雨宿り  ロイside



「う、わっ!降ってきた…!」
 そう叫んでハボックは上着を脱ぐと私の頭にふわりとかけてきた。
さっきまでコイツの瞳の色をしていた空は今では暗く垂れ込めて大粒の雨が降り注いできている。突然私を包んだハボックの匂いに驚いて見上げれば、ハボックは少し先に見える納屋を指差して「あそこまで走りますよ!」とこちらの返事を待たずに走り出した。


 走ったのはほんの短い距離だったのに、あっという間に濡れそぼたれてしまう。納屋の軒下に入った頃にはコイツも私も結構濡れてしまっていた。
「へんな天気っスねぇ」
 そういいながらぶるぶるっと頭を振って滴を飛ばす様は大きな犬そのものだ。ぱたぱたとTシャツの胸を叩いているのを何気なく見やって次の瞬間―――。
 どくん、と鼓動が早くなった。
 すっかり濡れてしまったシャツはぴったりと肌に張り付いて体の線を浮びあがらせている。鍛え上げられたその体に思わず手を伸ばしそうになって、慌ててポケットからハンカチを取り出して自分の服を拭った。傍らのソイツをそっと見上げれば空色の瞳が自分を見つめていた。あまりに綺麗なそれに思わず手を伸ばして。
「濡れてる」
 ハンカチで頬を拭いてやりながら呟いた声は欲情を隠して掠れていた。そんな私の気持ちの揺れを察したのか、ハボックは私の手を乱暴に払うと大きな声で言った。
「そんなもんで拭いたくらいじゃ間に合いませんて」
 そうしてTシャツのスソに手をかけると一息に脱いでしまう。ぐっしょりと濡れたそれを大きな手でしぼってがしがしと頭と顔を拭った。男くさいその仕草に鼓動が早まるのと同時に、頭にかぶった上着が湿り気を帯びたことでますますハボックの匂いを強く感じさせるのに気づいて、息が止まりそうになった。
「大佐、寒くありません?」
 そう尋ねてくるのに呆然と見上げていた視線を慌てて伏せた。
「ああ、お前が上着を貸してくれたからあまり濡れなかったしな」
 そう言って頭から上着を取った。
「すまん、私は濡れなかったがお前の上着…」
 ハボックの匂いにばかり気を取られてすっかりびしょ濡れにしてしまった上着をハボックに差し出せば。
「いいんスよ。そのつもりで渡したんだから」
 そう言って目を細めて笑うから、どうにも恥ずかしくて目を逸らした。
 さり気なく向けられる気遣いが、優しく伸ばされる腕が、ほしいと思うときに与えられる温もりが、いつも私を甘やかす。
 気がつけばコイツが側にいることが当たり前になって、いつでもその匂いに包まれていたいと思うようになっていた。
 強く抱きしめられて何も考えずにいられないほど今すぐコイツを強く感じたいと願って。
 胸の奥からあふれてくる想いをもてあまして、暗い空から落ちてくる大粒の雨を見つめていた。


2006/5/11


考えることとはおんなじな二人。