折り紙


 本を読んでいたロイは喉の渇きを覚えて読んでいた本を閉じた。寝そべったソファーから立ち上がりもせずに声を上げる。
「ハボック!」
 応えがないのに眉を顰めてもう一度呼ぶ。
「ハボーック!」
 返ってこない返事にいらついて仕方無しに腰を上げた。
(どこにいるんだ、アイツ)
 キッチンを覗いてみるがそこにはハボックの姿はなかった。1階の廊下を歩きながら再度呼んでみる。
「ハボーック!」
「なんスかぁ?」
 すると2階の方から返事が返ってきた。何をやっているんだと眉を顰めてロイは階段を上がり声のした方へ歩いていった。扉の開いている部屋を覗くと、ハボックが床に座り込んでなにやら綺麗な紙を折っている。
「ハボック」
「ああ、大佐。なんか用スか?」
 ロイが声をかければ首だけこちらにむけてハボックが答えた。
「折り紙?」
 ハボックの手元を覗き込んでロイが驚いたように尋ねる。
「あそこの棚に入ってたんスよ。なんか懐かしくなっちゃって」
 そういうハボックの周りには幾つもの完成品が並んでいた。
「相変わらず器用なヤツだな」
 その一つを手にとってロイが感心して言う。
「それは鶴。で、こっちが羽ばたく鶴」
「羽ばたく鶴?」
 不思議そうな顔をするロイにハボックが手にした鶴の尾を軽く上に引いてみせる。すると鶴の翼がゆっくりと上下した。
「ね?」
 ハボックの手から鶴を取り上げてしげしげと見つめるロイにハボックの顔に自然笑みが広がる。
「他にも作れるのか?」
「リクエストをどうぞ」
「犬」
「まーかせーなさーい」
 ハボックは答えて茶色い折り紙をとると大きな手で器用に折っていく。興味津々と言った体で覗き込むロイをちらりと見やってくすりと笑った。
「はい、どうぞ」
 折りあがったものを渡してやるとロイは嬉しそうに目を輝かせた。そんなロイにハボックも嬉しそうに微笑むと新しい折り紙を手にまた折り始める。折りあがったのは帆のついた船。
「大佐、この帆のとこ持っててください」
 そう言われてロイは不思議そうな顔をしながらも帆の部分を指でつまんだ。
「目、閉じて」
 言われるままに目を閉じる。微かに紙のすれる音がして。
「はい、あけていいですよ」
 目を開けて手にした船を見ると帆の部分をつまんでいたはずがいつの間にやら船本体になっている。
「帆を持っててって言ったのに」
 ニヤニヤしながら言うハボックにムッとして船をよく調べてみると折る方向が簡単に変えられてそのことで帆と本体が入れ替わるようになっていた。
「だまし舟か」
「子供の時はどうして入れ替わるのかわからなくてホント不思議だったんスよねぇ」
 そういいながら、もう次のものを折っている。
「今度はなんだ?」
「いいもの」
 半分に切った折り紙を次々と折りたたんでいく。最後に手のひらに乗ったのは折り紙で出来た指輪だった。
「はい、プレゼント」
 ニッコリ笑って差し出すハボックにロイはちっと舌打ちした。
「バカが」
 そういいながらもハボックの手から指輪を取り上げる。その目元がうっすらと染まっているのに気づいてハボックは幸せそうに笑った。
「大佐はなにか折れないんスか?」
 そう聞けばロイは手にした指輪を指に引っ掛けて側にあった水色の折り紙を手に取った。
「私が作れるのはこれくらいだ」
そう言って折り上げたのは。
「あ、紙ひこうき」
 ロイの手から取り上げるとハボックはいろいろな角度から眺めて
「コレちゃんと飛ぶんスか?」
 などと言う。
「失礼なヤツだな」
「だって、ちゃんと飛ぶ紙ひこうきって意外と難しいじゃないスか」
 しゃあしゃあと言うハボックの手から紙ひこうきを取るとロイは開いた窓辺に寄っていった。
「見てろ」
 そっと押し出すように薄い雲の広がる空へと紙ひこうきを放した。
「あ」
 ふわりと。
 空に向かって滑るように飛んでいく。その時、見つめる二人の視線の先、紙ひこうきが飛んでいく所に雲の隙間から一条の光が差し込んだ。その部分からゆっくりと雲が切れていくのは、まるで紙ひこうきがその色で空を塗り替えていくかのようだ。
 ゆっくりと紙ひこうきが吸い込まれていく青い空をロイとハボックは窓辺からずっと見つめていた。


2006/5/23


窓から紙ひこうきを見送る二人の後姿が書きたくて出来たssです。ちゃんと飛ぶ紙ひこうきってほんとに難しいですよね〜。
ハボックがロイに折ってあげた折り紙の写真を載せようと思っていたのですが、ダンナがデジカメを持っていってしまった…。