| こいのぼり |
| 出張に出かけた帰り、信号機のトラブルで列車が止まってしまい、ロイとハボックは沿線の小さな町に泊まることを余儀なくされた。観光地という所でもないので特に見るものがあるわけでもないが、せっかくフリーの時間が出来たことでもあり夕方までの時間二人はのんびりと散歩に出かけた。小さな町は何もない分緑が豊かで、新緑の季節、散歩にはうってつけだ。 「せっかく空気の綺麗なところに来ているんだ。少しはタバコをやめたらどうだ?」 相変わらず咥えタバコでぶらぶらと歩くハボックにロイは顔をしかめてそう言った。 「空気が美味いからタバコも美味いんじゃないっスか」 試しに吸ってみます?などとしゃあしゃあと言うハボックを横目で睨みつけてロイは足を速めてハボックの少し先を行く。 「側によるな、空気が汚れる」 というロイにひでぇと頭を掻いて、それでも相変わらず口にはタバコを咥えたままのハボックを放って、ロイはゆっくりと辺りを見回した。その視線の先に高いポールになにやら色とりどりの布が結び付けられているものが映った。 「なんだ、あれは?」 とロイが指差すのに 「近くに行って見ます?」 と問えば、頷いて足早に近づいていく。近くによって見ると、それは高いポールに細いひも状の布やどうやら魚のデザインの布が結び付けられているのだと判った。ただ、風がない今、それらはだらりと垂れ下がってポールに巻きついている。 「何スかね、これ」 「旗か何かなのか?」 二人で首をひねっているとそのポールの近くに建つ家の中から初老の男性が出てきた。 「おや、旅の方かね?」 微笑む男性に軽く挨拶を返すと 「これは何ですか?」 とロイが尋ねた。 「ああ、これは鯉のぼりと言ってね、私の故郷の風習なんだよ」 と男が答える。 「家に男の子が生まれると今ぐらいの季節に飾るんだ。鯉が河をさかのぼって水脈に達すると龍になるという故事があって、それにちなんで 生まれた子の立身出世を願うものなんだ」 そういって見上げる視線を追って、ロイとハボックも鯉のぼりを見上げた。 「風があると綺麗にたなびいてね、空を泳いでいるようで素晴らしいんだが」 こう風がなくっちゃねぇ、と残念そうに言うと、用事があるからと男は立ち去っていった。その背に軽く礼の言葉を投げて、ハボックはもう一度鯉のぼりを見上げた。 「残念っスね、風がなくて」 とロイの方を見やれば、なにやら考え込んでいる。 「大佐?」 と聞けば、まるでイタズラを思いついたかのような楽しげな視線が返ってきた。 「風があればいいんだな」 そういうロイになにやら不穏なものを感じたハボックが止める間もなく、ロイは発火布をはめた手をパチンと鳴らした。 途端――――ゴオっと突風が吹き荒れ、ポールに巻きついていた布が大きくはためいた。 「うわっっ」 風に煽られてよろめきながらも見上げるハボックの目に映ったのは青い空にたなびく大小の綺麗な魚。 「どうだ?」 得意げな声に振り向くと、綺麗な漆黒の瞳が自分を見つめていた。 「大佐…」 「何だ、気に入らないのか?」 口ごもるハボックをロイは不貞腐れたように睨んできた。 そんなロイを見ているうちに知らず笑みがこぼれる。 「最高っス!」 ハボックは青空にたなびく魚達を見上げて楽しそうに笑った。 2006/04/26 |
「青空をバックにたなびく大きなこいのぼりを、服の裾を翻して見上げる2人」というイメージの下書いてみました。少しでも伝わればよいのですが。 |