| 手 |
| 「す、すみませーん!」 久しぶりに休日の重なった日の前夜、ハボックの家で過ごすべく通りを歩く二人の前にたくさんのキャベツがゴロゴロと転がってきた。ふと先を見れば、荷車の荷台からキャベツが転がり落ちている。 「あー、荷崩れしちまったんスね」 と言ってハボックは先ほど買い込んだ食材の紙袋を片手に抱えるとあいた方の手で大きなキャベツを拾っては荷台に戻してやる。ロイのほうを見て視線で促せば一瞬顔をしかめたものの、ちっと小さく舌打ちして一緒にキャベツを拾い始めた。 しばらくそうして他の通行人も巻き込んでのキャベツ拾いがつづいていたが、気がつくとロイはキャベツを両手にもったまま難しい顔をしてハボックと自分の手元を見比べている。一体なにをしているのかと思ったが、その時にはあらかたキャベツも拾い終わっていたので、ハボックは立ち上がるとロイの側に歩み寄り、ロイが持っていたキャベツを片手で取って荷台に戻してやった。何度も頭を下げて立ち去る男を見送って、ハボックは家に行こうとロイを促した。 「どうかしたんスか?」 相変わらず難しい顔をしているロイに声をかけるが、ちらりとハボックの方をみるだけで答えはしない。まぁいいか、とハボックはアパートに向かって歩き出した。 食事が終わってソファでくつろぐロイのところにハボックがコーヒーを運んできた。片手にはデザートの皿を持ち、もう片手にマグ二つを軽々掴んでいる。 「はい、どうぞ」 とロイの前のテーブルにおいてやるが、ロイはまたもやむぅと押し黙ってハボックの手元を見ていた。 「さっきからどうかしたんスか?オレの手に何かついてます?」 ハボックが問いかけるとロイは暫く黙っていたが、小さな声で「手」と言った。 「ハイ?」 きょとんとしてハボックが答えるとロイはハボックの左手を取り、自分の右手の手のひらと合わせる。 「でかいな」 合わせた手のひらは明らかにハボックの方が一回り大きい。 「なんかムカツク」 ロイは乱暴にハボックの手を振りほどくとムスッとしてハボックを睨みつけた。 「えー、もしかして、さっきからそんなこと考えてたんスか?」 思いもつかないことを言われて、ハボックは目を丸くした。 「なんで、あんなデカイキャベツを片手で軽々持てるんだ。私なんて両手でないと持てないのに」 「いやぁ、それは体もデカけりゃ、手もでかくないと釣り合いが取れませんし…」 「今だって片手でよくそれだけ持てるな」 「別に持てりゃいいってもんでもないでしょう」 「ハボックのくせにムカツク」 どうにもどこが気に入らないのかハボックにはさっぱり判らず、でも、せっかく二人でいるのに不機嫌なままでいて欲しくはない。そこでハボックはロイの隣に並んで腰掛けるとそっとロイの手を取った。 「大佐の手の方がオレより小さいかもしれませんけど、でもキレイな手でオレは好きです」 そっと両手で包み込みロイの目を見ると、ロイは目元をうっすら赤くして目をそらした。 「大佐…」 ハボックが片手を伸ばしてロイを抱き込もうとした時、ロイがふとハボックの手を持ち上げ自分の口元に持っていき、その長い指に思い切り歯を立てた。 「いってぇっっ!」 「やっぱり気に入らん」 すくっと立ち上がったロイを 噛まれた指を抱えてハボックが恨めしげに見上げる。 「アンタ、何考えてるんスか…」 涙目になってふうふう指に息を吹きかけるハボックを見ていたロイだったが、徐にハボックの隣に腰を下ろした。また何かされるのかと身構えるハボックの手を取ると今度は血のにじむ指に舌を這わせる。ぎょっとしたハボックが手を引っ込めるのに逆らわずにその手を離してやると、ハボックの顔を下から覗き込んでロイはうっすらと口元に笑みを浮かべた。 「アンタねぇ…」 そんな風に振り回される自分を見て、ロイはすっかり機嫌を直したようだ。どんな形であれ彼の機嫌が直ったことにホッとする自分がちょっと情けない。 ハボックはため息をつくとぬるくなったコーヒーをすすった。 2006/04/26 |
買い物に行ったとき、レタスを片手で持てなかったんですよ。で、ハボならでかいキャベツも楽々だろうと思ったらこんな話が出来てしまいました。 |