| 第六十一話 |
| 「まったくよく降るな」 ロイはうんざりとしたため息と共に言葉を吐き出す。傘を差して歩く道の先、家のシルエットが見えてきてロイは足を速めた。 「やれやれ」 玄関の傘立てに濡れた傘を突っ込みロイは玄関を開ける。「ただいま」と中に向かって声をかければ、ぱたぱたと軽い足音がしてハボックが駆け寄ってきた。 「ろーいっ」 ぱふんと腰にしがみついてくる小さな体を受け止めてロイは金色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。擽ったそうに空色の瞳を細めたハボックは、クイクイとロイの手を引いた。 「どうした?ハボック」 何かあったのだろうかとハボックに手を引かれるままリビングへと入ったロイは「あっ」と目を丸くした。 「ろーい」 ロイの手を離してハボックがリビングの床の真ん中辺りに出来た水たまりに駆け寄る。側にしゃがむと小さな手でパシャパシャと水たまりを叩いた。 「雨漏り!なんてこった!」 ハボックの頭上の天井を見れば水の滴が滴り落ちてきている。ロイはハアアと大きなため息をつくと、上着の陰でガードしていた本の包みをソファーにおいて雑巾とバケツを持ってきた。 「どいてくれ、ハボック」 「ろぉい?」 げんなりした声で言うロイにハボックが不思議そうに首を傾げる。雑巾でたまった水を拭いてはバケツに絞るロイの背によじ登り、ロイの肩越し消えていく水たまりを不満げに眺めた。 「ろーい〜」 「これは遊び場じゃないんだ。雨漏りだよ、雨がやんだら修理を頼まなきゃならん。一体どこから雨が入り込んだんだ?」 遊ぶ場所をとられたと不満そうな声を上げるハボックにロイは言う。たまった水を綺麗に拭き取ると、丁度雨水が垂れてくる真下にバケツを置いた。 「酷くなる前に修理を頼めるといいんだが」 ロイはため息混じりにそう言って背によじ登っていたハボックを下ろし雑巾を片づける。キッチンでコーヒーを淹れるとソファーに腰を下ろし本の包みを広げたロイは、大事に持って帰ってきた本の端がほんの少し濡れていることに気づいた。 「まったく、雨が続くとろくなことがない」 忌々しげに呟いてロイはハンカチで本を拭く。見上げてくるハボックの金髪をわしゃわしゃと掻き混ぜた。 「お前も外に出られなくてつまらないだろう?」 「ろーいっ」 些か乱暴に掻き混ぜる手にハボックが顔をしかめる。身を捩ってロイの手から逃れると床に置かれたバケツの側にしゃがみ込んだ。 ピチャン。 と、ハボックが見つめる先天井から落ちた滴がバケツの中で弾ける。しゃがみ込んでその様をじっと見つめるハボックを見遣ったロイは、肩を竦めて本を開いた。 微かに雨音が響く中、ロイは時折コーヒーを口に運びながら本のページをめくる。そうしてどれくらいたった頃だろう。ロイは聞こえてきた鼻歌に本から顔を上げた。 床に置かれたバケツの縁に小さな手をかけてハボックが中を覗き込んでいる。ピチャン、と滴が落ちるのにあわせてふさふさの尻尾を振りながらハボックは楽しそうに鼻歌を歌っていた。 ピチャン。 ぴっちゃん。 ピチャピッチャン。 滴が落ちる音に合わせて金色の尻尾がフサフサと揺れ、ハボックが調子っぱずれの鼻歌を歌いながら頭を揺らす。その楽しそうな様を見ていれば、ロイの顔にも自然と笑みが浮かんだ。 「雨も意外と悪くないか」 窓越し見上げた空には雲の隙間が出来ている。きっと明日には綺麗な空が広がることだろう。 秋空の下ハボックと散歩しようと考えながら、ロイは暫し雨音とハボックの楽しげな合唱に耳を傾けた。 2015/09/08 |
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