aroma


「大佐、オレ仕事行きますけど、メシ作ってありますから食べてくださいね。 夕飯は帰ってから作りますから。 大佐、聞いてます?一人だからっていつまでも寝くたれてないでくださいよ」


 カーテンからちらちら覗く光に眠りから引きずり出されてぽっかりと目が覚める。いつもならそこにいるはずの金色の頭が見えなくて思わず毛布を捲ってみた。
(そういえば仕事とか言ってたな)
 今日は私は全休だがハボックは午前中出だと言っていたことを思い出す。一人放って置かれたような気になって面白くなかった。いつもならアイツがメシだなんだと起こしに来る所だが、一人だと起き上がる気にもなれずベッドの中でうだうだと時間を過ごす。それでもどうにも喉が渇いてきて仕方なしにベッドから起き上がった。
 さっきからちらちらと外で動いているものの正体が気になってカーテンの陰からそっと覗くと、庭一杯に真っ白なシーツやらシャツやらが干されて風にゆれていた。
(マメなヤツ…)
 出勤前の僅かな時間に洗濯していったらしい。青い空に気持ちよさそうに翻っている。カーテンをしめて毛布をかぶったままキッチンへと向かう。
『あ、またそんな格好して!ちゃんと着替えてきてくださいよ。服、出しといたでしょ?』
 アイツの声が聞こえるような気がしたが無視してずるずると毛布をひきずって歩いた。キッチンに入ると布巾の掛かった皿が目に付いた。ポットからコーヒーを注いで布巾をとると色とりどりのサンドイッチが綺麗に盛り付けてある。
(ホントにマメなヤツ…)
 一体何時に起きてこれだけのことをやったんだと少しあきれ混じりに思って。私がまどろんでいる間、ひとり洗濯物を干したり、サンドイッチを作ったりするアイツの姿が思い浮かんで自然笑みがこぼれた。
 いつもなら砂糖とたっぷりのミルクを入れるコーヒーを今日はアイツと同じブラックで飲んでみる。口に広がるコーヒーの苦味に向かいの席にアイツが座っているような気になった。
 サンドイッチとコーヒーで食事を済ませると使った食器を流しの中へ入れて思い切りのびをする。どうせすることもないしもう一眠りしようとベッドルームに戻った。


 ぱふっと枕に顔を埋めると微かにハボックの匂いがした。昔は大嫌いだった煙草の匂い。それがいつからか私を落ち着かせる香りになり、その香りに抱かれると安心するようになった。その香りに誘われるように優しい腕に抱き込まれ、とかされて喰われることを望んでいる自分がいる。
(食虫花みたいだ)
 甘い香りに誘われて囚われてゆっくりと溶かされて喰われていく。そんな事を枕に顔を埋めたままつらつらと考えていたら急にアイツに会いたくなった。今ここにいないアイツに猛烈に腹が立って。
 ベッドから起き上がるとカーテンを思い切り引いた。途端に薄暗かった室内に光が満ちて眩しさに目を細めた。窓に目をやれば目の前一杯に広がる真っ青な空。
 暫く空を見るうち気持ちが落ち着いていく。ベッドに戻って光を遮るように頭の上まで毛布をかぶった。毛布の隙間からそっと覗けばそこには綺麗な青い空。優しい香りと綺麗な青に見守られていつしか眠りに落ちていった。


2006/5/20


お休みの日のロイ。洗濯も食事の用意も全部やって貰って、こんなダラけた生活、送ってみたい…。