俺様な皇帝と恥ずかしがり屋の騎士の話2


「ちょ……っ、中佐っ、まだ拭いてな────うわッ!」
 浴室から引っ張り出されるように連れ出され、まだろくに拭いてもいない体からシャワーの滴をまき散らして、ハボックは腕を引く男に待てと訴える。だが、そんな訴えも虚しく寝室に連れていかれたハボックは、乱暴にベッドに突き飛ばされて悲鳴を上げた。
「中佐っ」
 ベッドに肘をついて上半身を起こしたハボックは、すぐ側に立つ男を見上げる。同じように濡れた髪からポタポタと滴を垂らしたヒューズは、濡れた前髪を掻き上げて言った。
「もう限界だっての。風呂じゃ嫌だって言うならさっさとこっちにくるしかねぇだろ?」
「だからってこんなビチョビチョじゃベッドまで濡れちまうっしょ!」
 身体を拭く時間くらいあるだろうとハボックが言えばヒューズがニヤリと笑う。
「どうせすぐ身体もベッドもビチョビチョになるんだ、構わねぇだろ?」
「な……ッ」
 酷く男臭い顔でそんな事を言うヒューズにハボックは顔を赤らめる。圧し掛かってくるヒューズから身を捩って逃れようとすれば、ヒューズがハボックの肩を掴んで押し留めた。
「中佐っ」
「これ以上焦らすなよ──ジャン」
 そう言って見つめてくる熱をたたえた常盤色にハボックが目を見開く。ヒューズは動きの止まったハボックを簡単にベッドに押し倒してその上に乗り上げた。
「これから演習だだの会議室じゃイヤだだの、十分我儘聞いてやったろ?これからは俺のいうこと聞けよ」
「中佐……っ」
「中佐じゃねぇよ」
 二人きりにも関わらず相変わらず階級で呼ぶハボックにヒューズが顔を顰める。首筋に残ったシャワーの滴をペロリと舐めた舌を耳元にまで這わせて耳朶を舐り、耳の穴に舌を差し入れて「ジャン」と囁けばハボックの躯が大きく跳ねた。
「ちゃんと呼べよ。二人きりだろ?」
「そ、そこで喋んないでっ」
 ヒューズの低い声に背筋がゾクゾクする。這い回る舌から首を振って逃れようとすると、ヒューズの腕に力が入った。
「だったら呼べって」
「アッ」
 ぬるぬると這い回る舌にハボックがビクビクと躯を震わせる。もう一度熱く「ジャン」と囁かれて、ハボックは目元を染めた瞳でヒューズを斜めに見上げた。
「…………ま……す」
「ちゃんと呼べよ」
「だって!…………恥ずかしいんだもん、その……恋人みたいで」
「はあっ?!」
 ハボックの言葉にヒューズはガバッと身を起こす。目を吊り上げてハボックの顔に己の顔をズイと近づけた。
「お前なぁ、この状況で恋人みたいでヤダってなんだよ。恋人どうしだろうが、俺たちはッ!」
「そうだけどっ」
 男同士とはいえお互い独身で誰に憚る必要もない。これまで何度も肌を重ねてきた関係で、ハボックの発言は赦しがたいものがあった。
「だっ、だって、恥ずかしいんだもんッ!初めて会ったときから中佐って呼んでたのに、マ、マ、マ────」
「マース」
 なかなか言おうとしない名前をハボックに代わって口にしてヒューズはため息をつく。真っ赤な顔で見上げてくるハボックの額にかかる髪を掻き上げて言った。
「いい加減慣れろよ。俺に言わせりゃ名前呼ぶよりこういう事の方が恥ずかしいんじゃねぇ?」
「ひゃっ!」
 言いながらハボックの股間に滑らせた手でキュッと楔を握ればハボックが飛び上がる。やわやわと扱くとハボックが切なげに眉を寄せた。
「そんなヤラシイ顔しやがって、こっちの方がよっぽど恥ずかしいだろうが」
 そう言うヒューズをハボックが恨めしげに睨む。そんな表情にすら煽られる自分を感じながら、ヒューズはハボックに身を寄せた。
「好きだぜ、ジャン。なあ」
 甘えるように言いながらゆるゆるとハボックの楔を扱く。刺激に息を弾ませてヒューズを見上げていたハボックは、腕を伸ばしてヒューズの首に絡めた。そのまま腕を引き寄せヒューズの首元に顔を埋める。
「……マース」
 消え入るように囁く声に、ヒューズはグイとハボックの躯を引き剥がし噛みつくように口づけた。
「ンンッ!」
 一瞬目を見開いたものの、ハボックもヒューズの背に腕を回して夢中でキスに答える。暫くの間激しくキスを交わしていたが、やがてゆっくりと唇を離すと互いの顔を見つめあった。
「会いたかったぜ、ジャン」
「オレも……」
 目元を染めて囁くハボックを見れば、ヒューズの中に凶暴な気持ちが沸き上がってくる。ヒューズはハボックの腿に手をかけると、長い脚をグイと大きく開いて押し上げた。
「アッ?やっ」
 もうすっかりと勃ち上がって蜜を垂れ流す楔を晒されてハボックが身を捩ろうとする。それを易々と押さえ込んで、ヒューズは竿を伝う蜜をベロリと舐めた。その舌を更に下へと滑らせる。そうして物欲しげにヒクつく蕾に、尖らせた舌の先端を差し入れた。
「やあっ!」
 ビクッと躯を震わせてハボックがヒューズの髪を掴む。ふるふると首を振って、ハボックは言った。
「それっ、やめてっ、中佐!」
「だから中佐じゃねぇって」
 ヒューズは髪を引っ張られる痛みに顔を顰めながらもハボックの股間に顔を埋める。慎ましやかな蕾を舌でこじ開けるようにしてたっぷりと唾液を塗せば、ハボックがビクビクと震えながらくぐもった声を上げた。
「ジャン?」
 不明瞭な呻き声を訝しんでヒューズが顔を上げる。そうすれば涙を滲ませたハボックが両手で口元を押さえていた。
「なにしてんだ、お前」
 ヒューズは眉を顰めてそう言うと躯をずり上げてハボックを真上から見下ろす。手を外せと手首を掴むとハボックがいやいやと顔を振った。
「声、聞かせろよ、ジャン」
 そう言ってもハボックはしっかりと手のひらで口元を覆ったまま首を振るばかりだ。ムッとしたヒューズはハボックの両手首をそれぞれ掴むと、強引に引き剥がした。
「やだッ」
「なんでだよ、別に感じて声が出るのは恥ずかしい事じゃねぇだろ?」
 むしろそんな声が聞きたいのにとヒューズが文句を言えばハボックが答える。
「だって……隣に聞こえる……っ」
「はあ?」
「この部屋の壁の向こう、隣の部屋なんですってば」
 以前、ヒューズがこのアパートに来た時、乱されるまま声を上げてしまったハボックは、翌日偶然隣の男と顔を合わせてもの凄く気まずい思いをしたのだ。だから絶対に声を聞かれたくないと言うハボックに、ヒューズはニヤリと笑った。
「いいじゃねぇか。思わずマス掻いちまうくらいイヤラシイ声聞かせてやれよ」
「な……ッ?嫌っスよ!」
「お前が俺に愛されて感じまくってるって教えてやれ」
 ヒューズはそう言いながらハボックの腕を片手で頭上に押さえつける。空いた片手でハボックの片脚を思い切り胸に押し上げ、たっぷりと濡らした蕾に楔を押し当てた。
「待っ……、挿れんなら手、離してッ!」
「そしたらまた口塞いじまうだろうが」
「だって声がっ」
「聞かせろよ、俺に」
 そう囁かれてハボックが目を瞠る。ヒューズが押し当てた楔の先端をぬぷりと埋め込めば、ハボックが怯えたような顔でヒューズを見た。
「やだ……マース」
「ッッ!!おま……ッ、そこで呼ぶかッ?!逆効果だっての!」
 泣き出しそうな幼い顔でそんな風に言われたらかえって煽られてしまう。ヒューズはハボックの脚を胸に押しつけるようにして一気に己を突き入れた。それと同時に多い被さるようにしてハボックの唇を己のそれで塞ぐ。深く唇を合わせたままガツガツと突き上げれば、ハボックの悲鳴がヒューズの唇の中になだれ込んだ。
「ンンッ!ぅんっ、んんんッッ!!」
 押さえつけていた腕を離せばハボックがしがみついてくる。ヒューズは長い脚を抱え直しゴリゴリと抉るように突き入れた。
「ん────ッッ!!んくぅぅッッ!!」
 突き入れた楔で前立腺を押し潰すとハボックの悲鳴がヒューズの口内で響く。突き上げた躯が大きく震えたと思うと胸や腹に熱い飛沫が飛び散って、ハボックが果てたのだと判った。
「ジャン」
 ヒューズはハボックの背に手を回すとその長身を引き起こす。そのままベッドに座り込み、ハボックの躯を下から貫いた。
「ヒアアッッ!!や……ッ!」
 離れた唇から悲鳴が零れ、ハボックが慌ててしがみついてくる。そのまま唇を押しつけてくる様が愛しくて、ヒューズは容赦なくガツガツと突き上げた。
「んんッ!!ふぅ…ッ!……ース!」
 一瞬離れた唇の隙間からハボックが呼ぶ声が聞こえる。そうすれば腹の奥にズンと熱が込み上げて、ヒューズはガツンと思い切り楔を打ちつけた。
「ひゃあああんッ!!」
「……くぅぅッ!!」
 衝撃に耐えかねて背を仰け反らせたハボックの中に、ヒューズは熱を叩きつける。そうすれば一瞬遅れてハボックの楔も弾けた。
「あ……ああ……ッ、マース……」
「ジャンっ」
 ヒューズは最奥に楔をねじ込むようにしながらハボックの背を掻き抱く。そのまま噛みつくように口づけて舌をきつく絡めた。
「ん……んふ……」
 甘ったるく鼻を鳴らしてハボックがヒューズにしなだれかかる。くったりと力の抜けた躯を抱き締めて、ヒューズはうっとりと笑った。


「ジャン」
「知らないっス」
 結局その後。散々に攻め立てられたハボックは、抑えることが出来ず嬌声を上げまくってしまった。きっと薄い壁の向こうに筒抜けだったに違いない。すっかり拗ねてしまって背を向けるハボックを背後から抱き締めてヒューズは言った。
「別にいいじゃねぇか。聞かれたって」
「よくないっス!!中佐の馬鹿ッ!!」
 ハボックはそう怒鳴ると振り向きざま掴んだ枕でヒューズの頭をボスッと殴る。大して威力のない攻撃にヒューズはわざとらしく頭をさすると、涙目で睨んでくるハボックを見つめた。
「中佐じゃねぇだろ?」
「知りません!」
 プイと顔を背けて言うハボックをヒューズはベッドに押さえつける。ギクリとして見上げてくる空色を見つめて、ヒューズは囁いた。
「呼べよ、ちゃんと」
 そうすればハボックが困ったように眉を寄せる。うろうろと視線をさまよわせ、再び見上げてきた熱を帯びた瞳にヒューズは期待してハボックの言葉を待った。
「……中佐」
「な……っ、お前なぁッ」
 呼んでツンと顔を背けるハボックにヒューズが素っ頓狂な声を上げる。フンと鼻を鳴らすのを聞けば、ヒューズが目を眇めた。
「いいぜ、それなら呼ぶまでヤってやる」
「えっ?……ちょっ……待っ……アアアッッ!!」
 ズブズブと入り込んでくる楔にハボックの唇から悲鳴が上がる。そのままガツガツと攻められて、ハボックはヒューズの腕の中で悶えた。
「待ってっ、ちゅう……マース!やああんッ!!」
「いいぜ、もっと呼べって」
「アアッ!マースの馬鹿ァッ!」
「……好きだぜ、ジャン」
 甘く啼いて己の名を呼ぶ恋人を抱き締めて、ヒューズは幸せそうに笑った。


2012/06/18