感じる。やっと目的の場所まで来るとハボックの部屋がある3階へ一段飛ばしに階段を駆け上がった。先日ハボックから取り上げたスペアキーで扉を開ける。部屋の中は夕闇に沈んでいた。おそらく眠っているであろうと足音を忍ばせて寝室へ向かう。そっと寝室の扉をあけて中を伺えばベッドの上で毛布に潜り込んだ姿が目に入った。 「ハボック?」 小さく声をかけるが応えはない。そっと近づいて毛布を捲くろうとすると中からしっかり毛布を抱え込む気配がする。 「ハボック、起きているのか?」 そう言って毛布に手をかけても顔を出そうとしないのにロイは焦れて、半ば強引に毛布を引き剥がした。 「ダメだっ!」 慌てて引き剥がされた毛布を取り戻そうと身を起こした相手を薄闇の中確認したロイはぎくりと身を強張らせた。 「?!ハボック?!」 一瞬緩んだロイの手から毛布を取り戻すと再び潜り込んでしまう。ロイは立ち上がると扉の横のスイッチを点けた。煌々とした明かりに照らされて闇になれた目が痛みを覚えたがそれに構わずロイは力任せに毛布を引き剥がした。 「―――っ!!」 毛布を奪われてベッドの上の相手は頭を抱えてシーツに顔を伏せた。だがその姿は。 「?誰だ?」 ロイが肩に手を置いて強引に引き起こしたその相手はどうみても11、2歳の子供だった。今にも泣きそうな空色の瞳に短い金髪のその少年はどうみても体に合わないぶかぶかのスウェットの上下を着ている。そのスウェットになんとなく見覚えがあると思った次の瞬間、ロイはまじまじと少年の顔を覗き込んだ。 「…まさか、お前、ハボック…?」 その名前を聞いた途端びくりと体を震わせた少年の口から「大佐」と小さく囁く声が漏れた。 「朝起きたらこうなってたんス…」 ベッドの上で膝を抱えて座り込んだ少年―――ハボックが言った。 「なんでまた…?」 力なく首を振るハボックをロイは上から下までじろじろと眺めた。年の頃はせいぜい11か12だろう。すんなりと手足の長いしなやかな体つきだ。ロイの知るハボックの面影を残すその貌は変わらぬ空色の瞳を湛えていたが、まだ子供の大きな瞳なのが妙に感じる。伸ばした手でその金色の髪をそっと撫でてやるとびくりと体を震わせてロイを見上げてきた。 「何か原因があるはずだ。焦っても仕方がないからな。いずれ思い出すだろうし、とにかく今は腹ごしらえでもしよう」 どうせ朝から何も食べていないんだろう、ときけば小さく頷いた。 「オレ、何か作ります」 そう言ってベッドから降りたハボックのずるずると長い服を見てロイは思わず苦笑した。 「昔からでかかったわけじゃないんだな」 「なんスか、それ」 子供の声で変わらぬ口調なのもなんとなく笑いを誘う。くすくすと笑いをこぼすロイをハボックは軽く睨んだ。 「オレが真面目に悩んでるのに…」 アンタってほんとひでぇとぼやくハボックを後ろから抱きしめた。胸元までしか背のない相手に思いがけず愛しさが湧いてくる。そっとその髪にキスを落としてロイは抱きしめる腕に力を込めた。 「あっ!」 ばらばらとハボックの手からジャガイモが零れ落ちた。慌てて拾い集めるのを手伝いながらロイはちらりとハボックの顔を窺う。 「なんか勝手が違って…」 「私がやろうか?」 とロイが言うと、眉間に皺を寄せて「アンタが?」と返して来る。 「アンタが料理するところなんて見たことないっスけど」 「私だって必要に迫られれば料理くらいする」 「オレが揃えるまでアンタんちにまともに鍋なんてなかったくせに」 自分より背の低い相手にそう言われて思わずロイはムッとした。 「子供の時から可愛げがなかったんだな」 「見かけが子供になってるだけで中身は今のオレっスから」 「せっかく見かけが可愛くなっているんだから可愛く振舞ったらどうだ?」 勝手なことを言うロイにげんなりと肩を落としてハボックはため息をついた。 「アンタね…」 腰に手を当ててこちらを見下ろしているロイを見ているうちひどく落ち込んでくる。それ以上言うのをやめて包丁を手に取った。そんなハボックを見てロイはその手から包丁を取り上げると 「外に食べに行こう」 と言った。 「このなりで?」 ハボックがだぼだぼのスウェットスーツを指差すのにロイは小さく笑うと「待ってろ」と一人アパートを出た。 暫くしてハボックの体に合わせた服を何着か買ってロイは戻ってきた。 「ほら」 と差し出された物に着替えれば大きくもなく小さくもなくちゃんとサイズが合っている。 「よくサイズわかりましたね?」 と感心するハボックに 「さっき抱きしめたからな」 とロイが答える。そんなロイをハボックは目を眇めて眺めると 「エロオヤジくせぇ…」 と呟いた。取り合えずその言葉は聞こえなかったふりでロイは「行くぞ」と立ち上がった。 アパートに程近い定食屋に入る。ハボックに連れられてロイも何度か来たことのある店で二人が入ると「いらっしゃい」と元気な声がかかった。 「マスタングさん、久しぶり」 と定食屋の娘がロイに話しかけてきた。ハボックの方を見ると一瞬目を瞠ってそれからにっこりと微笑んだ。 「わあ、こちら、ハボックさんのご親戚?ハボックさんそっくりね!」 そう言われてハボックはどう答えていいかわからず俯いてしまう。そんなハボックに苦笑するとロイは 「まぁそんなところだ」と答え、本日のおすすめを注文した。 暫くして食事が運ばれてきて食べ始めたものの流石に食欲がわかないのかハボックは徒にフォークで突いている時間の方が長かった。そんなハボックを見つめてロイはこっそりため息をつくと取り合えず自分の食事に集中した。 食事が終わって一度アパートに戻るとロイはハボックに言った。 「取り合えず必要なものだけ持って私の家へ行こう」 「でも…」 「ここにお前一人で置いておくわけには行かないからな。用意ができたら行くぞ」 有無を言わさぬロイの言葉にハボックはのろのろと荷物をカバンに詰めた。これからどうなるのかと考えると不安に押しつぶされそうになる。くじけそうになる心を戒めるようにぐっと握った手をロイの手がそっと包み込んできた。ハッと顔を上げるといつもと変わらぬ強い瞳。 「大丈夫だ」 そう言って握る手に力を込める。そんなロイにハボックは小さく微笑んだ。 一晩経っても何も変わらなかった。相変わらずハボックは少年の姿のままで、変わらない己の姿にひどく落胆しているのがロイにも良くわかった。今日もロイは通常勤務だったし、この状態のハボックを司令部に連れて行くわけにも行かず、ロイは後ろ髪を引かれる思いでハボックを家に残して出勤することとなった。 「いいか、絶対に外に行くなよ。わかっているな」 目を離したらどこかに行ってしまいそうな、そんな気がして堪らない。そっと手を伸ばしてその金色の髪を撫でてやれば揺れる瞳が見返してきた。その額にそっとキスを落としてロイは家を出た。 仕事をしていてもポカミスばかり。いい加減ホークアイが呆れたため息を漏らした。 「大佐、今日はもう上がっていただいて結構です」 定時にはまだ間があるというのにそんな事をいわれる始末だ。流石のロイも拙いと思ったが、どうにも集中できないこの調子ではこれ以上続けていても回りに迷惑なだけなのは言わずもがなだった。 「すまんな、中尉」 素直に謝意を表せばホークアイが苦笑する。 「今日は仕方ありませんが、一刻も早く回復していただかないと困ります」 そう言って一呼吸置き、 「私どもで出来ることがあれば何なりと仰って下さい」 そういうホークアイにロイは一瞬目を瞠り、それから困ったような笑みを浮かべた。 「ありがとう。もし、そうなったら真っ先にお願いする」 そう言ってロイは席を立った。 家に戻るとハボックの姿が見当たらない。慌てるロイの耳に庭先からの物音が届いた。急いで庭に回ってみるとハボックが台の上に立って不安定な姿勢のまま洗濯物を取り込もうとしている。 「ハボック」 後ろから声をかければ慌てて振り向いた拍子に台から落ちそうになった。 「あっ」 慌てて駆け寄ってその体を支えてやる。その体の軽さに今のハボックの状態を改めて認識させられた。 「洗濯なんてしてたのか」 抱えた洗濯物を持ってやりながら尋ねるロイに 「これくらいしか出来ないから」 とハボックが答えた。俯く顔に手をかけて仰向かせるとその空色の瞳を覗き込む。 「バカが」 そういうロイにハボックが辛そうに顔を歪めた。そのまま無言で家の中に戻る。黙ったまま洗濯物を片付けるハボックを窓辺に立って見ていたロイは徐にハボックに声をかけた。 「何か思い出したことはないか?なんでもいい、前の日にあったこととか、誰と会ったとか」 そう問われてハボックは僅かに眉間に皺を寄せて考え込んだ。 「普段会わない人に会ったとか、口にしたことのないものを食べたとか、何かないか?」 ロイの言葉に考え込んでいたハボックだったが次の瞬間目を見開いてロイの顔を見つめた。 「そういえば思い出しました。前の晩、小隊の連中と呑みに行ったんスけど、その時見たことのない酒が出てきたんです。 なんかどっか東の国の貴重な酒だとかで、滅多に手に入らないからとかなんとか」 「飲んだのか?」 「勧められたんで、つい。別におかしな味もしませんでしたし」 「他に飲んだヤツはいなかったのか」 「……多分オレだけだったと思います」 そこまで聞いてロイは苛立たし気に眉を顰めた。 「なんでそんな得体の知れないものを飲んだんだ?」 きつく言われてハボックはムッとして答えた。 「だって、そんな変なもんが出てくるなんて思わないじゃないっスか。それにその酒が原因かわからないし」 「他に思い当たることがあるのか?」 「…ありませんけど」 「とにかく、その酒場に行ってみよう。そろそろ開く時間だろう。場所は覚えてるな?」 「ええ、勿論」 ロイに促されてハボックは立ち上がって夕闇の迫る街へと出て行った。 「あん時の酒ねぇ」 ロイに尋ねられて酒場の主人が顎をさすりながら答えた。 「ありゃ確か旅の行商人だかなんだかから1瓶だけ買ったんだよ。」 「他の客にも出したのか?」 「いや、それがね、1杯出した後給仕のガキが瓶ごと落っことしちまってよ。全部パアさ」 高かったのによ、とぼやく主人にロイが尋ねる。 「その行商人はどこにいるのかわからないか?」 「次の日にはこの街を出るとか言ってたからな。もういないんじゃないか?」 悪いが行き先までは知らんよ、と続ける主人の言葉に傍らのハボックがよろめくのをロイは咄嗟に支えた。 「ありがとう、忙しい時間に悪かったな」 ロイは主人にそう言うとハボックを抱えるようにして店の外へ出た。そのまま肩を抱くようにして家への道を辿る。酷く長い道のりを歩いた気がしたがそれでも漸く家にたどり着くと扉を開けてハボックを中へ通した。リビングのソファにコートを投げ出してハボックに視線をやる。酒場を出てから一言も口を聞かないハボックにロイはなんと声をかけていいか判らず、それでも何とか口を開こうとした瞬間、ハボックがポツリと漏らした。 「オレ、このまま戻れないんスかね?」 「ハボック…」 「このまんま、子供の姿のまま…」 「ハボ…」 「アンタの役に立つこともできないで―――っっ!!」 ロイが伸ばした手を払いのけてハボックは叫んだ。 「オレは、アンタの為に役に立ちたいのにっっ!!」 「ハボック!」 空色の瞳にみるみる盛り上がった涙が堪え切れずにぽろぽろと頬を伝う。ロイはそんなハボックの体を引き寄せるとぎゅっと抱きしめた。 「離せよ!こんなの、最低だよっ!オレもう、アンタの側にいられない―――っ!」 「ハボックっ!」 泣きじゃくりながら叫ぶハボックの体をロイは構わず抱きしめる。ほっそりとしたその体を抱きしめながらこみ上げてくるのは堪らない愛しさだった。 「ハボック…」 囁いてその唇に口付ける。逃げようともがく体を押さえ込んで深く口付けると舌を絡めてきつく吸い上げる。熱く濡れる口中をくまなく弄れば抱きしめる体から力が抜けていった。そのままソファに倒れこむとロイに圧し掛かられる形になったハボックが小さく呻いた。構わずその唇に口付けながら、ロイはシャツの裾から手を滑り込ませた。 「…っ!…やっ」 身を竦ませてもがくハボックの体を押さえ込んで唇を合わせる。滑り込ませた指で乳首を捏ね上げればびくびくと体が震えた。 「や、だ…っ」 嫌がるハボックの顔を覗き込んでロイは静かに、だがはっきりと囁いた。 「私にはお前が必要だ。どこにも行かせない」 その言葉にハボックが目を見開く。 「だって、オレは…っ」 「どこにも行かせない。ここにいろ」 ロイの強い言葉に身動きできないハボックにロイはもう一度口づけた。シャツのボタンを外しその白い肌に唇を寄せる。 「た、いさ…っ」 「黙ってろ」 小さな痛みとともに白い肌に花びらのような朱が散っていく。そこから湧き上がってくる快感にハボックは怯えて顔を腕で覆った。ロイはそんなハボックのズボンを下着ごと引き摺り下ろすとまだ幼さの残るそこに舌を這わせる。 「ひっ…、や、あ…っ」 ずり上がって逃れようとする体を引き戻し、ロイはハボックのそこに執拗に愛撫を加えた。幼い体は強烈な刺激にあっという間に追い上げられその熱を放った。 ぐったりと横たわる体を抱きしめてロイはハボックの耳元に囁いた。 「戻れないと決まったわけじゃない。ここにいろ。嫌だといってもどこへも行かせない」 ロイの言葉にハボックの瞳から涙が零れる。泣きじゃくるハボックの背を優しく擦って、ロイは抱きしめる腕に力を込めた。 泣きながら眠ってしまったハボックの服を整えてやるとロイはその体を抱き上げてベッドへと運ぶと静かにその上に下ろした。その傍らに滑り込むとそっと抱きしめて涙に濡れた頬を拭ってやる。金色の髪に鼻先を埋めてロイは目蓋を閉じた。 「大佐っ!大佐ってばっ!!」 乱暴に揺さぶられてロイは眠りから引きずり出された。重たい目蓋をなんとか上げて自分を覗き込む顔を見上げる。ぼんやりと見つめる先の顔が見慣れた男のものだと気がついた途端、ロイはがばっと体を起こした。 「ハボックっ?!お前…っ?!」 「たいさ〜」 ハボックに抱きつかれてロイは再びベッドへと沈み込む。 「戻ったのか」 「そうみたいっス」 ロイは確かめるようにハボックの頬に手を当てた。そっとその眦に触れ鼻筋を辿り唇に触れる。ハボックはロイの好きに触れさせていたが、その手をとると囁いた。 「キスしていいっスか?」 「昨日もしただろう?」 苦笑するロイにハボックは唇を寄せながら言った。 「オレからはしてないっス」 そうして唇を合わせる。啄ばむようになんどか口付けたあとハボックはロイに尋ねた。 「もし、オレが戻らなかったらどうするつもりでした?」 「そうしたらこんな可愛げのない男でなく好みの男に育て上げたさ」 「なんスか、ソレ」 ひでぇ、とぼやきながらもその表情は柔らかい。ロイはハボックの首に腕を回すと深く口付けていった。 2006/6/8 |
どこかのサイトさまでちっちゃくなったロイの話を読んだので(すぐ元に戻ったけど)、じゃあハボを小さくしてみようと…(←安易な)なんでハボが小さくなったのか、なんで元にもどれたかはまあ、謎ってことで(←おいっ)ハボがこのまま小さいままだったらきっとロイは紫の上よろしくハボを育て上げたと思います。小さいハボ、きっと可愛いだろうなぁ。これ、ロイハボでやったら大変な事になりそうと、今更ながら思ったり…。 |