| aroma 2 |
| 午前中で終わるはずの仕事はなんだかんだでずるずると午後にずれ込み、帰るころには時計の針は3時になろうとしていた。今日は休みで家にいるあの人は今頃帰りの遅い自分に腹を立てているだろうか。そう思うと足取りも否応無しに早まっていく。ほとんどランニングする勢いで家に帰り着いた。 出かける前にちゃんと起きて食事を取るよう言っておいたけど、ちゃんと食べてるだろうか。ほっとくと人間らしい生活からあっという間に遠ざかってしまうあの人の為にいろいろ気を回すのは嫌じゃない。人に懐かない猫がごろごろと擦り寄ってくるようで、いろいろ世話を焼くのはなんだか楽しいのだ。 家に入る前に朝干しておいた洗濯物を取り込もうと庭に回る。洗濯物はいっぱいの日差しを吸い込んで、ほかほかと気持ちよかった。ふと視線を上げれば寝室のカーテンがあいているのが目に入った。 (あ、ちゃんと起きてる) 寝ぎたないあの人が自分がいないのをいいことにベッドから出ていないのではと本当のことを言うとちょっと心配だったのだが、流石に起きているようだ。洗濯物を持って家に入る。「ただいま」とかけた声に応えはない。キッチンを覗けば用意しておいたサンドイッチを食べてくれたようで、汚れた食器が流しに入れてあった。洗濯物をダイニングの椅子の上において、大佐を探して部屋を見て回る。 「大佐?」 2階の部屋を見て周り、1階もひとつひとつ覗いていくがどこにも求める姿は見当たらない。 「出かけたのかな…」 でも、それならメモの一つもありそうなものだ。どうしたのだろうと考えて、ふとまだ見ていない部屋があるのを思い出した。 (まさか…) 寝室の扉を開ければ午後の日差しに照らされたベッドの上にもっこりと毛布が丸まっている。 「ちょっと、まさか、大佐?!」 ばっと毛布を捲れば小さく丸まって眠る愛しい人。 「…ちょっと、アンタ、まさか今までずっと寝てたんスか?!」 肩をゆすってもちっとも起きようとしない。 「たーいーさっ!起きてくださいよ!」 耳元で怒鳴ると突然腕が伸びてきてベッドの上に引き倒された。 「うわっ!ちょっと、たいさ〜、なにするんスか!」 オレの胸元に顔を寄せて鼻先を摺り寄せている。何をしているんだと見つめていれば今度は手が伸びてきてオレの顔を引き寄せるとまじまじと覗き込んできた。 「ああ、こっちの方が綺麗だ」 そう言ってうっすら微笑むとオレのことをベッドに放り出して体を起こし、う〜んと伸びをしている。何がなんだかわからずに呆然とするオレをほったらかして、ベッドから降りるとずるずると毛布を引きずって部屋から出て行こうとした。 「あ、ちょっと、大佐!」 我に返ってオレは大佐を引き止めた。 「また、そんな格好して!ちゃんと服、出しといたでしょうが」 「どうせもう少ししたら夜だし、めんどくさい」 「…アンタね…」 ぼさぼさ頭のままそんな事を言う彼にがっくりと肩を落とした。彼に想いを寄せる女性達にこの姿を見せたらさぞやがっかりするだろう。もっとも、こんな姿を拝めるのは多分オレだけなのだろうけれど。 「一日中籠ってたら体に良くないっスよ。夕飯の買出しに行くんで大佐も一緒に行きましょう。はい、着替え」 差し出された服とオレの顔を交互に見やって 「お前が脱がせたんだからお前が着せろ」 なんてとんでもないことを言う。 「…いい加減にしないと襲いますよ」 僅かに火照った顔を隠して彼に服を押し付けると寝室を出た。 洗濯物をたたんで、汚れた食器を洗っていると彼が欠伸をしながらキッチンに入ってきた。 「目が開かない…」 「そりゃ、寝すぎですよ。寝すぎると目玉が溶けるって言われませんでした?」 「なんだ、それは。聞いたことがないぞ」 「オレはばあちゃんによく言われましたけどね」 そう言いながら手を拭いて彼の方を振り向く。半日ぶりにゆっくり見た顔に知らず笑みが零れて、手を伸ばして彼を引き寄せるとそっと唇を合わせた。くすり、と笑ってオレの首に手を回すとさらに深く口付けてくる。なんども口付けを交わして。止まらなくなる前に彼を引き離した。 「夕飯、食いっぱぐれちまいますよ」 「それは困る」 サンドイッチしか食べてないから腹が減ったと勝手なことを言う彼を愛しくてたまらないと思う自分はもう随分末期なのだと思う。でも、それでもいいと思えて。 「買出し、行きましょうか」 彼の背を押して夕暮れの街に出かけて行った。 2006/5/20 |
| 「寝すぎると目が溶ける」って言うのは、私が小さい頃よく親に言われた言葉です。私もしょっちゅう寝くたれてたのがバレバレ(汗)それにしても、ハボ、ホント、ロイに甘すぎだよ…。 |