紫陽花2



 市場で買い物を済ませて大佐を連れてアパートに帰ってきた。しとしとと降り続く雨は決して強くはないがそれでも服も髪もしっとりと水分を含んで冷たくなっている。鍵を開けて部屋に入るとすぐ空調システムをつけた。キッチンに買い込んだ物を置くとバスルームへ向かい湯船に湯を張る準備をする。
「今風呂沸かしてますから。アンタ、さっき雨に当たってたし、体冷えてるでしょ?メシ作ってる間に温まってきて下さい」
 そう言って大佐のコートを受け取ればかなり雨を吸って重くなっている。
「大して濡れてないから先に食事にしてくれ」
 大佐はそう言いながら紫陽花の鉢を窓辺に置いた。
「うそばっか。コート、かなり濡れてますよ」
 大佐の髪に触ればしっとりと指に絡み付いてきた。
「ほら、こんなに濡れて。風邪引いちまいますって」
「食事が先がいい」
 頑固に言い募る大佐にため息をついて、オレはタオルを持ってくると大佐の髪を拭いてやった。それから急いで温かいお茶を入れてくる。
「じゃあ、せめてこれでも飲んでてください。急いで作っちまいますから」
 頷いて窓辺に腰掛ける大佐にカップを渡すとオレは慌ててキッチンへと向かった。


 ちょっと栄養に偏りがあるかとも思ったが、大佐の好きなものばかり手早く作る。ちらりと大佐を見やれば窓辺に腰かけて紫陽花の花にそっと触れていた。その横顔は穏やかでそんな様子を見ているだけで温かい気持ちになる。テーブルに食事を並べると大佐の傍らへ寄っていった。
「食事、できたっスよ」
 そう言って手を差し出せば素直に手を預けて立ち上がった。
「もう腹ペコだ」
 そういう大佐に椅子を引いてやってテーブルにつかせた。大皿から取り分けてやれば嬉しそうに目を細める。
「どうぞ」
 と言えば頷いてフォークを手に取った。
「相変わらずお前の料理は美味いな」
 そう言いながら美味そうに食べてくれる大佐に思わず笑みが零れた。他愛無い話をしながら食事をする。こんなどうってことのない時間に幸せを感じてだらしなく頬が緩むなんて、オレも大概この人にイカレていると思う。
 どうしてこんなにこの人のことが好きなんだろう。確かに容姿端麗、頭脳明晰、10人中10人がこの人に惹かれるとは思うけれど、その性格ときたら一癖も二癖もあって一筋縄では行きやしない。いつだって随分な目にあわされていると思うのに、それでも他の誰でもない、この人がいいのだ。自分の目指す場所に向かって前を見続ける強い瞳が好きだと思う。どんなに傷ついても決して俯かない決して振り向かないその潔さが好きだ。彼のために少しでも役に立ちたくて側にありたいと思う。そして偶には止まる事をしない彼を甘やかしてその痛みを溶かしてやりたいとも思うのだ。
「ハボック?」
 考えに沈んでいたオレは大佐の呼ぶ声にハッとして目を上げた。気がつけば食事は大半がすでにお互いの腹の中に収まっていた。考え事をしていたわりには無意識に手を動かして食べ続けていたようでオレは思わず苦笑した。
「ああ、すんません。今デザート持ってきます」
 立ち上がって空になった皿をもってキッチンへ向かう。汚れた皿を流しに突っ込んで冷蔵庫からデザートを取り出した。酒も結構いける口なのにこの人は思いのほか甘いものが大好きだ。だからついつい食事を作る時はデザートまで用意してしまう。
「はい、どうぞ」
 と差し出せば嬉しそうに目を細めた。わ、やべぇ。すごい可愛いかも。こんな表情が見たくてオレはこの人を甘やかしてしまうのかもしれない。


 後片付けをしながらコーヒーの用意をする。大佐はまた窓辺で紫陽花と並んで座っている。意外と気に入って貰えたようで、ちょっと嬉しい。彼の好みに合わせて砂糖とたっぷりのミルクを入れたものと自分にはブラックでカップを2つ持って窓辺に向かう。
「コーヒー飲んだら送っていきますから」
 そう言ってカップを差し出すと大佐がムッとした顔をした。
「泊まったら拙いのか?」
「え、でも、アンタ、明日朝早いでしょ?」
 正直同じ屋根の下にいたら手を出さない自信は全くない。それどころかちょっとでも触れたら歯止めがきかなくなりそうだ。
「ここの方が司令部に近いだろう?」
「そりゃそうっスけど…」
 いやだから、察してくれ。そう思いながら大佐に視線を送るが、しかし。
「泊まってく。風呂貸してくれ」
 そう言ってオレにカップを押し付けるとさっさとバスルームへと向かった。
(オレのせいじゃないからな…)
 中尉の冷たい視線を感じたような気がしてぶるっと体を震わせて、オレは着替えを用意するべく大佐の後に続いた。


 大佐と入れ替わりでシャワーを浴びて出てくると大佐が窓辺でさっきのコーヒーをすすっていた。
「あれ、冷めちまってるでしょ?新しいの淹れますよ」
 そう言うオレにカップの中身を見せるように差し出す。カランと音のするそれを覗き込めば氷が浮いていた。
「アイスオレになってる」
 言えば得意そうにふふんと笑って見せる様子が子供みたいで可愛い。もうじき30にもなるという男をつかまえて可愛いもないもんだが可愛いもんは可愛いのだから仕方がない。
 オレは大佐の頭越しに窓枠に手をついて暗い外を透かし見た。
「雨、止まないっスね」
 オレの言葉に大佐が肩越しに外を見る。
 サーサーと、静かに降りしきる雨の音が部屋を満たしていく。時折大佐が傾けるカップの中で氷がカランと音を立てる以外は何の音もしない部屋の中で自分の心臓の音だけがやたら大きく響いているような気がした。視線を感じて振り向けば黒く濡れた瞳がオレを見上げていた。カップを取り上げて傍らに置くと、引き寄せられるように顔を寄せて唇を合わせる。
「たいさ…」
 啄ばむような口付けは段々と貪るものへと変わっていき、互いの口からは熱い吐息が漏れた。立たせようと手を伸ばす前に大佐が滑り落ちるように窓辺から床に腰を落とすと、突然オレのスウェットのズボンを引き摺り下ろし半ば立ち上がったソレを取り出した。
「…っ?!ちょ…っ、たいさっ?!」
 止める暇もあらばこそ大佐の口の中へ導きいれられるのを何とか避けようとして背後の窓に阻まれる。温かい粘膜に包まれて背筋をゾクゾクするものが駆け抜けた。
「たいさっ!」
 引き離そうと黒髪に手をやるがその途端強く吸い上げられてむしろ彼の頭を押さえ込むように手に力が入ってしまった。
「は…っ、ああ…っ」
 巧みな口淫に自分でも信じられない甘い喘ぎが零れる。括れをなぞられ鈴口を強く吸われやわやわと袋を揉みしだかれれば頭に霞がかかって何も考えられなくなってくる。だんだんと高まってくる射精感になんとか引き離そうと彼の髪に指を絡めた。
「も、う、離し…っ」
 これ以上我慢できない。頼むからやめてくれと心の中で呟いて射精感を押さえるために引き瞑っていた目をうっすらとあければ、オレのものを含んだままオレを見上げる黒い瞳と目が合った。
 ぞくり、と。
 耐え難いものが背筋を駆け抜けそれが快感だと理解したときには堪え切れずに熱を放っていた。それと同時に、熱を吐き出すそこから彼が唇を離したのが快感に霞む目に映った。
「あ、ああっ」
 呆然と見つめるオレの視線の先で彼の秀麗な顔に白濁した粘液が滴っていく。達した余韻とあまりの展開に頭がついて行かず窓枠にしがみついて漸う立っていたオレは次の瞬間さあっと血の気が引いた。
(やば…っ)
 口の中に出すのだって拙いと思ったのによりによってかけてしまうなんて。きっと怒鳴られる。慌てて謝ろうと口を開こうとした時。
 つと、彼が頬についたものを指ですくうと口元に持っていった。ピンク色の舌が唇から覗いて指についた粘液をねっとりと舐め上げる。オレの目を見つめながら何度か繰り返すうち その唇のはしが僅かに持ち上がった。
 笑っているのだと気がついた瞬間。
 オレは噛み付くように口付けていた。しなやかな体を抱きしめて貪るように口付ける。息を継ぐ暇もないほど深く深く口付ければくたりとオレに体を預けてきた。
「汚してしまって…」
 ごめんなさいと呟いて髪をかきあげれば
「いい」
 と微かに笑う彼に眩暈がする。そんな彼を抱き上げてバスルームへと向かった。汚してしまったパジャマを剥ぎ取り中へ入ると弱めに出したシャワーでそっと彼の顔を洗ってやる。大人しくされるままになっている彼を綺麗にしてやると浴槽のふちに座らせた。問いかける視線に微かに笑って耳元にキスを落とす。
「今度はアンタが気持ちよくなる番…」
 そう囁いて彼の中心に手をやった。びくりと震える体を無視してやわやわと摺り上げれば目を閉じて快感を逃がそうとした。堅く芯を持ち始めたそこから零れ落ちる滴をすくって後ろへと塗りこめてやる。ハッとして腰を引こうとするのを許さず、ゆっくりと指を沈めた。
「ふ…、あ…っ」
 仰け反った喉元に舌を這わせ沈めた指でぐるりと中を掻き回す。
「ああっ…あ、ん…っ」
 後ろに手をついてびくびくと体を震わす彼の足元に座り込むと片足を抱え上げ指を含ませた部分を目の前に晒した。
「やめ…っ」
 苦しい体勢に抗議の声を上げる彼を無視して沈める指の数を2本に増やし、それと同時に舌先を指で開いたそこに差し入れる。
「ひ…っ、や…っ、ハボ…っ」
 イヤらしく蠢く襞に舌を這わせてそれと同時に沈めた指をぐちゃぐちゃとかき回した。浴室の中に彼の掠れた喘ぎとねちゃねちゃと粘膜のこすれる音が響きわたる。3本めの指を差し入れる頃には彼の瞳は快感に霞み、オレの指を含ませたままゆらゆらと腰を揺らめかせていた。
「あ…や、もう…っ、指はや、だ…っ」
 うっすらと涙を浮かべて訴える姿がズンと腰に来る。
「どうしたいんです…?」
 囁くオレに何度も唇を震わせて
「は、やく…、よこ、せ…っっ」
 と振り絞るように言った。沈めていた指を一気に引き抜くと「ああっ」と仰け反って白い喉を晒す。
「ベッドに行きましょう」
 そういうと同時に彼の体を抱き上げてタオルでくるんでやると足早にベッドルームへと向かう。そっとベッドの上に下ろすと「はやく…」と囁いてオレの首に腕を回してきた。強請られるまま彼の脚を高く抱え上げゆっくりと己を埋めていく。
「は…っ、ああ…っ」
 全部埋めた所で一度息を吐いて、額に張り付いた黒髪をそっと掻きあげてやった。汗の滲む額にそっと口付ければ黒曜石の瞳が濡れた輝きを宿して見上げてくる。
「ハボック…」
 吐息とともに名前を呼ばれて彼の中で己の欲望が更に膨れ上がるのを止められない。
「あ…っ、ば、かっ…、大き…する、な…っ」
 彼の抗議の声にも煽られる自分がいて、思わず強く突き上げていた。
「ああっ…んぁ…っ、あっ…は…っ」
 揺すられるままに声をあげ、オレを含むそこをぎゅっと締め付ける。ぎりぎりまで引き抜けば逃がさないように熱い襞が絡みつき、最奥まで突き上げれば迎え入れるようにやわやわと絡み付いてくる。イヤラシイ動きをするそこに指を這わせるとびくりと体を震わせてかぶりを振った。
「や、だ…っ、触る、な…っ」
 身を捩る彼を無視して這わせた指をオレを含むそこへ沈めていく。
「ひ…、あ、いた…ぁ」
 見開いた瞳からぼろぼろと涙が零れる。優しい仕草で目元に口付けながら、沈めた指で容赦なく入り口の敏感な粘膜を摺り上げた。
「う、あ…、や…ぁ…っ」
 そのギャップに心がついていかないのだろう、子供のように泣きじゃくりながらオレにすがり付いてくるその姿に流石に可哀想になって指をぬいてやるとホッと息を漏らして僅かに力が抜けた。その唇に口付けを落として彼の脚を抱えなおすと激しく抽送を始める。感じるところをなんども突き上げてやれば高い嬌声が上がった。
「ああっ…やっ…も…んん…っ」
 オレの腰に脚を回してくる彼の体を強引に引き起こしてベッドの上に起き上がった。
「あああ…っっ」
 自重で深々と貫かれて彼の口から悲鳴が漏れる。それに構わず下から突き上げながら荒い息を零す唇を塞いだ。
「ふ…っ、んふ…っ」
 飲みきれない唾液がお互いの口の端から零れて濡れた音を立てる。オレを含んだ双丘を割り開くようにして更に奥を突き上げた。
「あ、ああっ、ハボ…っ」
 黒い双眸からとめどなく涙を零しオレに縋り付いて来るこの人に頭の奥が焼ききれそうなほどの恋情を感じて。
 耐え切れずに熱を放った彼を追うように、彼の最奥へと熱い想いを解き放った。


 結局、離れがたいままにベッドで2度、バスルームで1度体を重ねて、気がつけば薄っすらと夜が白んでいた。気を失うように眠りに着いた大佐は、今はオレの首に腕を回して胸元に顔を埋めるようにしてすやすやと寝息を立てている。
(マズイ…)
 今日はいつもより30分は早く行かなくてはいけない筈だ。しかも、確かおエライさんに付いての視察だった気が…。だがしかし、煽られるままに乱暴に抱いてしまった体はきっと立っているのも辛いに違いない。
(どうしよう…)
 やっぱりあそこで強引に家に送り届けるべきだったと今更悔やんだ所でどうにもならない。とにかくあと2時間は休める筈だ。起きたら温かいスープでも飲ませてやってなんとか午前中のスケジュールをこなして貰わないと…。
「う、ん…」
 人の気も知らないで擦り寄ってくる愛しい人に小さくため息を漏らして、オレは窓辺の紫陽花の花を見つめていた。



2006/6/7


だいぶ前にupした「紫陽花」の続きです。うっかりupするの忘れてたらもう殆んど紫陽花の季節も終わりジャン!それにしても今年は梅雨明けが遅いですね。おかげで紫陽花ネタが季節はずれにならずに済みましたが(苦笑)このssは当時の私としては随分エチを頑張ったつもりでして、これを書いた後にあのロイハボ部屋に書いた雄たけびを上げてロイハボに転んだんですよ、たしか。あの頃は私もまだ可愛かったなぁ…(しみじみ)