がちゃりと鍵を開けてアパートの部屋に入っていくハボックに続いてロイが扉をくぐると、なにやら黒い塊がするりと足の辺りを通り過ぎた。
「なんだ?」
 と明かりのついた部屋の中 足元を見渡せば黒い猫がハボックの脚に擦り寄っていた。
「腹減ったのか、ちょっと待ってろ」
 ハボックはそう言って抱えていた紙袋をキッチンのテーブルの上に置くと、棚の中から皿とキャットフードを取り出して猫の前においてやる。途端、猫は皿に鼻先を突っ込んでがつがつと食べ始めた。その猫の背を優しく撫でてやるハボックにロイは不機嫌に聞いた。
「何だ、その猫は?」
「この間の雨の日よろよろになって歩いてるのを拾ったんスよ。その内誰か飼ってくれる人を探そうと思ってるんですけど、ここんとこ忙しくて結局まだオレのとこに居ついちゃって」
 微笑みながら猫の背を撫で続けるハボックの様子にロイはますます不機嫌になって言った。
「私も腹が空いてるんだがな」
「ああ、すんません。急いで用意します」
 猫のそばから立ち上がってハボックは紙袋から食材を取り出して料理を始める準備をする。すると、エサを食べていた筈の猫も立ち上がるとハボックの後についていった。
「こら、そんなに擦り寄ったら踏んじまうぞ」
 ハボックはそう言いながらも猫を追い払おうとはしない。
「そんなに足元に纏わり付いてたら料理なんてできないんじゃないか」
 ムスッとしてロイが言えば
「一日中ほっとかれたから甘えてるんスよ」
 と目を細めて嬉しそうにハボックが言うのでロイはますます腹が立ってきた。
「食事ができたら呼んでくれ」
 そういい残して足音も荒くリビングの方へ行ってしまった。


(なんで猫なんて飼ってるんだ…)
 そんな話は一言も聞いていない。自分に無断で猫を飼うなんてとロイは不機嫌に眉を寄せる。自分を無視してハボックに擦り寄る猫も許せないがその猫を可愛がるハボックにも腹が立つ。すっかりほっとかれた気分になって苛々と形の良い爪を噛んだ。

「大佐、食事の用意できましたけど」
 呼びに来たハボックをソファーから見上げればその腕の中で猫がごろごろと喉を鳴らしてハボックに擦り寄っている。その様子にムカッときたロイは返事もせずにソファーから立ち上がるとさっさとキッチンの方へと行ってしまう。
「なんか機嫌わるいなぁ…」
 ロイの様子にハボックが途方にくれたように猫に話しかけるのを背中で聞いてロイはますます眉間の皺を深くした。ロイに続いてキッチンに入ってきたハボックは猫を床に下ろして、
「さ、お前はあっちに行ってろ」
 と猫の尻をぽんと押す。猫は不服そうにハボックの周りをうろうろしていたが、ハボックに駄目だといわれてすごすごと部屋の隅にあったクッションの上に丸まった。食事を始めてもずっと不機嫌なままで一言も口を開こうとしないロイにハボックはそっとため息をついた。
(ここに来るまではそんなに機嫌悪くなかったよな)
 一体こんなに不機嫌になるようなことをいつしただろうと必死に考えるハボックだったがどうにも思い至らない。結局気まずい雰囲気のままもそもそと食事を終えて、食器を片付けるとハボックはリビングのソファーに座るロイのところへ食後のコーヒーを持って近づいていった。
「大佐」
 コーヒーのカップを差し出せばロイは黙ったまま受け取る。ハボックはロイの隣に腰をかけるとそっとロイの髪に手をふれた。
「オレ、なにか大佐の気に触ることしました?」
 恐る恐る聞いてくるハボックを見やれば心底困ったような笑みを浮かべてロイを伺っている。ハボックにしてみればまさか猫ごときにロイが腹を立てているとは思わず、ロイも自分が大人気ないとわかっているのでせっかくの二人きりの時間にこれ以上気まずいままでいることもないと思って口を開こうとした時。
 走ってきた猫がハボックの膝の上にぴょんと飛び乗ってきた。その拍子にハボックが持っていたカップが大きく揺れてロイの腕にコーヒーが掛かってしまう。
「あっつぅっ!」
「うわっ、たいさっ」
 ハボックが慌ててロイと自分のカップをテーブルに置くとロイの腕を引いてソファーから立たせてそのまま洗面所へと連れて行った。蛇口から勢い良く水を出すとその下にロイの腕を晒してコーヒーが掛かった部分を冷やしていく。しばらくそうして冷やした後、ハボックはタオルでロイの腕を拭いてそっと袖を捲り上げた。
「少し赤くなってますね」
 そういってロイをそこに残したまま奥の部屋へ行くと薬箱を持って戻ってくる。手当てを済ませるとすまなそうにロイの顔を見つめた。
「すんません、痛みますか?」
 ハボックにそう問われてロイはハボックの背に腕を回した。
「お前のせいじゃないだろう」
 そう言って胸元に顔を伏せるロイにホッと息をついてハボックはロイを抱きしめる。気が付くと足元を猫がちょろちょろするのをハボックが軽く足先で押しやって「コノヤロー」と呟くのを聞いてロイはくすりと笑った。
「大佐…」
 そう囁いて降ってくる唇を受け止める。段々と深くなっていく口付けに立っていられなくなってロイはハボックの腕に縋り付いた。そんなロイの体を軽々と抱き上げてハボックは寝室へと入っていく。後を付いてきた猫が部屋に入る前に扉をパタンと閉めた。かりかりと扉を引っ掻く音にロイは小さく笑って
「入れてやらなくていいのか?」
 と聞く。
「バカ言わんで下さい」
 ハボックがムッとしてそう言うのを楽しげに聞いて、ロイは横たえられたベッドの上から手を伸ばしてハボックを引き寄せた。引き寄せられるままにハボックはロイの上に覆いかぶさって唇を重ねていく。口づけを交わしながら空いた手でロイの服を脱がせていった。露わになった肌に手を滑らせればびくびくと体を震わすロイに自然と体の中心に熱が籠って行く。首筋に肩に胸に数え切れないキスを降らせればロイの唇から耐え切れない甘い吐息が零れた。ロイの中心に手をやるとそれは既に頭をもたげて先走りの蜜をこぼしていた。零れる蜜を塗りこめるようにしてゆっくりと扱いてやるとロイが溜まらずハボックに縋り付いてくる。それを嬉しく受け止めてハボックはロイを追い上げる手を早めていった。
「ああ…っ、も、でる…っ」
 縋り付く腕に力を込めてロイが言うのにハボックはうっすらと笑ってロイの顔を覗き込んだ。ぶるりと全身を震わせて達したロイの顔はうっすらと上気して堪らなく艶っぽい。
「可愛い…」
 そう呟いてハボックはロイが放ったものをゆっくりとまだ閉ざされた蕾へと塗りこめて行く。指を一本差し入れてぐるりとかき回せばびくりとロイの体が震えた。口付けを交わしながら差し入れる指を増やしていく。感じるところを突いてやれば耐え切れずに短い叫びが上がった。
「ふぁ…っ、や、やだっ、もう、やだ…ぁ…」
 ふるふると首を振るロイに堪らない愛しさを感じてハボックは指を引き抜くとゆっくりと自身を埋めていった。小さく息を吐いて必死に自分を受け入れようとするロイにハボックの胸を温かいものが満たしていく。根元まで埋め込んで暫くロイの体を抱きしめていたがやがてゆっくりと動き出した。だんだんと激しくなる動きにお互いの息があがり汗が流れる。体の中心から湧き上がる快感に耐え切れず艶やかな声を零すロイにハボックも煽られて高みへと追い上げられていった。
「ああ―――っっ」
 僅かに先に達したロイに締め付けられてハボックも追うようにロイの中へと熱いものを放った。


 足りないと何度も求め合って、ロイはいつの間にか意識を飛ばしていた。気がついたときにはすっかり清められてハボックの腕の中に抱きしめられていた。充分満たされてロイは満足げにハボックの胸元に顔を摺り寄せる。
そんなロイを見てハボックがクスリと笑った。
「アンタ、猫みてぇ」
 そう言ってロイの額に口付ける。
「あの猫初めて見た時、アンタのこと思い出したんスよ。すっかり弱ってるのに助けようと伸ばした手に全身の毛を逆立てて強情に助けを拒もうとするのがなんだかアンタみたいで。アンタが傷ついているみたいでほっとけなくて」
 そんな事を言いながらキスを降らせてくるハボックに愛しさを募らせて。
 ロイはハボックの背を掻き抱くと唇を合わせた。


2006/5/22


ロイ猫話を書くつもりはありませんが、やっぱりロイっていったら黒猫って連想ですよねー。先日子供の運動会で「黒猫のタンゴ」を子供達が猫耳に尻尾をつけて踊っていたのを見て、すっかり萌えあがってしまったダメダメな母です…。しかし、久しぶりにこれ読んだら、エチが温い〜〜とか思ってしまった(←おい)

イサヲさまが1000 hitsのお祝いで黒猫を抱いたハボを描いて下さいました。素敵なイラストはこちら