豆騎士 右手編


「アツッ!!」
「大将っ?!」
 珍しくキッチンに並んで立っていたエドワードが悲鳴を上げて左手を抱え込む。ハボックは咄嗟にエドワードの腕を掴むと、水を出しその流れの中に掴んだ腕を突っ込んだ。
「どこ火傷したっ?大将」
「小指の下の辺り……。フライパン触っちまった」
 エドワードは顔を歪めて答える。手がすっかり冷えてしまう頃になって漸くハボックは水を止めて、袖まで濡れてしまった手をタオルで包み込んだ。
「薬塗るからソファーに座って」
 ハボックはそう言って救急箱を持ってくる。ソファーに座るエドワードの前に跪いたハボックは、エドワードの手の水気をタオルでそっと拭いた。
「紅くなってるけど……大したことなさそうだ」
 火傷の具合を見たハボックはホッと息を吐く。軟膏を塗ってガーゼを当てると手早く包帯を巻き付けた。
「医者に行くほどの事はないけど、薬塗ったからそっとしておいて。今日はもう手伝ってくれなくていいから」
「ヒリヒリする……」
 エドワードは包帯を巻かれた左手を見つめて不機嫌にそう呟く。ハボックはむくれる少年の頬をそっと撫でて言った。
「ヒリヒリする程度でよかったよ。大将が大火傷でもしたら、手伝わせた事、後悔しても仕切れねぇ」
 そう言ってにっこりと笑う空色に、エドワードは顔を赤らめる。ハボックは救急箱を持って立ち上がるとエドワードの頭をポンポンと叩いた。
「待ってて。すぐ用意しちゃうから」
「ごめん、少尉。手伝うって言ったのに」
「気にすんな」
 キッチンに消えていく背中に言えばハボックが肩越しに笑う。エドワードはため息をついてソファーに沈み込むと包帯を巻いた手を見つめながら、キッチンから漂ってくるいい匂いを嗅いでいたのだった……。


2010/06/09


日記では諸事情で書ききれず、完成版(エチあり)の「右手編」「右手編その後」は無料配布本「小さな暴君とお人よしの騎士の話」に収録されています。