豆騎士 成人編


「成人おめでとう、大将」
「サンキュー、少尉」
 おめでとうの言葉と同時に差し出されたグラスに、エドワードは己のそれを軽く合わせる。チンとグラスが合わさる高い音に笑みを交わすと、二人は普段飲むのよりは少しだけいいワインを喉に流し込んだ。
「それにしても大将が大人の仲間入りかぁ」
「へへ」
 しみじみと言うハボックにエドワードは照れくさそうに笑う。だが続くハボックの言葉に眉をしかめた。
「会った頃はまだこーんなチビだったのにな」
「こーんなって、それは幾ら何でも大袈裟だろ」
 掌をテーブルの高さよりも下にしてかつての身長を表す仕草を見て鼻に皺を寄せるエドワードの、まだどこか幼さの残る顔にハボックは笑みを浮かべる。エドワードはグラスのワインを飲み干して言った。
「でもまあ、これからはチビだのガキだのとは言わせないけどな」
「大将」
 ニヤリと笑みを浮かべた顔がさっきとはうって変わって男臭さを滲ませるのを見て、ハボックは目を瞠る。そんなハボックにエドワードはグラスを置くと手を伸ばしてハボックのテーブルに置かれたそれに触れた。
「早速今夜はたっぷり啼かせてやるから」
 そう言ってエドワードは指先でハボックの手の甲を擽る。指先の微かな動きにゾクリと背筋を悪寒にも似た何かが這い上がって、ハボックは慌てて手を引っ込めようとした。
「なに馬鹿な事言って――――アッ」
 引っ込めようとした手をだがエドワードはそうはさせず、手首を掴んでグイと引く。思いがけず引っ張られて腰を浮かしたハボックのもう片方の手の中のグラスが大きく揺れて、テーブルに零れた。
「大将」
 責めるように睨んでくる空色もエドワードはものともしない。掴んだ手首を指先で擽れば大きく身を震わせるハボックにエドワードが言った。
「なに?感じちゃった?」
「ッ!生意気言ってんじゃねぇ、ガキ!」
「だからもうガキじゃないって」
 頬を染めながら声を張り上げるハボックにエドワードが笑う。ハボックの手を掴んだまま席を立つとゆっくりと近づいてきた。
「ジャン」
「ッ!」
 低く呼ぶ声にハボックは目を見開いてエドワードを見上げる。そこにいるのはもう少年の殻を脱ぎ捨てた一人の男だった。
「大将……」
「エドって呼べよ」
 エドワードはそう言うとハボックの手からグラスを取り上げる。一口飲んでエドワードはワインが半分程残るグラスをハボックの頭の上で傾けた。
「ッ?!」
 グラスから零れたワインがハボックの金髪を濡らし白い頬へと流れていく。頬を濡らす赤紫の液体にエドワードは金色の目を細めた。
「ふふ……ヤラシイ」
「バ、バカッ!ワインの染みは落ちないんだぞッ」
「だったら脱いじゃえよ」
「うわッ」
 エドワードは言うなり掴んだ手首を引く。思いがけない強い力に、ハボックは引き上げられるままエドワードの胸に飛び込んだ。
「大将……っ」
 この一年で急激に身長が伸びて、かつて自分の胸元位までしかなかったエドワードの顔が目の前にある。ニッと男臭い笑みを浮かべて、エドワードは言った。
「だからエドって呼べって――――ジャン」
 低く呼んでエドワードは頬を濡らすワインに舌を這わせる。ビクリと震えるハボックのシャツのボタンを素早く外して、肩から落とした。
「おいッ」
「染みになったら落ちないんだろ?」
 慌てて身を捩るハボックにエドワードは笑って言う。逃げようとするのを赦さず、ハボックの躯を床に押し倒した。
「大将ッ!」
 痛みに顔を歪めながらもハボックは圧し掛かってくる相手をおしやろうとする。だが、今や自分と変わらぬ体格になったかつての少年を振り払う事は出来なかった。
「大人の仲間入りした記念の日なんだ。朝までたっぷりお祝いしてよ」
「エド……ッ」
 ジャンと耳元に低く吹き込まれる声に抗う事も出来ず、ハボックは這い回るエドワードの熱い掌に翻弄されていった。


2015/01/13