変化18〜ホスト


「ハボック」
 そう呼べば隣で行儀悪く寝煙草などふかしていた男が私を見る。目が合えば空色の瞳が緩く解けてハボックが答えた。
「なんスか?」
 話しかけたクセに口を開かない私をハボックは面白そうに見る。くわえていた煙草を枕元の灰皿を引き寄せて押しつけると、私の首に腕を回して言った。
「なんスか?大佐」
 ハボックは唇を私のそれに触れんばかりに近づけて同じ言葉を繰り返す。煙草の香りがきつく香って、私は顔をしかめた。
「煙草はやめろと言ったろう」
「この匂いがオレの匂いだって言ったの、アンタっスよ」
 そう言えば深く繋がった時にそんな事を言ったかもしれない。私は間近に迫る空色を睨んで言った。
「事の最中言った事を覚えてるなんて、随分余裕だな」
 それが私とハボックの温度差を表しているようで、胸がチクリと痛くなる。ハボックは私をじっと見つめてから笑みを浮かべて言った。
「だってオレはホストっスもん。お客さんの言った事は覚えておかないと」
 ハボックはそう言って私から腕を離すと体を起こす。
「アンタだって他のお客の話、間違ってされたら嫌っしょ?」
「そんな事したら燃やしてやる」
 半ば本気でそう言うとハボックが笑い声を上げる。ハボックは煙草に手を伸ばして火をつけると、一口吸って煙を吐き出した。
 大きな背を丸めて膝を抱えるようにして煙草を吸う横顔はどこか子供っぽい。鍛えられた体はどこにも無駄な肉などついておらず、なんだかそれが気に入らなくて私は手を伸ばすとハボックの脇腹を抓った。
「いたッ」
 大して痛くもないだろうにハボックは言って顔をしかめる。抓った私の手を軽く叩いて言った。
「悪戯っ子っスね」
 彼はむずかる子供をあやすような口調で言う。私の手をそっと握って言った。
「なんスか?大佐」
 そう言って私が言えないでいる言葉を促す。だが私はハボックの手から己のそれを引き抜いて答えた。
「なんでもない」
 そうしてハボックに背を向けてしまう。背中にハボックの視線を感じたまま何も言わずにいればハボックが言った。
「今この時間はオレはアンタのもんスから、何を言ってもいいんスよ?」
 でもそれはこの時間を過ぎればハボックが私のものではなくなる事を示していて。
 唇を噛み締め頑なに背を向け続けていれば、微かに動く気配がしてハボックの腕が私の体に回される。ハボックは私の背に頬を押し当てて言った。
「なんスか?大佐……なんでもいい、アンタが思ってる事、聞かせて?」
 切なく囁かれる声は私が言えないでいる言葉が何なのか、全部判っているようだ
った。
「さあ、忘れたな」
 そう答えれば漣のように笑う気配がする。
「ずるい」
 言葉を口にしない私と言わせようと強請るハボックと。どちらがよりずるいのだろう。
 言葉に出来ないそれぞれの想いを抱き締めて、私達はただ夜が明けて互いが互いのものでなくなる時が来るのを、息を潜めて待っていたのだった。


2010/09/27


お題18「ホスト」です。……今回もまたサッパリ思い浮かばなかった…orz たまにはすっきり書けよって言われそうですが(苦)いつもその日のお題を書くと次の日のお題を考え始めるのですが、昨日は寝るまでずっと考えてても浮かばず、今日も移動の電車の中でずっと「ホスト…ホスト…ヤベェ、浮かばんッ!」って、きっと怪しいオーラ出しまくりだったかと(苦笑)最初浮かんだのはドリームとまでは行かないまでもホストのハボが話しかけてくるヤツだったんですが、ハボのセリフが全然浮かびませんで、結局こんな例によってワケの判らん話に落ち着き(?)ました(苦笑)ロイが言えないでいる言葉もハボが言って欲しい言葉も考えてありますがあえて書きませんでした。皆さまそれぞれに好きな言葉を想像して頂ければと。