変化1〜バーテン


「……お前、どうしてそんな事してるんだ」
「は?どうしてって」
 カウンターに肘をついて不満そうに睨んでくる黒い瞳にハボックは不思議そうに首を傾げる。バーのカウンターを挟んで立つ男は手にしたシェイカーを慣れた手つきで振りながら答えた。
「なんか変っスか?」
 自分のどこに問題があるのだろうと尋ねればロイが答える。
「なんでバーテンの真似事なんてしてるのかと聞いてるんだ」
「真似事なんかじゃねっスよ。つか、前からやってるじゃないっスか」
 なにを今更と言うハボックにロイが顔を顰めた。
「お前今は軍人だろう?バイトは禁止だぞ」
「まあ、確かに軍人ちゃ軍人っスけど」
 とハボックは苦笑する。士官学校で優秀な成績を修めながら軍人は嫌だとバーテンの仕事をしていたハボックを、ある事件をきっかけに自分の手元に引き入れたのはロイだ。今日は仕事帰りに今は知り合いに任せている店の様子を見たいと言ったハボックに、それなら店で食事も済ませてしまおうとロイも店にやってきたのだった。
「そもそもここはオレの店っスもん。バイトにはならないっスよ」
 ハボックはそう言いながらシェイカーの中身をグラスに空ける。できあがったカクテルを客の女性の前に置いてにっこりと笑えば、その女性が嬉しそうに話しかけるのに二言三言答えてハボックはロイのところに戻ってきた。
「だからってなにもそんな事しなくてもいいだろう?」
 ロイはそう言いながらチラリと女性に視線をやる。頬を染めて嬉しそうにグラスに口を付ける横顔を見て、フンと鼻を鳴らした。
「そんな事言って、メシ食わせろって言ったの、アンタじゃないっスか」
 とハボックはため息混じりに言う。
「ここはバーなんスからね。ピラフだのパスタだのはないんです」
「あるじゃないか」
 とロイは自分の前に置かれたカルボナーラの皿を見る。
「それはマスタング大佐用特別メニューっス。オレが作らない限りは出てこないし、そもそもうちのメニューには載ってません」
 まったくもう、と言うハボックに構わずロイはフォークにパスタを巻き付ける。ハボックが作ったそれは滑らかでペーコンの塩味が聞いていてとても美味しかった。
「旨い」
 もぐもぐと口を動かしながら言うロイにハボックは笑みを浮かべる。
「それはどうも」
 存外に好き嫌いの多いロイが“旨い”と褒めるのは稀だ。その言葉を聞けただけでもバーテンダーの自分がパスタを作る甲斐があるというものだ。
「デザートは?」
「はいはい」
 ぺろりとパスタを平らげたロイがそう言えば、言われるのが判っていたようにハボックが冷蔵庫から綺麗に盛りつけたチョコレートムースの皿を取り出した。
「どうぞ」
 と、目の前に置かれた皿に甘いもの好きなロイが目を輝かせる。綺麗なデコレーションと程良い甘さに顔を綻ばせて食べるロイの耳に、先ほどの女性客の声が聞こえた。
「あの……私もそれ、いただけませんか?」
 とっても美味しそう、と言う女性にハボックがすまなそうに言う。
「すみません、これ、店のメニューじゃないんです。この人専用なんで」
 恐らく作ったのはこれ一切れではない筈なのにそう言うハボックの言葉を聞いてロイの唇に笑みが浮かんだ。
「おい、ハボック。バーテンは駄目だがコックならいいぞ。私専用のコックにならないか?」
「はあ?」
 そんな事を言うロイにハボックがシェイカーを振る手を止める。
「もうとっくにそうなってると思ってたスけど」
 家で毎晩食事を作ってるのは誰だと思ってるんだ、げんなりとそう言うハボックに、ロイが楽しそうに笑った。


2010/09/10


お題1「バーテン」です。あんまりバーテン関係ない感じだけど(苦笑)ちなみにこの二人はハボロイリク「my sweet assassin」の二人なのでハボロイが前提なのですが、あんまりカプ色もないかなと区別しませんでした。