変化11〜ゆかた


「ハボック、それじゃ逆だ」
「え?」
 四苦八苦しながら浴衣を身につけようとしているハボックにロイが言う。言っている意味が判らないという顔を見て、口で言うよりやった方が早いとロイはハボックの前に立つと浴衣を左右に開いた。
「お前から見て左が上になるように着るんだ。右が上だと死装束になってしまう」
 ロイはそう説明しながらハボックの浴衣を着付けてやる。迷いなく浴衣を整える指先にハボックは感心したように言った。
「アンタってホントなんでも知ってるっスね」
 浴衣を着て祭りに行かないかと言い出したのはハボックの方だ。言い出したハボックは勿論、ロイも浴衣を着たことなどない筈なのに、蓋を開けてみればまるで何度も着たことがあるかのように着付けてしまったのはロイだった。
「前に一度着物の気付けというのを教わったことがあるんだ」
 出席したパーティで偶然着物を着ていた女性を見かけた。そのドレスとは違う美しさに興味を抱いて色々聞くうちに気付けを教わる機会があったらしい。
「だからって一度教わったくらいじゃ覚えてないっスよ、普通」
 着物一式、バラして見たことはないがパッとみただけでも色んな部品に分かれているようだ。それを一度見聞きしただけで覚えてしまうなんて、どんな頭の構造をしているんだろうとハボックは思う。
「まあ、着物を着てみろと言われたら迷うだろうが、浴衣は単衣だからな」
 出来たぞ、と結局帯まで全部してやってロイは言った。
「知ってるか?浴衣という呼び名は湯帷子からきているそうだぞ」
「それ自体知らないっスよ」
 湯帷子なんて聞いたこともない。ハボックはまるで普段きている服と変わらないように濃紺の浴衣を着こなすロイを見つめた。
「色んな事知ってて、着たこともない浴衣も簡単に着ちまって、まるで毎日着てるみたいに浴衣着こなして、アンタってホント」
 ハボックは言ってため息をつく。こんな男を女の子が放っておく筈がない。それに引き替え自分はなんて冴えないんだろう。比べれば比べるほど自分とロイとの差は歴然としてハボックは情けなくなった。
「そのくせ他人に渡したくないって思ってるんだ。オレってなんて欲張り」
「ハボック?」
 吐き出すようにハボックが言った言葉の意味が判らずロイが首を傾げる。ハボックはロイにギュッとしがみついて言った。
「やっぱ出かけるの、やめません?」
「せっかく浴衣を着たのに?」
 浴衣を着て祭りに行きたいと言ったのはお前だろうと言う顔をされて、ハボックは眉を下げた。
「だって、出かけたらきっとカワイイ女の子達がいっぱいいるだろうし、オレ、アンタのこと見せたくない」
 冴えない自分の側にいるよりも、カワイイ女の子達に誘われたらロイだってそちらに行きたくなるだろう。勝手を言っているとは判っているが、それほどにロイの事が好きなのだから仕方ない。
 ぼそぼそと言い訳じみた事を口にするハボックをロイは目を丸くして見つめていたが、やがてうっすらと笑みを浮かべた。
「まったくお前は相変わらず判ってないな」
「え?」
 自分もハボックと全く同じ事を考えていると、どうしてこの鈍い恋人は判らないのだろう。
「いいさ、それじゃあ今夜はこのまま家でゆっくり過ごそう」
「たいさ」
「そうだな、焼きそばくらい作ってくれ。少しはお祭り気分が味わえるだろう?」
「かき氷もできるっスよ、たこ焼きも!」
「十分だ」
 そう言って笑うロイに、ハボックも漸く笑みを浮かべたのだった。


2010/09/20


お題11「ゆかた」です。まったくもって何を書けばいいのかさっぱり浮かんでこなかった。必死に絞り出した挙げ句がヘタレハボとロイの話ってどうよ(苦)まあ、この後屋台気分を味わった二人がいい雰囲気になって、ハボが押し倒せばハボロイ、ロイが押し倒せばロイハボって事ですね(笑)