第十七話


 のんびりとボートを楽しんだ後、二人は岸辺へと帰ってくる。不貞腐れたようにボートの縁に掴まるハボックにロイが言った。
「降りるぞ、ハボック」
 ロイの声にハボックはチラリとロイを見たが、すぐにフイと顔を背ける。そんなハボックにロイは苦笑して立ち上がるとハボックを抱え上げてボートを降りた。
「仕方ないだろう?あのままじゃ岸に着くまでに日が暮れてしまう」
 ボートに揺られてのんびりと過ごした後、岸に帰ろうとすればどうしても漕ぐと言い張るハボックに暫くは任せていたロイだったが、流石に湖を吹き抜ける風が冷たくなってきたのを感じて、ハボックからオールを取り返して自分で漕いで帰ってきてしまった。
「また今度やらせてやるから」
 そう言うロイをハボックは恨めしげに見ると、ロイの腕からピョンと飛び降りてしまう。駆け出したハボックのズボンとシャツの間からポンと尻尾が飛び出すのを見て、ロイは目を瞠った。
「ハボック!」
 ロイがキツい声で名を呼べばハボックが足を止める。尻尾の上辺りで手を組んで俯いたハボックがチラリと寄越した視線が涙に滲んでいるのを見て、ロイはため息をついた。
「いいところに連れて行ってやるから機嫌直せ」
 そう言って手を伸ばせば飛びついてきたハボックをロイは抱き上げる。ふさふさの尻尾をポンポンと叩いて空色の瞳をじっと見つめれば、ハボックの残念そうなため息と共に尻尾が消えた。
 湖沿いの道をロイはゆっくりとハボックを抱いて歩いていく。途中湖に向かうように枝分かれした階段を下れば、そこは小さな浜辺になっていた。
「案内所で聞いたんだ。どうだ、いいところだろう?」
 ロイがそう言うのにハボックは答える代わりに腕から飛び降り水際に駆けていく。チャプチャプと打ち寄せる波を追い、波から逃げてハボックがロイを見た。
「ろーい!」
 嬉しそうに笑うハボックにロイも笑みを浮かべる。波にギリギリ濡れないところでしゃがみ込んだハボックが、なにやら拾ってロイのところに戻ってきた。
「ろーい」
 そう言いながらハボックが差し出してきたものをロイは手を出して受け取る。手のひらに置かれたのは小さな石の欠片だった。
「綺麗だな」
 ロイはそれを指先で摘んで空に翳す。そうすれば縁が淡く光を孕んで虹色に輝いた。
「大事に持って帰って宝箱に入れないとな」
 そう言ってロイが返そうとしたが、ハボックは返そうとした手ごとロイの方に押しやる。
「くれるのか?」
 と尋ねれば、ハボックがロイにギュッとしがみついた。
「……ろーい」
「判ってるよ、ハボック」
 さっきはごめんなさいと言うように顔をこすりつけるハボックの金髪を、ロイはくしゃりと掻き混ぜる。そんなロイを見上げてくる空色にロイは言った。
「もっと探そうか。宝箱に入れる分も見つけないとだろう?」
「ろーいっ」
 その言葉にハボックが嬉しそうにロイの手を引っ張る。小さな波が打ち寄せる浜辺でしゃがみ込んだ二人は、辺りがオレンジ色に染まるまで綺麗な石や貝殻を探して遊んだ。


2012/08/29


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