日常坐臥2


「何スか、このソファー」
「なんか知らんがヒューズのヤツが送ってきやがった」
「…なんで?」
「さあな」


 ある朝出勤すると司令部のど真ん中にでっかい革張りのソファーが置いてあった。司令部の誰もがまた上司が訳のわからん理由で置いたのかと思ったが、その上司自身も目を点にしているのでそうではないと知れる。
「邪魔っスね。片付けますか?」
「まあ取り合えず置いておけ。片付けるのは後でもいいだろう」
 ロイはそういって執務室に入っていく。なんとなくソファーのまわりに群がっていた面々もそれぞれ仕事に散っていった。
「あそこってもともと何が置いてあったんだ?」
 ブレダが書類を捲りながら言った。
「そういえば何がありましたかねぇ」
 フュリーがメガネを指で押し上げながら考えている。
「毎日見ていたはずなのに意外と覚えていないものですな」
 ファルマンですらそういうのだから人の記憶とは本当に曖昧なものだ。
「覚えてないって事はたいしたもんじゃなかったってことだろ」
 さっさと仕事しようぜというハボックの言葉に一同頷いて仕事に取り掛かった。


 コーヒーを持ってきてドサリとソファーに腰を下ろすとブレダは首をぐるぐると回した。
「おお、結構いいな、コレ」
「なんだよ、休憩か」
 やはりコーヒー片手に司令部に戻ってきたハボックが言う。
「座り心地いいぜ、このソファー。流石セントラルから送ってきただけのことはある」
「そんなもんか?」
 そう言いながらハボックもブレダの横に腰を下ろした。
「ホントだ、堅すぎもせず柔らかすぎもせず、思わず休憩時間が増えそうだな」
「いいんじゃないか、そうでなくても人使いの荒い上司でオーバーワーク気味なんだからさ。もしかしてヒューズ中佐もそういう意味で送ってくれたのかもしれないぜ」
 コーヒー片手にどうでもいい話題に花が咲く。いつもよりぐっと寛いで、仕事場だというのに和気藹々と話し込むブレダとハボックの様子を執務室の扉を僅かにすかしてロイが除き見ていた。
「ブレダのヤツ…」
 思いっきり眉を顰めてブレダを睨んでいたが徐に扉を開けると二人に近づいていく。
「暇そうだな、二人とも」
「「大佐!」」
「いや別に暇と言うわけでは…」
「なんならもっと仕事をまわしてやろうか」
「ケッコウデス」
 蛇に睨まれた蛙よろしくブレダがこそこそと自分の席に戻る。それを見たハボックがため息をついて言った。
「いいじゃないっスか、せっかくソファーがあるんだからちょっとぐらい座ったって」
「それもそうだな」
 ロイは言ってドサリとソファーに腰を下ろし、ハボックを見上げて催促する。
「コーヒー」
「…アンタこそ仕事したらどうです?」
「ハボック、コーヒー」
「……」
 ハボックは思いっきりため息をついて給湯室へ向かった。


「はい。コレ飲んだら仕事してくださいよ」
 ハボックが差し出したカップを受け取って、ロイは自分の隣をぽんぽんと叩いた。
「…オレ、仕事あるんスけど」
 そう言うハボックを見上げながらロイはもう一度ぽんぽんと叩く。
「…人の言うこと聞きゃしないんだから」
 ぶつぶつ言いながらもハボックはロイの隣に腰を下ろした。ロイはそんなハボックに満足げに目を細めてカップに口をつける。何も言わずにコーヒーを飲むロイをハボックは暫く見つめていたがやがて優しい声で言った。
「何かありました?」
「……」
 答えないロイに微かに笑ってハボックはその黒髪をくしゃりとかき回した。
「…確かに座り心地のいいソファーだな」
 言ってロイは脚をソファーの上に上げてハボックの膝を枕にして横向きに寝そべった。
「ちょっと、大佐」
「5分だけ。そしたら仕事に戻る」
 そう言って目を閉じるロイからカップを受け取ってハボックは目元を緩める。微かな寝息を立て始めたロイの髪を優しく撫でながらロイのコーヒーに口をつけた。


「…おい、後であのソファー、執務室に突っ込んでやろうぜ」
 ソファーから少し離れた自席でブレダが言えば
「仕方ありませんね」
 とファルマン。
「僕まだ座ってないのに…」
 フュリーががっくり肩を落とした。
 後刻、ソファーはロイの執務室へと移されその後にはもう二度と何も置かれないように使いもしないキャビネットが置かれたとか置かれなかったとか。


2006/5/19


イチャイチャバカップルに毎度付き合わされる司令部の面々は大変だなぁという話(苦笑)