jealousy


「何を言ってるんだ、お前は」
「んなこといったってさ、ロイ」
 ヒューズ中佐と楽しげに笑う大佐を見つめてオレはため息をついた。そのため息は黒くかすんで部屋の空気を汚して行くような気がする。オレといる時とは違う顔をする大佐の様子にきりきりと胸が痛んだ。これは嫉妬だ。大佐にあんな表情をさせるヒューズ中佐にオレはどうしようもないほど嫉妬している。きっと今のオレは酷く醜い顔をしているに違いない。どす黒い感情をもてあまして、だったらすぐさまここを立ち去ればいいものをそうすることも出来ずに、ただ暗い感情に身を焦がしている。最低だ。なんて最低な男だろう。オレは咥えた煙草を噛み潰して苦い感情を抱き抱えた。


「家に泊まるんスか?」
「ああ、せっかくだから飲み明かそうと思ってな」
 大佐は楽しそうにそう言った。
「お前も来るだろう?」
 そういう大佐にずきりと心が痛む。
「オレは遠慮しますよ」
「何言ってるんだ、一緒に来い」
 行かないというオレに大佐は思い切り不服そうな顔をしてそう言った。はっきり言って勘弁してほしい。これ以上醜い自分と向き合うのは耐えられない。
「ハボック少尉」
 こういう時に階級で呼ぶのはずるい。そんな風に言われたら断りきれないではないか。オレは深くため息をつくと
「じゃあ、飯炊き係で」
 と呟いた。その答えに大佐は不満そうな顔をしたが、取敢えず来るという答えに満足してそれ以上は何も言わなかった。


 一雨きそうな怪しい空模様の下、大佐の家へと車を走らせる。後部座席では大佐とヒューズ中佐が他愛無いおしゃべりをしていた。その様子をルームミラーで確かめて、オレはまた黒く霞むため息を吐いた。家の前に車をつけて二人を下ろし、車を裏に回して家に入る。途中、市場で買い求めた材料を抱えてキッチンへ入ると、大佐と中佐はリビングに酒を持ち込んで早速グラスを傾け始めた。オレは取敢えずチーズやらサラダやらで簡単なつまみになるものを用意すると急いで二人の前に出す。
「酒ばっか飲んじゃダメですよ」
 そういうオレにヒューズ中佐が楽しそうに笑って言った。
「お、いいねぇ、何もしないでつまみがでてくるなんて。ロイ、お前いい部下持ってんなぁ」
 そんな中佐に大佐は何も言わずに笑っていた。その姿がひどく二人の間を親密なものに見せて、オレはいた堪れずにキッチンへと逃げ込んだ。少しずついろんなものを作って二人の前に出していく。料理を作っている間は何も考えずにいられるような気がして、オレは到底食べきれないほどのものを次々と作り続けた。
「ハボック、お前もこっちに来て一緒に呑め」
 大佐に何度もそういわれたが微かに笑ってごまかして、なるだけ二人の姿を見ないように心がけた。


 そうしていつの間にか時が過ぎて、そろそろベッドに入ろうかと言う時間になる。オレは二人が食べ散らかしたものを手早く片付けながら、二人に先に上がってもらうよう声をかけた。
「結局、殆んど呑んでないだろう、お前は」
 微かに目元を赤らめた大佐が不満そうにそういってくる。「そんなことないっスよ」と答えながらもオレは大佐の顔から目を逸らしたままでいた。そんなオレに大佐はため息をついて、それでも何も言わずに寝室へと引き上げていった。
 一人、誰もいないリビングのソファに腰掛けて、オレはため息をついた。こんなことを考えた所でなんの意味もないのに。
 大佐を知るものが自分だけでないことにひどくイラつきを覚えた。
 その時、闇を引き裂いて稲光が輝いたと思うとドンと音がして雷が鳴り響いた。次の瞬間音を立てて雨が降り始める。オレは暫く窓の外で煌めく光を見つめていたが、ゆっくりと立ち上がると2階の自分に宛がわれた寝室へと向かった。
 部屋に行こうとして、大佐の部屋の前に誰か立っているのに気づいてぎくりとする。次の瞬間走った稲光に照らされてそれが大佐だとわかった。
「大佐?どうしたんです?」
 大佐に駆け寄ると彼の様子がおかしい。両肩を抱きしめて苦しげに身を震わせている。
「大佐?どこか苦しいんですか?」
 その時、バリバリとすごい音がして雷が落ちた。その瞬間。
「わあぁぁぁ―――っっ」
 大佐の口から叫び声が上がって体を仰け反らせた。
「大佐?!」
「ロイ!」
 その時すぐ側の扉が開いて中佐が飛び出してくる。
「中佐?大佐が…っ」
「いいから、しっかり抱きしめていろ。今、水持ってきてやる」
 中佐はそう言うと階段を駆け下りていく。オレは震える大佐の背中を優しく擦りながらそっとその体を抱きしめた。グラスを持った中佐が戻ってくるとその口元に宛がってやる。
「ロイ、大丈夫だ。ここは戦場じゃない。わかるな」
 中佐はそう言いながら大佐の髪をなでてやった。オレの腕の中の大佐の体の震えが徐々に止まり、引き瞑った目がゆっくりと開かれた。
「大丈夫か?」
 心配そうにいう中佐に大佐は微かに頷いた。中佐は満足そうに頷くとオレに言う。
「ロイをベッドに運んでやってくれ」
 言われるままに大佐をベッドへ運ぶとそっとその体を横たえた。上掛けをかけてやり、その髪を優しく梳き上げると大佐は微かに微笑んで目を閉じた。暫くして中佐に促されて部屋の外へ出る。
「どういうことです?」
 扉を閉めるか閉めないかのうちに、中佐にきつく問いかける。中佐は顔を顰めると低い声で答えた。
「雷の音が戦場を思い起こさせるんだと」
「それってイシュヴァールの…?」
「ああ、爆発の音を連想させるらしい。いつもって訳じゃないんだが、時々な」
 そういう中佐の横顔を苦々しい思いで見つめる。
「アンタは知ってたんスね」
 呟くオレを中佐は不思議そうに見つめた。
「アンタはオレの知らない大佐を知ってる。イシュヴァールで辛かったことも、その思いを必死の思いで押し留めて来たことも。オレは出会ってからの数年分の大佐しか知らないけど、アンタはずっと昔から大佐の側にいてあの人が見たり感じたりしてきたことを一緒に感じてきたんだ。オレは何も知らない。何も…。あの人の力になりたくて、そばにいたくて、でも、結局アンタには適わないんだ」
 中佐は言い募るオレを目を見開いて見ていたが、煙草を咥えると火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出した。
「知ってりゃいいってもんじゃないさ。知らないからこそ側にいて欲しいってこともあるんだぜ」
 中佐はそう言ってオレの方をみて、ニヤリと笑った。
「お前、アイツがどれほどお前のことを側に置きたがったか知ってるか?他人に執着しないアイツがお前のことだけはひどく気にしてたんだぜ」
 中佐の言葉にオレは目を見開いた。
「知りたいことがあるなら聞きゃいいだろう。だがな、知ったところで何もかわりゃしないぞ。お前は、何も考えずにアイツの側にいてやりゃいいんだよ」
 中佐はいつもの人懐っこい笑みを浮かべた。
「後は頼んだからな」
 そう言ってひらひらと手を振ると自分の部屋へ入ってしまう。オレは呆然と閉じられた扉を見つめていた。


 暫くして少し迷った後、オレは大佐の部屋の扉を開けるとそっと中へ入った。大佐はさっき横たえた姿のままベッドで眠っていた。汗に濡れた前髪をかき上げてそっと額にキスを落とした。中佐はああ言ったけど、やっぱり知りたいと思う。大佐のこと好きだからもっともっと知りたい。そう望むのはいけないことなのだろうか。
 ぼんやりと自分の考えに沈んでいたら大佐の黒い瞳がこちらを見つめているのに気がついてギクリとした。
「すみません、起こしちゃいました?」
「人の枕元でうだうだと悩むんじゃない」
 そう言われて思わず苦笑した。
「中佐は大佐のいろんなこと知ってるんスよね」
「昔馴染みだからな」
「オレももっと大佐のこと知りたいっス」
 そう言えば大佐が小さく笑った。
「知ってどうする?」
「好きな人のこと知りたいと思うのはいけないことっスか?」
「過ぎたことを知ったところで何も変わりはしないだろう?」
「でも…」
「ハボック」
 声を荒げるでもなく、でも有無を言わさぬ強さで大佐がオレの言葉を遮った。
「私はこれでもずいぶんとお前に私自身を晒しているつもりだが」
 黒く濡れる瞳がひたとオレを見つめる。
「それだけでは足りないか?」
「たいさ…」
「確かにヒューズはお前の知らないことを知っているかもしれないが、今ではお前しか知らない私のほうが多いと思うのだがね」
 柔らかい声音がオレのささくれ立った心を癒していく。オレは泣きたくなって大佐の胸元に顔を伏せた。大佐の指がオレの髪を優しく梳いていく。途端にもっともっと近くに大佐を感じたいと思う。
「たいさ…抱いてもいいっスか…?」
 おずおずと聞くオレに大佐が苦笑する。
「いちいち聞くんじゃない」
 そう言って腕を伸ばしてオレの首に回すとそっと引き寄せて唇を合わせた。啄ばむような口付けがだんだんと深く弄るものへと変わっていく。舌を絡めてお互いの口中を嘗め回した。混ざり合って含みきれなくなった唾液が大佐の唇から零れてシーツに染み込んでいく。オレは大佐のシャツのボタンを外すと滑らかな肌をなで擦る。堅く尖った乳首を摘んで捏ね上げれば大きく体が跳ねた。片方を指の腹でぐりぐりとこね回しもう片方に歯を立てる。びくびくと震える体を押さえつけて飽きず愛撫を加え続けた。
「あ、はぁ…っ、も、やだ…っ」
 赤く熟れたソコは既に快感より痛みを覚えるのだろう、大佐が涙を滲ませてかぶりをふるのをうっとりと見つめた。
「あ、あっ、ほん、とにっ、やめ…っ、ハボ…っ」
 あんまり嫌がるので、流石に可哀想になってソコへの愛撫を諦めて唇を下へと滑らす。ズボンと下着を剥ぎ取り、己の衣服も素早く落とすと再び彼の上に体を重ねた。所有の印を刻み付ける為、きつく吸い上げるとその度にぴくんと体が跳ねた。白い脚を開かせてその中心にそそり立つものを見つめる。胸への愛撫ですっかり立ち上がったソコは先走りの蜜を垂らしながらヒクヒクと震えていた。動けないよう脚をきつく押さえ込んで付け根から棹を何度も舐め上げてやる。
「ふぁっ、ああ…っ、ぅん…っ」
 身を捩って逃れようとするので口中に深く咥え込んでじゅぶじゅぶと音を立てて吸い上げた。
「ひぁ…っ、や、め…っ」
 制止の声を上げるのを無視してぴちゃぴちゃと嘗め回し深く咥えては唇で締め上げる。押さえ込んだ脚がぶるぶると震えて限界が近いのを知らせてきた。
「ハボ…クっ、も、はなし…っ」
 一際強く吸い上げれば腰を持ち上げるようにしてビクビクと震え、どっと熱を吐き出した。口中に広がる苦味のある液体を一滴残らず飲み干し、舌をはわせて綺麗にしてやる。顔を上げて大佐の様子を窺えば、半ばぼうっとして宙を見上げていた。幼い表情を浮かべる大佐にたまらない愛しさを感じて、薄く開いたその唇に深く口付けた。舌を吸い上げ甘い口中を嘗め回す。苦しげに眉を顰めて鼻から抜ける甘い吐息を漏らす大佐に自分の中心に熱が籠るのを感じた。唇を離して、大佐の口元に指を差し出せば舌がのびてきてぴちゃぴちゃと舐める。その仕草はまるでオレのものをしゃぶっているように見えてひどく興奮した。たっぷりと唾液をまぶした指を大佐の蕾へとあてがいつぶりと差し入れる。そこはすでに零れてきた先走りの蜜でしっとりと濡れそぼたれひくひくと蠢いていた。
「ふ…っ、はん…っ、は、あ…っ」
 ぐちぐちとかき回せばゆらゆらと腰が揺れた。さっき達したばかりの大佐自身が後ろへの刺激でゆっくりと硬度を増して行く様はひどく淫猥だった。指の数を増やし、かなり奥まった所までぐちゃぐちゃとかき回す。大佐が腰を持ち上げていやらしく蠢かせた。
「ハボックっ、も、いいから…っ」
 辛そうにそう囁く大佐に意地悪く聞く。
「もういいから、何?」
 その言葉に大佐が大きく目を見開いて唇を震わせた。
「はっきり言ってくれないとわかりませんよ…?」
 本当は大佐が何を望んでいるのかなんて判りきっているのに、わざとそう言ってみる。大佐は悔しそうに唇を噛み締めてオレを睨みつけたが、すぐ目を伏せてふるふると頭を振った。
「じゃあ、ここでオシマイ」
 後ろを弄っていた指を抜き去り大佐に微笑みかけるオレを、信じられないように大きく目を瞠って唇を震わせる大佐にうっとりと見惚れた。
「なんで…っ」
 いやらしくオレに腰を擦り付けながらうっすらと涙を浮かべる顔は本当に綺麗だった。
「だって、言ってくれないとわからないでしょ」
 尚も意地悪く言い募るオレの顔を見つめて、その黒い瞳からぽろりと涙を零した。何度も舌で唇を舐めて、苦しそうに息を吐いて次の瞬間、大佐はオレにすがり付いて言葉を吐き出した。
「お前を、よこせ…っ、は、やく…っ」
 オレを求める言葉に心が躍る。震える唇に口付けを落とすと彼の脚を高く抱え上げ一気に貫いた。
「あああああ―――っ」
 ずぶずぶと最奥まで差し入れ、一気に入り口まで引き戻す。熱い襞が絡み付いて逃すまいと締め付けてくるのに彼の中のオレ自身が一層張り詰めて、狭い器官を押し開いていく。
「ひっ…、あんっ…ああっ、ハボッ…、イ、イ…っ」
 黒い瞳からぽろぽろと涙を流しながら快感に打ち震える大佐はイヤらしくて綺麗だった。
「気持ちいいの…?」
 と問えばがくがくと頷く。
「ああっ、ハボック…っ」
 オレの名前を呼んで達しようとする寸前、彼自身の根元を掴んでせき止めた。
「ひぃ…っ、は、やっだぁ…っ」
 達することが出来ずにぶるぶると体を震わす。そんな彼からずるりと自分を抜き出した。
「ハボック…っ」
 信じられないと言う顔をしてオレを見上げてくる大佐をうっとりと見下ろした。体を離すとベッドの上に座り込む。大佐の手を引いて彼の体を起こすとささやいた。
「自分で入れてみて」
 大佐の目が大きく見開かれる。唇を噛み締めて俯くと小さく首を振った。
「ねぇ…」
 下から覗き込むようにして強請る。手を伸ばして彼の蕾に触れると入り口を指でなぞった。
「ねぇ、たいさ…」
 重ねて強請れば大佐は小さく息を吐いてオレの首に腕を回してきた。オレの中心の上に跨って蕾をあてがうとそろそろと下ろしていく。
「は…ん…ぅん…」
 オレの先端が彼の蕾を割り開きゆっくりと押し進んでいく。早くその熱い襞に包まれたくてオレは彼の腰に手を宛がうと一気に引き下ろした。
「やああああっ」
 仰け反る白い喉に噛み付くようにキスをする。びくびくと震える体を抉るように突き上げればそりあがった彼自身からびゅくびゅくと白い液体が迸った。力の抜けたその体を容赦なく突き上げてオレは大佐の最奥へとありったけの想いを解き放った。


 癖のない黒髪をすきながら飽きることなくその顔にキスを降らせれば大佐がくすぐったそうに首をすくめた。オレの中の醜い想いは彼によって浄化されたよう今は穏やかな想いに包まれていた。
「ハボック」
 呼ばれてその瞳を覗き込めば大佐が小さく笑って言った。
「お前の方こそ、私に曝け出していないことが山ほどあるだろう?」
 そう言われて
「オレの昔なんてくだんないことばっかりですよ」
 と苦笑する。
「ヒューズが知ってる私のことだって似たようなものだ」
 そう言う大佐を見つめれば
「これからお前と過ごす時間のほうがずっとずっと長くなると思っているのは私だけか?」
 そういって漆黒の瞳が真っ直ぐオレを見る。
「私はお前を手放す気はないぞ」
 傲慢な笑みを浮かべる大佐に息をのんで。
 その体をかき抱いて深く深く口付けた。


2006/7/7


ヒューズに嫉妬するハボのお話。ロイが雷の音でおかしくなるシーンがありますが、前に書いた停電の話では平気だったよなぁと密かに思いつつ、その辺は多めに見てやってください〜。ホントはエドに嫉妬する話を書きたかったのですが、どうしてもエドの口調が書けませんで挫折しました…。