| 俺様な皇帝と恥ずかしがり屋の騎士の話5 |
| (だりぃ……) ハボックは机の上に頬をペッタリと貼り付けて懐く。ハァと湿度の高いため息をついて身じろげば、腰から下にズゥンと重いような痛いような感覚が走って、ハボックは眉根を寄せた。 夕べはハボックがロイに紹介された女の子とデートした事がヒューズにバレて散々な目にあわされた。事もあろうに玄関先で攻め立てられ上げまくった嬌声は外に筒抜けで、今朝ハボックは隣の男だけでなく同じフロアの学生や老夫婦にまで変な目で見られてしまったのだ。 『躾と仕置きには丁度いいだろ』 どうしてくれるとハボックに文句を言われた男は、まるで悪びれた様子もなく言い放った。それ以上言っても効果がないどころか、逆に痛くもない腹まで探られかねず、ハボックはサングラスを掛け帽子を目深に被ってコソコソとアパートを出てくるしかなかった。 (引っ越そうかなぁ、金ないけど) 引っ越したくとも先立つものが なければどうしようもない。家賃も安く通勤にも便利なボロアパートは、過激で俺様な恋人が出来た今となればただ一つの欠点――壁の薄さ――がハボックに取って致命的な欠点になっていた。 「ハアア」 かったるくて煙草を吸う気にもならない。ハボックがぐったりとして目を閉じた時、頭上から呆れたような声が降ってきた。 「お前、仕事をする気があるのか?ハボック」 「あ、大佐ぁ」 机に頬を貼り付けたまま横目で見上げれば、ロイが眉間に皺を寄せて見下ろしている。ハボックはため息をつくとやれやれと体を起こした。 「飲み過ぎか?」 「……まぁ、そのようなもんス」 まさかヤり過ぎとは言えず、ハボックは言葉を濁して答える。珍しいなと言って執務室に入ろうとする背中に、ハボックは言った。 「大佐、この間紹介して貰った子、大佐から断っておいて貰えないっスか?」 そう言われてロイが驚いたように振り向く。ハボックのところまで戻ってくると不思議そうに尋ねた。 「どうしてだ?上手くいってたんだろう?アンナの反応も良かったぞ」 直接女性の方から様子を聞いていたロイが言う。ハボックは困ったように視線を泳がせて言った。 「ええと、……性格の不一致っつうか」 「なんだ、そうなのか?」 折角のボインな美人なのにとロイに言われてハボックは「ははは」と乾いた笑いを漏らす。そんなハボックを見てロイが言った。 「まぁ、そう言うなら仕方ないが……」 と、少し残念そうにため息をついてロイは続けた。 「今後の参考に聞いておくが、お前はどういう性格の女性が好みなんだ?アンナはいい子だったろう?」 「どんな性格……」 聞かれてハボックは考える。頭に浮かんだ常盤色が自分に向かってニヤリと笑うのを見て、僅かに眉を寄せた。 「そうっスね……、俺様でちょっと意地悪な年上っつうか……」 「ハボック、お前……もしかしてマゾか?」 無意識にボソリと呟いた言葉にそう返ってきてハボックはハッとする。 「なんでそうなるんスかッ?!」 「だって女王様に苛められたいんだろう?」 「そんな事言ってな――――」 「女王様がなんだって?」 とんでもない誤解だとハボックが否定しようとした時、二人の会話に割って入る声がする。ハボックがギクリとして身を強張らせれば、ロイが声の主を見て言った。 「ああ、ヒューズ。今ハボックの好みのタイプを聞いてたんだが」 「へぇ、どんなタイプが好みだって?」 「意地悪な女王様タイプだそうだ」 「そんな事言ってねぇっス!!」 冗談じゃないとハボックは全力で否定する。だがロイはハボックの主張には耳を貸そうともせずに言った。 「俺様で意地悪な年上と言ったらそうだと思わんか?ヒューズ」 「なるほど、確かにな」 「だから違うって言ってるっしょッ!!」 必死に否定すればヒューズがチラリとハボックを見る。その常盤色が楽しそうに細められるのを見て、ハボックは今すぐ何処かに逃げ出したいと思うのだった。 2012/06/22 |