変化3 〜お祭り


「大佐、大佐!アンズ飴があるっスよ。行きましょう!」
 ハボックはそう言ってロイの手を掴むと小走りに走り出す。慣れない下駄で転びそうになりながらロイはハボックに言った。
「待て、ハボ!そんなに走ったら転ぶっ!それにブレダ少尉を置いてきてるぞ!」
「あ」
 言われて初めて気づいたと言うようにハボックは足を止める。振り返るとポケットに手を突っ込んで歩いてくるブレダが来るのを待った。
「ごめん、ブレダ」
「別に構わねぇよ」
 すまなそうに眉を下げるハボックにブレダは答える。三人は連れだってアンズ飴の屋台へとやってきた。
「いらっしゃい!一回100センズでこのルーレットが回せるよ。針が向いた数字の本数だけ飴をあげるからね」
「ですって。大佐、やりません?」
 顔を覗き込むようにして言われてロイは眉を寄せる。
「こういうのは苦手だ。ハボック、お前に任せる」
「アイ・サー!」
 ハボックは答えて屋台のおやじに100センズ渡すとルーレットに手をかけた。
 今日はセントラル駅前で秋祭りが開催されていた。駅前広場にはたくさんの屋台が並び、中央には高い櫓が設置されていた。揃いの浴衣を着て祭りに行こうとしていたハボックとロイがたまたまブレダを見かけて半ば強引に一緒に行こうと誘ったのだった。
「よし、三本当てるぞっ」
 ハボックは言って「えいっ」とルーレットを回す。勢いよく回りだした針はだんだんと速度を落とし、やがてゆっくりと止まった。
「おめでとう!二本当たりだ」
「やった!」
 屋台のおやじにどれにすると聞かれロイはアンズを、ハボックはみかんが入った水飴を取る。あーんと食べようとしてハボックはハッと気づいた。
「あ、ブレダの」
 そう言って背後に立つブレダを見る。
「別にいいよ。特に食いたくないし」
「もう一回ルーレットするよ」
「だからいいって。せっかく二本当たったんだ。さっさと食え」
 そうブレダに言われてハボックは申し訳なさそうにしながらも飴を口にする。「おいしいっスね、大佐」「ああ」と言葉を交わしてにっこりと微笑みあう二人にブレダはげんなりとため息をついた。
(なんで俺がこの二人と一緒に祭にこなくちゃならないんだ)
 そもそも自分はたまたま近くを歩いていただけで祭に来ようと思ったわけではない。正直バカップルと名高い二人と一緒の秋祭りは苦行でしかなく、ブレダとしては一刻も早くこの場を去りたかった。
「なあ、ハボ。俺はこの辺で───」
「あっ、射的だ!三人で誰が一番当てるか、競争しようぜ」
 ね、とハボックがロイに言えば頷くロイを見たハボックがブレダに視線を向ける。
「ブレダもいいだろ?」
 絶対に断られる事などあり得ないと信じきっている瞳にブレダは「帰る」と言えずに頷いた。三人は並んで射的の屋台までくると、金を払って射撃用のライフルを三梃借りる。まずはブレダがライフルを構え、見事キャラメルの箱を撃ち落とした。それに続いてハボックがチョコを撃ち落とすとロイに言う。
「さ、大佐の番っスよ」
 言われてロイは神妙な顔で頷いてライフルを構える。パンッと乾いた音と共に発射されたコルクの弾は、だが狙いを外れて犬のぬいぐるみの遥か上を飛んでいった。
「あ」
 がっかりと肩を落としてロイがハボックを見る。そうすればハボックがロイの体を背後から抱え込むようにして教授し始めた。
「もう少し脇を締めて…そう、それで的の少し下を撃つつもりで狙って見てください」
「判った」
 ハボックの言葉に頷いてロイはもう一度引き金を引く。だが、弾は的の右側を通り抜けていった。
「ハボ〜」
「ちょっと力入ってるっスよ」
「あの犬欲しい、ハボ」
「大丈夫、絶対取れるっスから。頑張って、大佐」
「うん」
 なんだか勝負と言うのとは違う雰囲気になりつつある事に気づいてブレダは眉を顰める。
「なあ、俺そろそろ帰―――」
「ちょっと待ってて、ブレダ!」
「いや、だから先に帰―――」
「待っててって言ってんじゃん!」
「ハボ〜」
「ああ、ごめんなさい、大佐。だからね」
(頼むから帰らせてくれ)
 見たくもないバカップルのイチャイチャを延々と見せつけられて、祭なんてものをこの世から消し去ってしまいたいと本気で思うブレダだった。


2010/09/12


変化3 「お祭り」です。これこそ絵描きさん向けのお題だなと思いつつ書く(笑)絵が描けたなら巫女さんハボックとか描いてみたかったんですが(巫女ならロイだろうと言われそうだけど、そこはほら、ハボスキーだから)結局またいつものパターンでブレ迷惑におさまってしまったという(苦笑)