| 俺様な皇帝と恥ずかしがり屋の騎士の話17 |
| 「ぐは……ッ!」 ヒューズは腹にめり込んだ重い拳の衝撃に身を二つに折る。口の中に胃液が逆流して独特の苦味が広がるのを感じるヒューズの耳にハボックの声が聞こえた。 「っとに信じらんねぇ、どこまで腐ってるんスか」 その言葉にヒューズは体を二つに折り曲げたまま視線を上げる。そうすれば怒りと呆れの色が混ざり合った瞳がヒューズを見つめていた。 「くだんねぇ事やってる暇あったらセントラル戻って仕事しろよ」 こっちは夜も遅くまで残業していたと言うのに、その間この男がしていたことを思えば腹が立って仕方ない。 「くそムカツク……ッ」 見上げてくる瞳を睨みつけて呟いたハボックは、まだジャガイモを手にしていた事に気づいて流しの中に放り込む。もう食事を作る気になどなれず、ハボックはヒューズを押しやるようにしてキッチンから出た。 「ジャン」 「家から叩き出すのは勘弁してあげます。ソファー貸してあげるっスからそこで休んで朝一の列車でセントラルに帰ってください」 ハボックはそう言うとシャワーを浴びようと浴室に向かう。ふと視線を感じて振り向けば見つめてくる常盤色と目が合ったが、ハボックはプイと顔を背けるようにヒューズとの間の扉を閉めた。 「っとにもう……」 ヒューズが自分とロイとの事で妙なヤキモチを妬く事はこれまでもあったが今回のは冗談にしてもサイアクだ。 「何が俺のわんこなら首輪をつけさせろだよ」 独占欲の現れと言えば喜ぶべきなのかもしれないが、いくらなんでも悪趣味過ぎる。ハボックは服を脱ぎ捨て奥に入るとシャワーを出し頭から浴びた。 「ふぅ……」 何だか疲れが倍になったような気がする。シャワーを浴びたらさっさと寝てしまおうと、ハボックが手早く髪と体を洗っているとカチャッと言う音と共に冷たい空気が入ってきた。 「――――中佐?」 振り向けば扉の所にヒューズが立っている。狭い浴室からシャワーの飛沫が外に跳ねて出ないように、ハボックはシャワーを止めて言った。 「すぐ出ますから待っててくれます?」 シャワーを浴びたくて待ちきれずに催促にきたのかとハボックは急いで済ませようとシャワーに手を伸ばす。だが、伸ばした手はシャワーを掴む前にヒューズの手に阻まれた。 「濡れるっスよ?」 ハボックは訝しげにヒューズを見つめて言う。だが何も答えないヒューズに、ハボックは眉を顰めた。 「すぐ出るって言ってるっしょ?ちょっとくらい待ってくれたって――――うわッ?!」 言いかけた所でいきなり腕を引っ張られ、ハボックは驚いて声を上げる。引きずるようにして立たされて、ムッとしたハボックは何か言う間もなく浴室の外に引っ張り出された。 「ちょ……っ、中佐ッ?!わ……っ、床がッ」 濡れた髪や体からポタポタと滴が滴り落ちて床を濡らす。慌てる間にもヒューズは廊下を横切ると寝室の扉に手をかけた。 「中―――――、ウワッ!」 開いた扉の中に突き飛ばされて、ハボックはベッドの上に俯せ倒れ込む。慌てて身を起こそうとするより早く、ヒューズが背後から圧し掛かってきた。 「中佐ッ!」 身を捩って逃げようとするが、ガッチリと押さえ込まれてどうしようもない。それでも諦めずにもがくハボックの首にスルリと何かが巻きついた。 「えっ?」 ギョッとして動きを止めた隙に巻きついたものがキュッと締められ首にピッタリと留められる。驚いたハボックは指先で確かめ、それが何かに気づいて目を見開いた。 「こ、れ……っ」 「やっぱり思った通りよく似合うぜ、ジャン」 その声にパッと背後を振り向いたハボックの喉元で小さな鈴がチリンと音を立てる。 「アンタねぇ……ッ」 丸一日かけて選んだ首輪をハボックの首につけて、ヒューズが満足げにニヤリと笑った。 2013/08/03 |