変化8〜着物


「あれ?」
 亜米素鳥州の町をのんびりと歩いているように見えて、その実辺りの様子にしっかりと目を配っていた破樸狗が呟く。茶屋の娘と楽しげに話す黒曜石の瞳の侍を見つけて、破樸狗は舌を鳴らした。
「増田どの」
 破樸狗は近づきながら侍に声をかける。楽しい会話を邪魔されてムッとして振り向いた侍は、破樸狗の姿を見て笑みを浮かべた。
「破樸狗」
 失礼と娘に断って侍は破樸狗の方へのんびりとやって来る。破樸狗は侍の腕を掴むと近くの横路に入った。
「アンタまた城を抜け出して来たんスね」
「仕方ないだろう、城は退屈なんだ」
 増田と呼ばれた男はそう言ってわざとらしく欠伸をする。そのいかにも旗本の三男坊あたりといっただらりとした様子に破樸狗は呆れたように言った。
「まぁたそんな事言って!鷹の目どのに叱られるっスよ?」
 破樸狗は彼のお目付役とも言える老中の名を出す。そうすれば増田が途端に嫌そうな顔をして言った。
「せっかく城での煩わしさを忘れようと町に出てきてるのに思い出させるな」
「将軍のクセになに言ってるんスか」
 破樸狗はげんなりと肩を落として言う。この増田という侍、実はこの亜米素鳥州を治める天下の大将軍、増田絽依之進その人であった。
「お前は知らんだろうが城と言うのは本当に退屈なところだぞ」
 増田は本当につまらなそうな顔で言う。それからニヤリと笑みを浮かべた。
「それに引き換え町は面白い。綺麗なご婦人が幾らでもいるし、団子は旨いし」
 それに、と増田は続ける。
「お前もいるしな」
 そう言ってポンと胸を手の甲で叩いて見上げてくる黒曜石に破樸狗はどぎまぎして言った。
「ばっ、馬鹿な事言ってないでさっさと城に戻ってくださいよ!オレ、鷹の目どのにアンタを見かけたらすぐさま城に送り返せってきつく言われてるんスから!」
 破樸狗がそう言った時、表の通りから大きな音とそれに続いて悲鳴と怒号が聞こえる。そうすれば増田が目を輝かせた。
「事件だ、破樸狗!これがあるから町に来るのはやめられん」
「あっ、ちょっと!」
 行くぞ、と走りだしてしまう背に破樸狗が叫ぶ。だがそんな声になど耳も貸さずにふっ飛んで行ってしまった増田に破樸狗はため息をついた。
「やれやれ、仕方ねぇなぁ、本来オレの仕事なんだけどしゃあないか」
 町方同人である破樸狗はそう呟く。
「ま、それにあの人と一緒にいると退屈しないしな」
 破樸狗は楽しげに言うと増田の後を追ったのだった。


2010/09/17


お題8「着物」…です。着物というより、時代劇か侍じゃないの?って言われそうですよねぇ。だって、ハボックに着物着せてって言ったら裾乱して喘がす事しか思い浮かばなかったんだもの〜〜(苦)お前の頭はそれしかないのかって言われそうですがorz とりあえずハボ&ロイ in 暴れん坊将軍なノリで(笑)