木漏れ日


 中庭から更に奥に入った建物と建物の間にぽっかり開いた空間は大佐のお気に入りの場所だった。この季節ともなれば緑に茂った木々が気持ちのよい木陰を作り、尚且つカーテンのように枝葉を広げて外部からの視線を遮るという昼寝にも絶好のスペースになっている。
 今日は早めの昼食を済ませて、大佐は珍しく食後の睡眠ではなく木の幹に背を預けて本を読んでいた。オレはと言えば特に何をするでなく、なんとなく本を読む大佐の横顔を見つめていた。
(やっぱ綺麗な人だよな)
 癖のないさらさらとした黒髪。整えたわけではないのに綺麗に弧を描く眉毛の下には長い睫に縁取られた黒曜石の瞳がある。すっと通った鼻筋、肌理の細かい白い肌、薄い唇はほんのり紅く色づいている。細い、しかし痩せているのではない、きちんと筋肉のついたしなやかな体は猫科の肉食獣のそれだ。男にしては節の目立たないほっそりとした指はきちんと爪が切りそろえられて、この指からならあの美しい焔が生まれても不思議はないように思える。容姿だけでも十分人目を惹きつけて止まないのに恐ろしく頭がよくて、運動能力にも恵まれて、声だってどんな人混みでも決して聞き漏らすことのないよく通る甘いテノールだ。全く、神様は一体なにが楽しくてたった一人の人間にこれだけのものを与えたのだろう。もっともその性格は若干難があると言えないこともないが、このアメストリス中どこを探してもこれだけ他人の注目と羨望を集める人はそうそういないだろう。
(ほんと、綺麗だな)
 木漏れ日を浴びてそよぐ風に髪を弄らせて本を読むその姿は一幅の絵のようだ。オレは煙草を吸うのも忘れてただぼんやりと大佐を見つめていた。すると、読んでいた本をパタンと閉じて大佐は眉間に皺を寄せてこちらを睨んできた。綺麗な顔だと顰め面してもやっぱり綺麗だなぁ、などと呆けたことを考えていると大佐はますます不機嫌そうに眼を眇めて口を開いた。
「ハボック少尉。私の顔に何かついているかね?」
「…は?」
 言われた意味がよくわからず、バカみたいに聞き返した。
「さっきからじろじろと、人の顔を見ているが何かついてでもいるのかと聞いているんだ」
 ああ、なんだ、そういうことか。
「いえ、ただ綺麗だなぁと思って見てただけっス」
「…は?」
 今度は大佐の方が訳がわからないという顔をしている。
「大佐があんまり綺麗なんで見蕩れてたっていうか、睫ながいなぁ、とか色白いなぁとか…」
 つらつらそんな事をいうオレに大佐は一瞬ポカンとしたが、次の瞬間みるみる真っ赤になった。
「バカか、お前は。男に綺麗とか言う形容詞を使うヤツがいるか?」
 不機嫌そうに唇を歪めてそういう顔もやっぱり綺麗だ。
「えー。でも大佐につける形容詞って言ったらやっぱり『綺麗』っしょ」
 そう言ったらホントに嫌そうな顔をする。褒めてんのになんでそんな顔するかな。その眉間の皺を伸ばしたくて思わず大佐の顔に手を伸ばした。ぎょっとして身を引こうとするのを両腕で抱き込んでその目元に唇を落とす。びくりとしてオレを見上げる黒い瞳に心臓が不規則に跳ねた。
「たいさ…」
 そう呟けば黒い瞳が艶やかに揺れた。さっきまでとは違う濡れた瞳。そんな夜の顔で見られたらどうにも止まらなくなる。ゆっくりと唇を合わせてしなやかな体を抱きしめた。
「ん…ふ…っ」
 繰り返す口づけの合間に漏れる声に煽られて軍服のボタンを外すとシャツの中に手を差し入れた。咄嗟に身を離そうとする彼を強く抱きこんで差し入れた掌で滑らかな肌を愛撫する。
「ハボ…っ」
 乳首に舌を這わせればオレの名を呼んで喉を仰け反らせた。その喉元に唇を寄せると強く吸い上げた。唇を離して目をやれば白い肌に綺麗な紅が浮んでいる。それを見て思わず口元に笑みが浮ぶ。なんだか嬉しくなって肩口や胸元にも幾つも印をつけていった。
「お、まえっ、いい加減にしろ…っ」
 大佐が目元を染めてオレを押しやろうとする。そんな顔されたらますますやめられなくなるのがどうして判らないんだろう。
 左手で大佐の頭を抱え込むようにして深く口付けながら右手はズボンのベルトを外し中へと滑り込ませる。やんわりとその中心を握り締めてやれば必死にオレを押し返そうとした。それでもやわやわと刺激を与えれば忽ち堅く立ち上がっていく。あわせた唇の間から熱い吐息が漏れてそれに煽られるようにオレは彼の中心への愛撫を激しくした。
「も、やめ…っ」
 うっすらと涙を溜めて訴える姿は扇情的だ。そんなの制止になるどころかオレを煽るだけなのに。オレは大佐を膝立ちにさせて彼のズボンと下着を膝のあたりまで引き摺り下ろすとそそり立ったそこへ唇を寄せた。
「ヤダ…っ」
 オレを引き剥がそうとオレの髪に手をやるが強く吸い上げればむしろ押さえ込むようにオレの頭を抱え込んだ。
「あ、んんっ…、あっ、ああ…っ」
 耐え切れずに甘い喘ぎを漏らす彼を更に追い上げようとしたとき。
「大佐〜?」
 と、ブレダの声が聞こえた。
「んっとにどこ行っちまったのかなぁ。ハボのヤツもいねぇし」
 その声にオレから身を引こうとした彼の腰を引き寄せて更に深く咥え込む。
「ハボ…っ」
 離せと囁く彼を見上げれば真っ赤な顔をしてこちらを睨んでいた。口を離したオレにホッとした表情を浮かべた彼の後ろにオレはいきなり指を差し入れた。
「ひっ…っ」
 仰け反る体を引き寄せてぐちゃぐちゃと中をかき回す。
「う…っ、あ、やぁ…っ」
 身悶える彼の耳元に唇を寄せてオレは囁いた。
「あんまり大きな声出すと聞こえちまいますよ?」
 オレの言葉に目を見開いて必死に声を抑えようとする大佐に強引に口付けた。口中を弄りながら後ろに差し入れた指を休まずに蠢かす。抱きしめた体ががくがくと震え、オレにすがり付いて必死に体を支えていた。
「大佐〜?ハボ〜?…たく、この辺りじゃないのかな」
 そう言いながら段々と遠ざかっていくブレダの気配を追いながら、オレは大佐の体を追い上げていった。
「もう、行っちまったみたいっスね…」
 そう言いながら奥まった一点をぐっと突いてやれば。
「あ、あ、あぁ―――っっ」
 高い悲鳴を上げて熱を放った。

 ぐったりとした体を簡単に清めてやって、軍服を整えてやるのを大佐は黙ってなされるままになっていた。何を考えているのかとその顔を見やればオレを射ぬかんばかりに睨んでいた。
(やば…、やりすぎたかも…)
 つい調子に乗ってしまったことに今更ながら後悔して、へらりと笑いかけてみる。
「た、大佐?」
 ゆらりと立ち上がった大佐は胸ポケットから徐に白い手袋を取り出すとゆっくりと嵌めた。
「ウエルダンと消し炭とどちらが好みだ?」
「いや、オレ、肉は生派なんで…」
 思わず後ずさるオレに氷の笑みで微笑んで。
 火蜥蜴の紋章のついた手袋をゆっくりと翻した。


2006/6/9


全くもう、処構わずサカるコイツラを何とかしてくれ〜。もう、絶対どこかで誰かに見られてるって思いますよね…。