欠乏症


「ハボック少尉、有難うございました」
 頬を染めて礼を言う女子職員にひらひらと手を振って歩き去るハボックが目に入った。ハボックを見送るその女性は他の同僚の女性からつつかれて、きゃあと騒いでいる。そんな様子を階段の上から目にして知らず眉間に皺を寄せていた。


 執務室に戻っても気持ちがいらいらとして落ち着かない。
 こんな時アイツみたいにタバコでも吸えば少しは気分が落ち着くのだろうか。
 窓際に立ってコツンと額をガラスに当てた。そういえば今日はアイツの淹れたコーヒーを飲んでいない。外回りの仕事に追われているようで、司令部の机にすら殆んど座っていない状況だ。
 ―――なのに、何であんな女子職員と話す時間はあるんだ…。
 私とは今日はまだ言葉も交わさず、それどころか殆んど視線すら合わす時間もないというのに。
 いらいらとする気持ちをもてあましていると、ノックの音がしてホークアイの声がした。返事をして入室を許可すると書類を抱えて入ってくる。
「大佐、申し訳ありませんがこちらの書類も急ぎでお願いします」
 そういって、既に書類が山と積まれたデスクの上に手にした書類を置いた。
「大佐?」
 ぼんやりと窓際に立ったままの私をいぶかしんで、ホークアイが声をかけてくるのに、ハッとして首を振った。
「判った。やっておく」
 そういって椅子に座ると積まれた書類を手にした。
「何かお飲み物をお持ちしましょうか?」
 ときいてくれるが、何も飲む気がしない。
「いや、今は必要ない」
 顔を上げずにいる私を暫く見つめていたが、ホークアイは「宜しくお願いします。」とだけ言って出て行った。


 いらいらしながら読む書類はちっとも頭に入ってこない。それでも、どうせ中尉が目を通したのだからかまわないだろうとどんどんサインを入れていく。気持ちがサインに現れてひどくイラついた文字になっているのがわかったが、自分ではどうしようもなかった。
 そうしてどれくらいたっただろう。ノックと同時に扉が開いて、コーヒーのいい香りが漂った。
「お疲れ様っス」
 そう言ってテーブルにコーヒーを置く人物を見上げれば、空色の瞳が優しい色を湛えてこちらを見下ろしていた。
「ハボック…」
「いやもう、今日は参ったっスよ。やっと外から戻ったと思えばすぐまたあそこへ行ってくれ、ここへ行ってくれって、人使い荒すぎっスよね。おかげで全然椅子に座る暇もないったら…」
 そういって、執務室の机に腰を下ろすとタバコを出して火をつけた。美味そうに煙を吐き出すと私を見つめる。
「大佐はずっと缶詰だったんでしょ?今日はホント顔合わす暇もなかったっスね」
 そう言って私を見つめてくるのは ずっと求めていた空色の瞳。
 思わず手をのばすとタバコを奪い取って机の上の灰皿に押し付けた。
「ちょっと、大佐ぁ…」
 タバコを取られて不満げな声を上げるハボックの襟元を掴んで引き寄せると強引に唇を合わせた。
「んん…っ」
 深く口付ければ苦いタバコの味がする。それでもかまわず舌を絡ませて唇をむさぼった。暫くして唇を離せば目の前に深い青色を湛えた瞳が広がる。
「アンタね…、煽らんでくださいよ…」
 苦笑を浮かべる唇をもういちど塞いで、一方の手をハボックの前に回した。ぎょっとしてハボックが身を引くのをかまわずジッパーを下ろすと中に手を差し込んだ。
「ちょっと、たい、さっ!それ、まずいっスよ!」
 慌てたハボックが身を捩って私の手を抜き出そうとしたが、そのままハボック自身を握りこむ。ハボックが息を呑むのを感じてうっとりと笑みが浮んだ。
「たいさっ!」
 小さく叫ぶハボックを見上げれば、うろたえた様子で見返してくる。
「…お前がホシイ…」
 と囁けば瞬時に耳まで真っ赤になった。
「大佐、頼んますから…」
 急所を握りこまれてろくに動くことも出来ずに、それでも私の手を抜こうとやんわりと手首を握ってきた。ちらりと扉の方を不安げに見やっている。
「誰かが入ってきてもかまわない…」
 そう言うのに目を見開いて
「オレはかまいますよ…っ」
 というので、
「許可も得ないで入ってくるのはお前くらいだ」
 といってやった。そうして握ったものをゆっくりと扱き始める。
「たいさ…っ」
 段々と硬度を増してくるものをそっと外に導き出して、ハボックの前に膝を突くと口中に含んだ。ハボックが大きく息を吸い込むのを無視して舌と喉を使って育てていく。
「は…っ、ダメですってば…っ」
 この期に及んでもまだ私を引き剥がそうとするのに焦れて、口の中のそれに歯を立てた。びくっと体が震えて口の中のそれが大きさを増す。強く喉の奥でなんどか締め上げれば、とうとう耐え切れずにハボックが精を放った。ごくり、と音を立てて口の中のものを嚥下して唇をはなした。そのまま見上げれば半ば呆然としたままのハボックと目が合った。立ち上がって首に手を回してしがみ付く。
「今日一日お前が足りなくて死にそうだった…」
 そう囁くと、耳元でため息が聞こえてそっと抱きしめられた。
「全く、アンタって人は…」
 呟くように言って口付けてくる。
「今夜、倍にして返してあげますからね…」
 覚悟しておいてくださいよ、と耳元で囁かれてうっとりと目を閉じた。


2006/5/1


いや、ただヤキモチ焼くロイの話を書こうと思っただけなんですが、何でこんなことに…。おーい、ロイ、帰ってこ〜いってカンジ…?