| アイスキャンディー ハボside |
| 「暑いっスね…」 「暑いな…」 今日のイーストシティは季節はずれの暑さだった。大佐と一緒に市内巡回に来ているオレだったが、とにかく暑くて周りをみる余裕なんてない。 「たいさ〜、せめて上着脱ぎましょうよ。こんな暑いのにきっちり軍服着てたら熱中症で倒れますって」 さっきからそう言ってみるのだが、見栄えを気にするこの人は絶対脱ごうとしない。襟まできちんと止めて見た目は涼しげに歩いているが、その実すごい暑がっていることは疑いがない。オレだってとっととこんな上着は脱ぎ捨ててしまいたいが、流石に目の前の上司が軍服をきちんと着ている状況で護衛のオレが先にTシャツ1枚になるわけにもいかず、おかげでこの炎天下の中汗をだらだら流しながら歩かされている。だいたい軍服ってのはなんでこう地厚なんだ。そろそろ暑い季節だし、半袖半ズボンの軍服とか作ってくれたら仕事の効率も上がりそうなもんなのに。 「じゃあもう、巡回切り上げて帰りましょう。ここまでやったら今日は充分っスよ」 上着を脱がないならせめてもう帰ってしまおうと提案してもちらりとこちらを睨んだだけで黙々と歩き続ける。全く、変な所だけ真面目なんだから。うんざりして視線を泳がせると通りに面した店にアイスキャンディーの幟が立っているのが見えた。 「大佐っ、ちょっと待ってて下さい!」 「ハボック?」 その幟を見た途端、矢も楯もたまらなくなって店に突進していた。オレの勢いにびびっている店の主人に金を払ってアイスキャンディーを2本買う。急いで大佐のところに戻ると、はい、と1本差し出した。最初はびっくりしていた大佐もこの暑さに負けてオレの手からアイスを受け取った。 「ったく、勤務中だって言うのに」 わざとらしく顰め面をするから 「息抜きも大事っスよ」 と言ってやった。冷たいアイスに齧りついてあっという間に食べてしまう。しまった、もう1本買えばよかった。 大佐のほうを見やればアイスを持ったままオレの方をみて目を丸くしていた。 「食べないんスか、溶けちまいますよ」 と言うと、思い出したようにアイスに目をやって、徐に食べ始めた。その様子を横目で見て、オレの心臓がどきりと跳ね上がった。小さく舌を出してアイスを舐める仕草は妙に艶っぽいというか、なんでそんな伏せ目がちで色っぽい仕草でアイス食うんだよ。しかも拙いことにその様子を見ているうち、昨夜の大佐を思い出してしまった。慌ててその映像を頭の中から追い出そうとするが、一度思い出したものは後から後から次々と止まらなくなって。 「わあっっ!!」 と思わず大声を上げたオレを大佐がびっくりして見上げた。その思いがけず幼い表情にますます心臓が跳ね上がる。オレは堪らなくなってその場を駆け出すとさっきアイスを買った店に飛び込んだ。店の主人が完全にびびって店の隅に張り付いている。 「か、カキ氷、あったよな」 そういうオレにうんうんと首を縦に振るオヤジ。 「練乳イチゴ1つっ!」 オレの剣幕に震えながらも必死に氷を掻くとシロップをかけてオレに差し出した。それを受け取って大佐のところに戻ろうとすると誰だか男が大佐の側に立っている。 (アイツ、市議のとこのバカ息子!) バカなくせにやたらと機会を伺っては大佐の側に引っ付こうとする目障りなヤツだ。大佐は表面にこやかに内実うんざりしてソイツの話を聞いていたが、オレに気がつくと手を上げて話をきり、オレの方へ急ぎ足でやってきた。 「休憩中ならお話でもとか纏わりついてきた」 うんざりして大佐が言うのに、思わずバカ息子を睨みつけて大佐の腕を引いてその場を離れた。少し歩いた所で立ち止まると大佐がげっそりした声を出した。 「アイスがたれた」 見ると、溶けてきたアイスが大佐の手を伝って手首の方まで流れてきている。オレは大佐のアイスを取るとアイスが零れた手を徐に持ち上げた。 「ちょっ…、ハボ…っ」 大佐が制止するのを無視して舌をだして大佐の腕をゆっくりと舐め上げた。びくりと大佐の体が震えるのにかまわず綺麗に舐め上げてしまうと腕を離す。見下ろした視線の先、大佐が目元をうっすら紅くしてオレを睨んでいた。 「アイスはオレが食うんで、代わりにコレ」 と言って、先ほど買い求めたカキ氷を差し出した。大佐は目を見張ってオレとカキ氷を交互に見やっていたがやがて器を受け取るとスプーンですくって食べ始めた。それを見てオレも溶けかかったアイスをぱくりと食べる。子供のような仕草でカキ氷を食べる大佐を見て、オレは通り沿いのガードに手をついてもたれかかる。 (なんか、すごい疲れた…) 青い空を見上げながらそっとため息をつく。こんな暑い日の巡回は二度とゴメンだと思うそんな午後だった。 2006/5/24 |
いや、あの軍服着て歩き回ったらさぞかし暑いだろうなぁと思って。しかし、巡回中にアイス食べたらやっぱ拙いっしょ…。 |