変化4〜作業ツナギ


「大佐ぁ、屋根の修理終わったっスよ」
 屋根裏部屋で昔の書き物を引っ張りだしていたロイの耳にハボックの声が聞こえる。こっちだと声をあげればギシギシと梯子を上がる音がしてハボックの金髪が覗いた。
「大佐?」
 ひょこっと顔を出してハボックはきょろきょろと屋根裏部屋を見回す。書類をめくるロイの背中を見つけると梯子を上りきり屋根裏部屋へと上がってきた。
「大佐、修理終わったっス」
「ああ、お疲れさま」
 ハボックの声にロイが肩越しに振り向いて答える。ハボックの姿を見て一瞬目を見開いたが、ニヤリと笑って言った。
「妙に似合うな、その格好」
「へ?そうっスか?」
 言われてハボックは自分の体を見下ろす。今ハボックは、インディゴブルーの作業つなぎを着ていた。
「これ、便利なんスよ。シャツがずるずる出てくることもないし、ポケットいっぱいついてるし」
「なるほど」
 ロイは言いながらシャツの胸ポケットを探る。目当てのものが見つからず、ズボンのポケットも探すロイを見てハボックが言った。
「どうしたんスか?」
「ペンを忘れた」
 わざわざ取りに降りるのは面倒だが仕方ない。やれやれとため息をついて立ち上がろうとしたロイの目の前にニュッとペンが差し出された。
「これでよければどうぞ」
「……ありがとう」
 ロイはそれを受け取りメモを取る。書類を数ページめくりちょっと考えると数式の部分を破こうとした。
「……と、意外に破きにくいものだな」
 肝心な部分に破り目が入りそうになってロイが呟く。そうすればハボックがポケットをまさぐって言った。
「使います?」
 そう言ってハボックが差し出した鋏をロイは驚いたように見つめる。それでも礼を言って受け取ると必要な部分を切り取った。
「随分便利なポケットだな。ほら、お前がこの間読んでたマンガに出てくるロボットのポケットみたいだ」
「そこまで色々入ってないっスけど」
 ロイの言葉にハボックが苦笑する。ロイはよいしょと立ち上がると段ボール箱の中のファイルを弄り始めた。
「っツ」
「大佐?」
「ファイルで切った」
 そう言ってロイは指から滲む血を舐める。それを見てハボックがポケットからバンドエイドを取り出した。
「一応これ貼っとけば?書類に血が付いちゃうっしょ」
「ほんとに何でも入ってるな」
 ハボックにバンドエイドを貼って貰いながらロイが感心したように言う。手を伸ばして作業つなぎのポケットをさぐり出すロイにハボックは身を捩った。
「くすぐったいっスよ」
「他になにが入ってるか気になるじゃないか」
 そう言いながらポケットに手を突っ込んでくるロイからハボックが逃げる。流れる汗を手の甲で拭って言った。
「そんな事してないでさっさと終わらせちゃってくださいよ。これからどんどん暑くなるっスよ、ここ」
 空調設備のない屋根裏は窓が一つあるきりで残暑が厳しいこの季節、日中は蒸し風呂になってしまう。既に気温はかなり暑くなってきており、流石のロイもため息をついて言った。
「もういい加減暑いよ。だが、後まだもう少し捜し物が」
 ロイは言いながらバンドエイドを巻いた指でファイルを探す。するとハボックがポケットの中から出したものをロイに差し出した。
「仕方ないっスね。じゃあ、これ」
「え?」
 言われてロイが視線をあげれば目の前に水滴がついたスポーツ飲料のペットボトル。
「さっき冷蔵庫から出したばっかりっスから冷たいっスよ」
 だが、ロイは目を丸くしてボトルを見つめたきり手を伸ばしてこない。ハボックは困ったように首を傾げて言った。
「これじゃ足りないっスか?んじゃ、これならオッケー?」
 そう言うとハボックはポケットからもう一本ボトルを取り出す。はい、と言って差し出してくるボトルを見つめていたロイが肩を震わせたかと思うとクスクスと笑いだした。
「大佐?」
「ホントにお前のポケットは異次元ポケットだな」
 ロイは楽しそうに言うとハボックの手からボトルを取り上げゴクゴクと飲み干したのだった。


2010/09/13


お題4「作業つなぎ」です。つなぎっていうとポケットいっぱいってイメージしかない……。そんなわけでこんな話に(苦笑)