| 変化14〜制服 |
| 「まぁた本読んでる」 そう言う声と同時にヒョイと肩越しに覗き込んでくるハボックにギクリとする。頼むからそんな風に不用意に近づいてこないで欲しい、心臓が止まるかと思ったじゃないか。だが、そんな心の動揺など表には出さず、私は答えた。 「ああ、ハボックか」 「ハボックかじゃねぇっスよ。本の整理はどうしたんスか、先生」 ハボックはそう言いながら私の手から本を取り上げる。パタンと閉じた分厚い本を片手で持って言った。 「頼まれた本は全部棚にしまったっスよ。他になんかあります?」 そう言うハボックを私はうっとりと見上げる。この学校の制服は有名デザイナーがデザインしたとあってなかなか洒落たものだったが、背の高いハボックが着るとなお一層カッコよかった。 私が初めてハボックを見たのは、偶然観戦に行っていたバスケの試合だった。その時ハボックはまだ中学生だったが、その迫力あるプレイは私の心を魅了し、私は一目で恋に落ちてしまったのだ。 その後ハボックが私が教鞭を執るフィン・マクヴァル高校に入学してきたときは本当に驚いた。あんまり興奮してヒューズに電話して騒いでしまったほどだ。だが、学校ではそんなことはおくびにも出しはしない。何故なら私は教師で彼は私の生徒だから。彼の魅力を引き出すこの制服は、私にとってはストッパーだ。ハボックがこの制服を着ている限り、私はこの気持ちを外に出すことは赦されないのだ。 「先生今日またマオの店に行くんでしょ?オレも一緒に行っていいっスか?」 ハボックはそんな私の気持ちも知らず、無邪気に笑う。私は立ち上がってなお見上げるハボックを見て言った。 「来てもいいが、また荷物持ちにされかねないぞ」 「いいっスよ。オレ、頭悪いけど力はありますもん」 そう言って笑うハボックを私は決して頭が悪いとは思わない。 「お前は要領が悪いだけで頭が悪いわけじゃないよ」 だから素直に言ったが、ハボックは笑っただけで否定も肯定もしなかった。 校門を出てハボックと並んで歩く。大きなボストンを片手で肩に背負(しょ)うようにして長いコンパスで歩くハボックはカッコいい。その証拠に行き交う女の子たちがチラチラとハボックに熱い視線を送りながら可愛らしい声で囁きあっていた。 私にとってのハボックの制服は自分の想いが暴走してしまわない為のストッパーだが、彼女たちにとってのそれはハボックと彼女たちが同等の立場だと示すものだ。大きなリボンとミニスカートの可愛らしい制服に身を包んだ彼女たちは、私と違っていつだってハボックにその想いを打ち明け隣に並ぶ権利を持っているのだ。そう思うと彼女たちの制服をズタズタに引き裂いてやりたくなる。そんなことを思いながら昏い瞳でハボックに熱い視線を送ってくる女の子たちを見つめていればハボックが言った。 「マオって幾つくらいなんスかね。つか、マオって男?女?先生、知ってます?」 「いや、聞いたことないな」 「やっぱ直接は聞けないっスよね」 女性だったら失礼だし、とハボックが言った時マオの店が見えてくる。早く、と促そうと私を見たハボックが一瞬目を見開いたかと思うとうっすらと笑った。 「先生、眉間に皺寄ってる」 そう言って私の眉間に指先で触れる。 「いっつも難しい本ばっか読んでるからっスよ、きっと。今日はマオんとこで面白い本買いましょ。オレも読めるような簡単なヤツ」 ハボックは笑ってそう言うとマオの店に走って先に行ってしまう。その背を見送って私は手を握り締めた。 私の中にあるこの醜い感情をハボックが知ったらどうするだろう。ハボックを見つめる女の子たちの制服を切り裂いて滅茶苦茶にしてやりたいと思っていることを。そしてなにより、ハボックと私の間を隔てるあの制服を、私の中に燃え盛る恋情の焔で燃やしてしまいたいと思っていることを。 「先生、早く!」 「今行く」 マオの古書店の店先で大きく手を振って私を呼ぶ姿を眩しく見つめながら、私は私を魅了して止まないハボックの元へと走っていった。 2010/09/23 |
| お題14「制服」です。ハボロイ拍手リク「個人授業」の二人になります。まだお互いの気持ちなんて全く知らずに互いに片想いだと思っていた頃。教師のロイにとってハボックの制服は一種禁忌かな、と。個人的には制服は学ランが好きなんですがね。って、本編で学ラン設定にしてたかもって今更ながら思ったり。ブレダが学ランの前が止まらないとか言うシーンがあったような、あれは違う話だったか?(←いい加減な)まあ、その辺は見逃してください(苦笑) |