| 変化7〜看護士 |
| 「…ッ?ツゥッ!……しまった」 落として割ったグラスの欠片を拾おうとして、ロイは指に走った痛みに顔を顰める。手を見れば人差し指の中程が切れて血が流れていた。 「しまったな」 どうも舐めたくらいでは治まりそうにない。それでも往生際悪くロイは零れる血を吸いながら呟いた。 「だが、どうもあそこに行くのはなぁ……」 と、最近医務室に配属になった新米看護士の姿を思い浮かべる。だが、いい加減止まらない血とズキズキとする指の痛みにロイはため息をついて立ち上がった。 「仕方ない、か」 ロイはそう呟いて執務室を出ると医務室に向かう。せめてあの新米看護士が席を外していて軍医自ら処置してくれればいいと思いながらたどり着いた医務室の扉を開けた。 「あ、マスタング大佐、おはようございます!」 「……やあ、ハボック少尉」 だが、ロイの願いに反して明るい声が医務室の中から飛び出してくる。ロイがこっそりとため息をつけばハボックが小首を傾げて言った。 「今日はどうかしたんスか?また昼寝とか?」 以前ホークアイの目から逃れて昼寝をするために医務室のベッドを借用したことを覚えていてハボックが言う。ロイは眉を顰めて血の滲む手を突き出した。 「あ、怪我っ?しかも右手じゃないっスか!先生、大変っス、大佐が怪我したッ!」 ロイの手を見るなりハボックがおろおろと叫ぶ。そうすれば初老の軍医が苦笑してロイに座るよう促した。 「落ち着かんか、少尉。どうされたんです?大佐」 「割ったグラスの破片で切ってしまった」 ロイは答えて手を見せる。軍医は消毒液を染み込ませた脱脂綿で傷口の血を拭って傷の具合を見た。 「ああ、大した傷じゃないですな、これなら一週間もすれば落ち着きますよ。少尉」 軍医は言ってハボックに処置の指示をする。ハボックは頷いてロイのそばにスツールを引っ張ってくるとそれに腰掛け治療を始めた。 「消毒して薬つけるっスから、ちょっと我慢してくださいね」 ハボックは言ってボトルの中にころころと入っている消毒薬が染み込んだ脱脂綿をピンセットで摘む。ちょっと考えて更に消毒薬を継ぎ足すとたっぷりと薬が染みた綿をロイの傷口に押し当てた。 「イ…ッ!!」 死ぬほど消毒薬が染みて、ロイは悲鳴を上げかける。びくうっとスツールの上で飛び跳ねたロイにハボックが慌てて言った。 「あっ、染みたっスか?ごめんなさい!」 「薬をつけ過ぎだ…ッ」 痛みをこらえて呻くようにロイが言えばハボックがすまなそうにロイを見る。 「いっぱいつけた方がいいと思って……」 しっかり消毒しないとばい菌が入ったら困るし、とモゴモゴ言うハボックにロイはため息をついた。 「いい、早くすませてくれ」 「はいっ」 ロイの言葉にハボックはガーゼに薬を塗って傷口に張り付ける。細めの包帯を手にしたハボックは、パンッと少しのばした包帯を鳴らして言った。 「いきます」 そう言ってガーゼを押さえるようにして包帯を巻き始めたハボックだったが、何回か巻いては解き巻いては解きして、一向に巻き終えることが出来ない。 「あれ……おかしいな」 「おい」 なかなか巻き上がらない包帯にロイが苛々として言う。ハボックはビクッと肩を跳ね上げると慌てて言った。 「すみませんっ、すぐ済むっスから!」 ハボックは叫ぶように言ってぐるぐると包帯を巻く。 「出来た!」 とホッとしたように言ったものの、ロイの顰め面を見て眉を下げた。 「ダメっスよね、今まき直しますからっ」 指が三倍くらいに太くなるほど巻き付けた包帯をハボックは解いて巻き直す。だが、いくら巻いてもフランクフルトのようになる包帯に、ロイはため息をついて言った。 「もういい、私が自分で巻いた方がよほど上手く巻ける」 ロイはそう言ってハボックの手から包帯を取り上げる。片手で自分よりよっぽど器用に包帯を巻くロイを見て、ハボックはしょんぼりと項垂れた。 「……ごめんなさい」 しょんぼりとした声にロイは包帯を巻いていた手を止めてハボックを見る。胸に顔がつくほど項垂れたハボックにため息をつくと、ロイは金色の頭をワシワシとかき混ぜた。 「左手じゃ巻きにくいな。やっぱりお前がやってくれ」 「ッ、……はいっ」 ロイの言葉にハボックは弾かれたように顔を上げて包帯を受け取る。時間をかけてさっきよりは少し細く巻かれた包帯を見てロイは言った。 「怪我が治る迄の間毎日包帯を代えてくれ。練習になるだろう?」 「……はいっ、ありがとうございます!」 頑張りますっと笑うハボックの顔を見れば、練習台になるのも悪くないかと思うロイだった。 2010/09/16 |
| お題7「看護士」です。最初ナースなハボックにイタズラするロイの話を書こうと思ったのですが、下手するとロイハボ続きになりかねないのでカプなしでいけるヤツは極力カプなしで行こうと。それでこの話〜?って言われるとアレなんですが(苦笑) |