俺様な皇帝と恥ずかしがり屋の騎士の話1


「うわッ?!」
 廊下を歩いていたハボックは、丁度通り過ぎようとした扉から伸びてきた手にグイと腕を引かれて声を上げる。そのまま小さな会議室に引きずり込まれて、ハボックは背後から抱き締めてくる影に思い切り肘鉄を食らわせた。
「少────グホッ!」
「えっ?中佐?!」
 物の見事に鳩尾に一発食らってゲホゲホと咳込む男が誰なのかに気づいて、ハボックは慌ててヒューズの背をさする。
「大丈夫っスかっ?」
 イテテと前屈みに胸元を押さえるヒューズの顔を覗き込んで言えば、ヒューズが目を眇めて言った。
「ひでぇな、おい」
「ごめんなさいっ、まさか中佐だと思わなくて……」
 思わず反射的にやってしまったと首を竦めるハボックに、ヒューズはクスリと笑う。ちょっとばかり大袈裟に押さえて見せていた胸から手を離し体を起こすと、ハボックの金髪をわしわしと掻き混ぜた。
「まあ、これなら誰かに襲われる心配はなさそうだな」
「中佐」
 そんなことを言うヒューズをハボックは軽く睨む。それでも、すぐに笑みを浮かべて言った。
「いつ来たんスか?中佐」
「ん?たった今着いたとこ」
「でも、そういう予定じゃなかったっしょ?」
 セントラルにいるヒューズがイーストシティに来る時は大抵事前に連絡が入る。そういう予定は聞いていないはずとハボックが言えば、ヒューズは引き寄せたハボックの髪に鼻を埋めて言った。
「急にお前の顔が見たくなってさ」
「中佐」
 そんな風に言われてハボックは顔を赤らめる。グイとヒューズの胸を押しやり赤くなった顔を背けて言った。
「そんなこと言ってないで大佐んとこ行かなくていいんスか?」
「お前、今俺が言ったこと聞いてなかったのかよ」
 ハボックの言葉にヒューズは不満そうに顔を顰める。ハボックの顎を掴み赤らんだ顔を自分の方へ向かせて言った。
「お前の顔が見たくなったって言ったろ?──ジャン」
「中佐っ」
 二人きりの時だけに使う呼び方で呼ばれて、ハボックは益々顔を赤らめる。何とかヒューズの手を振り払おうとすれば逆にグッと腰を引き寄せられて、ハボックは必死でヒューズの胸を押しやった。
「ちょ……っ、ここどこだと思ってるんスかッ!」
「んー?別にどこだっていい」
「よくないっス!ここはっ、司令部の中────ヒャッ?!」
 ゾロリと尻を撫で上げられてハボックはビクンと震える。ヒューズは撫でた尻の狭間に手を差し入れ、ボトムの上からグイと指を押し込んだ。
「中佐っ!」
「どこだっていいんだよ、お前がいるなら」
 グイグイと指を押し込みながらヒューズが囁く。間近から空色の瞳を覗き込んで続けた。
「会いたかった────お前は違うのか?ジャン」
 そう言って見つめてくる常盤色にハボックは目を見開く。見開いた目を細めてハボックが答えた。
「会いたかったに決まってるっしょ……っ」
「ジャン」
「会いたかった……会いに来てくれて嬉しいっス」
 ハボックはそう囁いてヒューズの背に腕を回す。そっと目を閉じればすぐさまヒューズの唇がハボックのそれを塞いだ。
「ん……んふ……中佐…っ」
 ピチャピチャと舌を絡めあいながらハボックが甘く鼻を鳴らす。そうすればヒューズがきつく舌を吸って囁いた。
「中佐じゃねぇだろ?」
 そう言えばハボックがグイとヒューズの胸を押しやる。恥ずかしそうに俯くハボックのピンクに染まった耳朶をヒューズが軽く噛んだ。
「中佐じゃねぇよ」
 噛むと同時に耳に吹き込まれる言葉にハボックの体が震える。困ったようにキュッと唇を噛んで俯くハボックのボトムを緩めようとすれば、ハボックの手がそれを阻んだ。
「なんだよ」
 手首を掴まれてヒューズが不服そうに言う。そうすればハボックが紅い顔で言った。
「オレっ、これから演習なんスよ」
「だから?」
「だから、って……」
 一体それがなんだというんだと言う口調で返されてハボックが言葉に詰まる。それをいいことにヒューズが先に進めようとすれば、再びハボックの手がそれを阻んだ。
「おい」
「駄目っス」
「ジャン」
「そう呼んでもダメっ」
 流されるかと思いきや意外にも強い拒絶にヒューズが唇を尖らせる。子供じみたその表情にハボックが苦笑して言った。
「演習前にこんなとこで手早く済ませちゃうんスか?久しぶりに会ったのに、それでいいの?」
「ジャン」
 そんな風に言われてヒューズは嬉しそうに笑う。ハボックの頬を撫でて見つめてくる空色を見つめ返して言った。
「そうだったな、こんなところでちょっと抱いてやったくらいじゃ満足出来ねぇもんな、お前は」
「はあっ?なに言ってるんスか」
 まったくもう、とため息をつくハボックの目元にヒューズはキスを落とす。
「判った、後でたっぷり可愛がってやる。────残業になるなよ」
「中佐こそ大佐に掴まんないでくださいね」
 擽ったそうに目を細めて言うハボックに「掴まるかよ」と返してヒューズはハボックの顔を覗き込んだ。
「なあ、今は我慢するからさ────ジャン」
 甘えた声で強請るヒューズにハボックが目を瞠る。瞠った目元を赤らめてハボックは言った。
「────……ース」
「おしっ、後で、なっ」
 殆ど聞き取れるかどうかという程小さな声で囁かれた名にヒューズがニカッと笑う。チュッと派手にハボックの頬にキスをしてヒューズは部屋を出ていった。
「後でね……マース」
 見えなくなった背に向かって、ハボックは嬉しそうに笑って呟いたのだった。


2012/06/17