| 雨上がり |
| 狭い軒下で通り雨をやりすごして。 やっとそこから出られるようになる頃には陽も傾いていた。ぐっしょりと濡れそぼたれたまま司令部に帰ったところで着替えがあるわけでもなく、中尉に連絡をとったら今日はもうそのまま帰ってもいいという驚きの許可を貰って。 ハボックの運転する車で家に向かった。 「風呂沸かしますからちゃんと温まってくださいね」 そう言って風呂の準備をするハボックをぼんやりと見ていた。そんな私に気付いてハボックはため息をつきながら近づいてくる。 「ほら、そんな格好してたら風邪引くっスよ」 私の上着をぬがすと風呂場へと追い立てた。 「体洗ってるうちに沸きますから、そしたらゆっくりつかってくださいね」 そうしてびしょ濡れになった上着を手に帰ろうとする。 「帰るのか?」 「だって、着替えないし。あ、メシ、作ってって欲しいんスか?じゃあ、大佐が風呂入ってる間に適当に作っておくんで」 そう言って上着を置くとキッチンに行こうとするハボックの腕を思わず掴んだ。 「お前だってそんな格好してたら風邪引くだろう」 「大丈夫っスよ。オレ、頑丈にできてるんで」 ニっと笑うその顔に眩暈を感じながら、それでもその腕を放さずに。 「着替えなんてどうとでもなるだろう。そのままじゃ風邪を引く。風呂に入ってけ」 「何言ってるんスか。大佐こそさっさと風呂入ってくださいよ」 私を押しやる手をそっと掴んで。 「二人で入れるくらいの広さはあるぞ」 ハボックの目を見ずにそう言った。 「えっ?!いやでも、それはマズイでしょ」 たちまちしどろもどろになるハボックに思わず笑みが浮んで下から覗き込むようにして言う。 「命令だ。一緒に入れ」 「ええっ?何スか、それっ?!」 真っ赤になって私の手を振りほどこうとするハボックを強引に風呂場へと連れて行った。 濡れた服を脱いで風呂場に入る。 もう何度も肌を合わせているのになんとなく気恥ずかしさが先にたって、お互い目のやり場に困ってしまう。湯気にこもる洗い場で体を洗いながらそっとハボックの方を盗み見た。 髪を洗うために頭上に上げた腕から背中にかけての筋肉が、綺麗に盛り上がって動いているのにドキリとして慌てて目を逸らした。同じ男なのに私とは全く違った体つき。どんなに鍛えても最小限必要なぎりぎりの筋肉しか付かない私と違って、男らしく厚い筋肉を纏った体。でも、決して鈍重な感じはせず、それどころか必要とあれば目を瞠る速さで行動することが出来るのを知っている。敵を瞬殺できる力強い腕が、限りない優しさを持って私を抱きしめることが出来るのを知っている。 思考が思わぬ方向へ動き出そうとするのを首を振って止めると、シャワーを使って泡を流した。ハボックもほぼ同時に洗い終えたようで、立ち上がると外へ出ようとする。 「オレはシャワーで十分なんで、大佐、ゆっくり温まってきてくださいよ」 「何言ってるんだ。お前もちゃんと温まって行け」 と言うと、あー、だの、うー、だのもごもご言っている。はっきりしないハボックに苛ついてその腕を引くと、湯船に向かって強く押した。 「えっっ!?」 後ろ向きに数歩歩くと膝裏のあたりを湯船にぶつけてそのまま湯船の中にどぼんと入り込む。押した私もびっくりして湯船の中を覗き込めば、湯の中からすごい勢いで顔を出した。 「ぶはっっ!!何するんスかっ、アンタ!頭打ったらどうしてくれるんです?!」 そんなハボックに思わずククッと笑いがこぼれた。ハボックがムッとして私を見たと思うといきなり腕を掴まれて湯船の中へ引きずり込まれた。 「うわ…っ」 抵抗する間もなく湯の中に全身が沈む。咄嗟のことに息を止めることも儘ならなくて思い切り湯をのんでしまった。 「げほっげほっげほっ…っっ」 湯から顔を出して思い切りむせ返る私に流石に拙かったと思ったのか、ハボックが慌てて背中を擦ってきた。 「わ、大丈夫っスか?」 「き、気管に入った…っ」 「すんません…」 しょげ返って背中を擦り続けるハボックに怒る気になれない。大きな手で優しく擦られて全身の力が抜けていく。深く息を吐いて、ハボックをクッションにして湯船の中に脚を伸ばした。 「…大佐?」 「…気持ちいい…」 吐息と共に言葉を吐き出してハボックの胸にもたれかかった。 「…オレ、クッションじゃないんスけど」 「うるさい、黙ってろ」 せっかく気持ちよく浸かっているのに邪魔をされたくなくてそう言えば、大人しく黙り込んだ。暫くそうして湯船に浸かっていたが、ふと、私の脚になにやら固いものが当たるのに気づいた。 「…おい」 「す、すんません…」 「…お前な…」 「仕方ないっスよ、生理現象ですもん。大体アンタが擦り寄ってくるのがいけないんスよ」 「私のせいだというのか―――?」 「アンタ以外の誰がいるっていうんスか」 「風呂場でサカるんじゃない!」 そう言ってわざと上から体重をかけてやると、ギブギブっなどと叫んでいる。そんなハボックを放っておいて湯から上がると脱衣所への扉に手をかけた。 「大佐〜」 情けない声で呼ぶのに肩越しに振り向いて小さく笑う。 「性質わりぃ…。」 扉を閉める自分の耳にそうハボックが呟くのが聞こえた。 バスローブを羽織って濡れた髪のままソファーにどさりと座り込む。芯から温まった体はゆったりとほぐれてだらりと手足を投げ出して目をつぶった。少しして風呂場の扉が開く音がしてハボックが出てくる気配がする。 「喉が渇いた」 その気配に向けてそう言えば、まったくもう、とぼやきながらキッチンへと入っていった。 カランと澄んだ音に目を開くと目の前にはレモネードのグラス。受け取って一口飲むと爽やかなレモンの香りとハチミツの甘さが喉に広がった。 「ほら、ちゃんと髪乾かさないと」 そう言ってタオルで私の髪を拭き始める。大きな手で優しく拭われてホッと息が漏れた。されるままに頭を預けてグラスの中身をあおっていると、ピタリとハボックの動きが止まった。怪訝に思って振り仰ぐ前にハボックが私の前に回ってきて持っていたグラスを取るとテーブルの上に置く。どうしたのかと尋ねるより早く横抱きに抱え上げられて抵抗する暇もなくあっという間に寝室のベッドの上に運ばれていた。 「アンタ、無防備すぎっス…」 真上から私を覗き込んでそう呟く。 「なに言って…」 「そんな風にオレに喉下晒して、もしオレがその気になったらへし折るのなんて簡単っスよ?」 そう言いながら見下ろしてくる瞳は情欲に陰って暗く染まっている。そんなハボックに知らず笑みが浮んだ。ハボックの首に腕を回してゆっくりと引き寄せる。 「お前にならかまわない…」 息の止まるその瞬間までこの空の色の瞳を見ていられるならそれもいいかもしれないと思いながら唇を寄せた。大きく見開いた空色が目の前に広がり、次の瞬間噛み付くようにキスされていた。 「ん…ふっ…」 きつく舌を絡めあい深く口付ける。飲みきれない唾液が唇の端から漏れてシーツを濡らしていく。乱暴にローブの前をはだかれてハボックの手が体を弄ってきた。私もハボックのローブをはだけて中に手を滑り込ませる。堅く閉まった筋肉に触れてもっともっと近づきたいと思った。お互いの身に纏った邪魔な布を脱ぎ捨てて素肌を重ねる。少しでも離れたくなくてハボックの腰に脚を絡めた。そんな私の様子に僅かに笑って、ハボックは体中に口付けを降らせてくる。小さな痛みを伴うそれが降った後には綺麗な紅い花びらが 残った。ハボックの手が私の中心に下りて、ゆっくりと扱き始める。その強烈な刺激に体が大きくしなった。 「大佐…」 耳元で囁く声に目を開いて目の前に唇に口付けながら、ハボックに腰を押し付けた。ハボックが笑う気配がして次の瞬間暖かいものに自身が包まれるのを感じた。舌と喉を使って性急に追い上げられる。背筋を這い上がる快感になす術もなくハボックの口中に放ってしまった。 「はあっ、は…っ、…あ…」 激しく胸を上下させ空気を取り込もうとする唇を塞がれて、息苦しさにハボックの肩に爪を立てた。やっと唇を解放されてほっと息をついたのもつかの間、後ろに指を差し込まれて思わず息が詰まった。何度されても慣れないその感触に身がすくむ私をなだめるように啄ばむような優しい口付けが降ってくる。無我夢中でそれに答えていくうちに、ゆっくりとハボックを受け入れるよう私の最奥が開かれていく。 「大佐」 熱く滾るハボック自身が添えられて、じわじわと私の中へ侵入してきた。 「あ、あ、あ、―――っっ」 あまりの圧力に目の前の男に縋り付く。全部納めきるとハボックは汗に濡れた私の前髪を掻き揚げて額にキスを落とした。 「愛してます」 うっとりと囁く男にキスで答えて。 徐々に激しくなる動きに追い上げられて、白い欲望を吐き出すと同時にハボックの熱が放たれるのを感じた。 体を繋いだまま荒い息に胸を弾ませて。ハボックが頬に唇をよせて小さく囁いた。 「ホントはあそこでこうしたかったんス…」 言っている意味がわからなくて視線で問い返す。 「今日、雨宿りしたでしょ。あそこで。大佐があんまり可愛くて、抱きしめてキスしてめちゃくちゃにしたかった…」 私の肩に顔を埋めて、まるで叱られるのを怖がる犬みたいに小さく丸まってそう呟くハボックにたまらない愛しさを感じて。 「好きにすればよかったのに…」 思わず呟いていた。勿論、あそこでことに及ぶわけには行かないだろうが、それでも抱きしめられたいと願っていたのは私も同じだから。同じ熱を感じていたことを幸せに思って。 そんなことをまだぼんやりとした頭で考えていると、私の中にまだ埋め込まれたままのそれがにわかに熱を帯びたのを感じてぎくりとする。 「…おい…」 「いや、だって、大佐が嬉しいこと言ってくれるから」 「何バカなこと言ってるんだ、さっさと抜け!」 「ムリです」 「前言撤回!好きになんぞされて堪るか!さっさと離れろ!」 「嫌ですってば。大丈夫、優しくしますから」 「ばかっ!今日早く上がった分、明日は早く行かなくてはいけないんだぞ!」 「ちゃんと起こしてあげますよ」 「仕事に差し支えるっっ!」 「いつもサボってるくせに」 だからね、と囁いてゆっくり突き上げてくるのに、続く言葉を堰きとめられて。 優しい腕に絡めとられて、なされるがままに熱い吐息を零しつづけた。 2006/5/12 |
「雨宿り」の続き。ラブラブな二人が好きです。 |