俺様な皇帝と恥ずかしがり屋の騎士の話4


「どう言うことか説明して貰おうか、少尉」
 にっこりと笑う男の眼鏡の奥の常盤色の瞳が、物騒な光をたたえていることに気づいて、ソファーにヘたり込んだハボックはゴクリと唾を飲み込む。早々に仕事を切り上げさせられたハボックは、奢ってやるという言葉に反してヒューズに引きずられるようにしてアパートに帰ってきていた。
「ロイに紹介して貰った女の子と二人で飲みに行ったって?どういうことなのかなぁ、これは」
 目だけは笑わずにニコニコと過剰なほどの笑みを浮かべるヒューズは冗談抜きで恐ろしい。ハボックは、アパートに戻るなり突き飛ばされたソファーの隅に躙り寄って言った。
「中佐、誤解してるっス」
「誤解?でも二人だけで飲みに行ったんだろう?」
 ハボックが言えばヒューズがすぐにそう返してくる。ハボックはひとつ息を吐き出して言った。
「行きましたけど、それは」
「ジャン、お前っ」
 言いかけたハボックの言葉を遮ってヒューズが顔をズイと寄せてくる。男が纏う怒りのオーラにハボックは顔を引き攣らせて声を張り上げた。
「行ったけどッ、仕事の帰りに喫茶店で一緒にお茶飲んだだけっスから!」
「……は?」
「だから!飲みには行ったけど、喫茶店でコーヒー飲んだだけっス」
 そう言うハボックをヒューズはじっと見つめる。見返してくる空色が決して嘘を言っているのではないと判ると、ボスンとソファーに腰を下ろした。
「コーヒー飲んだだけ?」
「そうっス」
 ハボックはコクコクと頷いて続ける。
「大佐の紹介だったし、会わずに断る訳に行かないから仕事の後で茶ァ飲みに行ったんスよ。それだけ」
「なんだ、飲みに行ったっていうからてっきり」
 どこか雰囲気のいいバーにでも行ったのかと思ったとヒューズはホッと息を吐く。
「ね?誤解だったっしょ?」
「ったく、ロイの奴紛らわしい言い方しやがって」
 ニコニコと笑うハボックをジロリと見て、鼻に皺を寄せてブツブツと言ったヒューズは一応確認といった風に続けた。
「で?ちゃんと断ったんだな?」
「えっ?」
 聞かれてギクリとするハボックとヒューズは暫し顔を見合わせる。次の瞬間、ヒューズがクワッと目を見開いて言った。
「お前っ、断らなかったのかッ?!」
「や、そのっ」
「ジャンッ!!」
 鬼の形相で迫ってくるヒューズに、ハボックがソファーの隅で身を縮こまらせる。ハボックはソファーの袖にしがみつくようにして言った。
「そのっ、断るつもりだったんスけど、ケーキ談義に花が咲いちゃったら断るタイミング逸しちゃって……」
「ケーキ談義?」
 思いがけない言葉が出てきてヒューズがキョトンとする。実はハボックが意外にも料理好きで、自分でケーキを焼いたりするのはヒューズもよく知っていた。
「アンナの親父さんってパティシエなんスよ。だから彼女もケーキ焼くの好きで、その話始めたら盛り上がっちゃって、つい……」
「お前なぁ」
 ヒューズは呆れ半分怒り半分でハボックを見つめる。ガリガリと頭を掻いてため息をついたヒューズが言った。
「まあいい、断らなかったにしても次の約束はしてねぇんだろう?次電話かかってきても絶対行くんじゃ────って、ジャン、まさかお前ッ」
「だって!親父さん、ル・プティシュのパティシエで、秘伝のレシピ教えてくれるっていうからッ」
「おま……っ」
「いいじゃん、レシピ貰うだけだもんッ!それにレシピ貰ったら中佐に焼いてあげられるしっ」
 ソファーの袖にしがみついてそう主張するハボックに、ヒューズは数回息を吐いて気を落ち着ける。見上げてくる空色をじっと見つめてヒューズは尋ねた。
「で?そのレシピ、どこで貰うつもりなんだ?また喫茶店?」
 そう聞かれてハボックが言葉に詰まる。「ジャン」と名を呼ばれて、ハボックは小さな声で答えた。
「……シモンズで」
「バーじゃねぇかよッ!」
「だって、アンナ、ここ暫く仕事忙しくて茶店が開いてる時間じゃ会えないっていうから」
「ジャン、お前な」
 ハボックの説明にヒューズはふるふると震える拳を握り締める。
「それが女の手だってなんで判んないんだッ!そんなんでホイホイ行ってみろ、絶対食われるぞッ!!」
「食われるわけねぇっしょ!相手はオレより小さい女の子なんだしっ」
 あり得ないと首を振るハボックに、ヒューズは頭痛がすると同時に怒りがこみ上げてくる。ギロリとハボックを睨んで、ヒューズは言った。
「もういい、お前には言葉で言うより体に言い聞かせた方がよさそうだ」
「え」
 そう言ってゆらりと立ち上がるヒューズにハボックは目を見開く。次の瞬間ヒューズが伸ばした手を、掻い潜るようにしてハボックはソファーから滑り降りた。
「あっ?」
 伸ばした手が空を掴んでたたらを踏んだヒューズを後目にハボックは部屋を飛び出す。そのまま短い廊下を抜けて玄関から外へ出ようとしたハボックは、ヒュッと空を切って飛んできたダガーが目の前の扉に突き刺さったのを見て息を飲んで足を止めた。
「……フツーこんなもん、投げます?」
「お前が逃げるからだろうが」
「当たったらどうするつもり────うわッ!!」
 流石にムッとして振り向きざま怒鳴ろうとしたハボックは、いつの間にか真後ろに立っていたヒューズに目を瞠る。ヒューズは扉に刺さったダガーを引き抜くと、ハボックを扉に押しつけるようにしてその喉元に刃を突きつけた。
「外に出るか?それでもいいぜ?そこで滅茶苦茶に犯してやる」
「中……っ」
「そうすりゃお前も自分が誰のもんかって嫌でも判るだろ」
 ヒューズはそう言ってハボックの背後の扉に手を伸ばす。カチリと鍵を外すと体重をかけるようにしてハボックを扉ごと外へと押し出した。
「中佐ッ」
「脱げよ、ジャン。下だけでいいぜ?ケツ出してこっち向けろ」
 そう言って見つめてくる常盤色にハボックはふるふると首を振る。アパートの狭い廊下の壁に押しやられて、ハボックはギュッと目を瞑った。そうすれば喉元に押し当てられた刃の感触と共にヒューズの怒りが肌に感じられる。ハボックはゆっくりと目を開けると間近に迫るヒューズの顔を見つめて囁いた。
「ごめんなさい……オレ、アンタにケーキ焼いてあげたかったんだもん。だから……」
 小さな声でそう告げるハボックをヒューズはじっと見つめていたが、噛みつくように口づける。アパートの、いつ誰が来るともしれない場所で口づけられて、ハボックは正直気が気ではなかったがそれでも大人しくヒューズのなすがままに任せた。
「ん……んふ……ぅ」
 キスの間にダガーがゆっくりと肌を滑っていく。そうすれば何故だかゾクゾクとした感覚が沸き上がって、ハボックはヒューズの胸にすがりついた。
「……なんだ、おっ勃ててるじゃねぇか。やっぱり変態だな、ジャン」
「中佐……っ」
「本当はここで犯されたいんじゃねぇのか?」
 そう尋ねられてハボックは必死に首を振る。訴えるように見つめれば、ヒューズがグイとハボックの腕を引いた。
「あっ?」
 そのまま部屋の中に引っ張り込まれバタンと玄関の扉が閉まる。ヒューズはダガーを扉に突き立てるとハボックの顔を扉に押しつけるようにして腕を後ろ手に捻り上げた。
「中佐ッ」
「中佐じゃねぇよ。ちゃんと呼べないから女にフラフラついていくんだろうが」
「フラフラついていってなんか────、やだっ、中佐ッ!」
 背後から抱え込むようにして身を寄せてきたヒューズがボトムに手をかけるのに気づいて、ハボックがもがく。だが、ヒューズはそんなハボックの抵抗などいとも容易く押さえ込むと、下着ごとボトムをずり下げた。
「中佐ッ!!」
「ちゃんとマースって呼べるようになるまで躾てやる」
「や……っ、ヒィッ!」
 まだ堅く閉ざしたままの蕾に指をねじ込まれ、ハボックが悲鳴を上げる。強張る躯に構わず、ヒューズは無理矢理根元まで指をねじ込むと、ぐちぐちと強引に掻き回した。
「いた……ッ、痛いッ、中佐っ、痛いッ!!」
 潤いの足りない秘孔は引き攣れて痛みをもたらす。ハボックは扉に縋りついて、ビクビクと震えた。
「やめ……ッ、痛ァ……ッ」
 痛みのあまり脚からは力が抜け、見開いた瞳からは涙が溢れてくる。泣きながら扉に縋りつくハボックの横顔をじっと見つめながら、ヒューズは容赦なく指を動かした。
「あふ……痛いよ……やめて、お願い」
「痛いばかりじゃねぇだろ?きゅうきゅう締め付けてくるぜ?」
「ああ……そんな……っ」
 耳元に囁かれる言葉にハボックは緩く首を振る。グチグチと蕾を掻き回していた指が乱暴に抜かれたと思うと、次の瞬間押し当てられた熱い塊にハボックはギクリとして目を見開いた。
「やだ……こんなところで……」
「うるせぇよ。躾とお仕置きだからな。これからは俺がいなくても女の尻を追いかけたりしないよう、躯にきっちり教えてやる」
「ッ!!」
 低く囁くヒューズをハボックは肩越しに見遣る。嫉妬と燃えるような情愛とを宿す瞳に、ハボックはゆるゆると首を振った。
「も、しない……しないから、中佐……ッ」
「だから、中佐じゃねぇッ」
 そう言うと同時にヒューズはズッと楔を押し入れる。強張る躯を抱え込み、強引に猛る自身を突き入れた。
「ヒアアアアアッッ!!」
 貫かれる痛みにハボックの唇から悲鳴が迸る。ヒューズはそれに構わずガツガツと乱暴に突き上げた。
「ヒィッ!!ヒィィッッ!!」
 強引に開かれ内壁を抉られて、ハボックが泣き叫ぶ。痛みに震えながら、それでも犯される事に慣らされた躯はいつしか痛みの中にも快感を見いだしていった。
「アアッ、ンアアッ!あんっ、あふ……ッ、ふああッ!!」
「イヤラシイ顔になってるぜ、ジャン」
 扉に押しつけられる涙に濡れた顔が、快楽に蕩け始めている事に気づいてヒューズが言う。ゴリゴリと前立腺を押し潰せばハボックの唇から高い嬌声が上がった。
「ひゃあああんッッ!!」
「そんなデカイ声出して、外に筒抜けだぞ」
 耳元に囁くと同時にヒューズはガツンと思い切り突き上げる。
「ひゃううッ!!」
 そうすればハボックが喉を仰け反らせ、扉に熱をぶちまけた。ハアハアと息を弾ませて扉に身を預けるハボックをヒューズはじっと見つめる。激しい抽送で今ではすっかりと綻んだ蕾は、イヤラシくヒクついてヒューズの楔をキュウキュウと締め付けた。
「ジャン……お前は俺のもんだ、よく覚えておけ」
「中佐……」
 低く囁けば涙に濡れた空色がぼんやりとヒューズを見る。ヒューズは埋め込んだ楔をグリグリと押し込んで言った。
「中佐じゃねぇだろ?」
「ヒィッ、マ……スっ」
 その途端悲鳴混じりに名を呼ばれて、ヒューズは昏く笑う。深々と埋め込んだ楔をそのままに、ヒューズはハボックの躯を強引に反した。
「ヒャウウッ!!」
 グリッと熱く熟れた粘膜を抉られて、ハボックが目を剥いて悲鳴を上げる。ヒューズはハボックの躯を扉に押しつけるようにして長い脚をグイと持ち上げると、そのままガツガツと乱暴に突き入れた。
「ヒィィッ!!嫌ァ、マース!!」
 両脚を持ち上げられ、己を貫く楔と背後の扉だけが支えの体勢で深々と犯されて、ハボックが悲鳴を上げる。それに構わずヒューズはハボックの躯を揺さぶり、激しく突き上げた。
「ヒゥッ!ッ、ヒアアアアアッッ!!」
 衝撃に耐えきれず、ハボックが熱を吐き出す。小刻みに震える躯を容赦なく揺さぶって、ヒューズもまたハボックの中に白濁を迸らせた。
「ヒ……ィッ!!」
 熱く体内を焼く熱にハボックが目を剥く。ビクビクと震えたと思うとガックリと力の抜けた躯を、ヒューズはギュッと抱き締めた。
「いいか、お前は俺のもんだ。忘れるなよ、ジャン」
「マース……」
 ぼんやりと名を呟く唇をヒューズは噛みつくように塞ぐ。ハボックが気を失ってその唇から甘い啼き声が聞こえなくなるまで、その夜ヒューズはハボックを攻め続けた。


2012/06/21