| 変化16〜コック |
| 「はい、お待たせしました。ドングリのスープ、紅葉添えっス」 ハボックはにっこりと笑って泥水の中にドングリと紅葉の葉っぱが浮いたカップをロイの前に差し出す。 「はは……今日はまた旨そうなメニューだな」 ロイはひきつった笑いを浮かべて言うと、恐る恐るカップに手を伸ばした。 蜂蜜色の金髪に空色の瞳のハボックはこの間五歳になったばかり、やんちゃで可愛い盛りだ。ハボックの向かいの家に住むロイは、一人っ子ということもあってハボックの事を小さいときからずっと可愛がってきた。悪友のヒューズには「甘い」と呆れられつつ、ハボックが喜ぶ事は何でもしてやっていたロイだった。先日も偶然テレビでコックの仕事を紹介している番組を見たハボックが「大きくなったらコックになる!」と言うのを聞いて、早速おもちゃの包丁やらまな板やらを買ってやった。すごく喜んだハボックが早速木の実や雑草を使って料理の真似事を始めたときは、いいことをしたと満足していたロイだったが。 『はい、どうぞ』 『え?』 ハボックは作り上げた料理をロイの前に差し出してきた。なにやらグチョグチョの葉っぱらしきものが載った皿を受け取って食べるフリだけして皿を返そうとしたロイをハボックが睨む。 『食べて!』 『でも、これは食べられないだろう?』 『せっかくオレが作ったのに、食べてくれないの?』 泣きそうな顔でそう言われてロイは仕方なしにハボックが作った料理を口にする。もの凄く苦いそれに一瞬吐きそうになりながらそれでも何とかゴクリと飲み干すと、ロイはにっこりと笑った。 『おいしいっ、ハボックはもう立派なコックさんだね』 そう言った途端、ハボックがパアアッと顔を輝かせる。それ以来、ハボックはロイの専属コックになったのだった。 (今日のはまた更にバージョンアップしている……) ロイはカップの中を見てそう思う。子供のくせに研究熱心なハボックは最近では色々なものを試すようになっていた。 「この黄色い粉はなにかな、ハボック」 「チョークっス!色が綺麗で美味しそうっしょ?」 「そうか、チョークか……よく思いついたね」 泥水に浮かぶ黄色い粉を見ながらロイが言えばハボックが嬉しそうに笑う。その顔を見れば、とても“これは食べ物じゃないから食べられない”とは言えないロイだった。 「いただきます」 ロイは言ってカップに口を付ける。少し傾ければ口の中に入り込んできたドングリと泥水を、ロイは殆ど噛まずにのどの奥に流し込んだ。 「美味しい!このチョークの粉がピリッとしていてとても美味しくなってるよ」 「本当?よかった!あのね、黄色いチョークにするか青いチョークにするかすっごく迷ったんスけど、やっぱり黄色にして正解だった!」 「そうだね」 黄色かろうが青かろうがどちらでも変わらないとロイは思ったが、口には出さずに優しく笑う。ハボックは嬉しそうにピョンピョンと跳ねながら言った。 「あのね、今日はデザートもあるんスよ!」 「へぇ、すごいな」 「今持ってくるから!」 ハボックは言って“キッチン”にしているベンチに向かって走っていく。ロイはその隙にカップの中身をこっそり捨てて急いで土をかけた。 「お待たせしました!銀杏のプディングっス!」 ロイがこっそり捨てたことには気づかず、戻ってきたハボックはロイの前に皿を置く。そこには銀杏の黄色い果肉の部分が山盛りに盛られてもの凄い臭いを放っていた。 「……う」 その強烈な臭いに思わず口元を押さえて身を仰け反らせばハボックが心配そうにロイを見る。期待と不安に揺らぐ空色の瞳で見つめられて、ロイはニコニコと笑ってスプーンを手に取った。 『お前、いつか死ぬぞ』 ロイの脳裏に毎日ハボックが作った木の実や雑草の食事を食べていることを話した時のヒューズの声が蘇る。だが、ロイはその声を頭から追い出すと銀杏をスプーンで掬い、エイとばかりに口に放り込んだ。 「ッッ!!!…………旨い」 強烈な臭いをこらえてゴクリと飲み込み、ロイは「あはは」と笑う。そうすればハボックが満面の笑みを浮かべて言った。 「よかったぁ!明日もいっぱい作るから、いっぱい食べてね!」 「ありがとう、ハボック……ッ」 季節は折しも実りの秋。世間には木の実も草の実も、湿った木の影には茸だって生えている。ロイはせめて食事を口にした途端ぶっ倒れて可愛いハボックを驚かせたりしないよう、胃だけは鍛えておこうと思うのだった。 2010/09/25 |
| お題16「コック」です。今回もさっぱり思いつかず、流石にもうだめかと思いました(苦笑)コックリングとかじゃダメかなぁ、って、コック違うし!(爆)そんなで可愛いコックさんのハボと健気なロイ兄ということで。うっかり茸とか危ないですよねぇ(苦笑) |