| 7.Chant de Noel |
| 「キャロルだ」 二人並んで歩いていれば不意に足を止めてロイが言う。同じように足を止めて耳を澄ましたハボックが、風に乗って微かに聞こえてきた歌声に気づいて言った。 「ほんとだ。どっかに教会があるんスかね」 クリスマスが近いこの時期、教会ではキャロルが多く歌われる。少年合唱団が歌っているのであろうか、澄んだ高い声を目を細めて聞いていたロイは、いきなり早足で歩きだした。 「大佐?」 「どこで歌ってるのか、探してみよう」 「えっ?」 突然そんなことを言い出すロイをハボックは慌てて追いかける。住宅街の中、風に乗って聞こえるキャロルは時に近く時に遠く聞こえ、どこから聞こえているのかなかなか判らなかった。 「さっきはこっちから聞こえたような気がしたんスけど」 ハボックはそう言って角を曲がる。だが、曲がった途端歌声が遠くなってハボックは足を止めた。 「だめだ、判んないっスよ、大佐」 言外に諦めようという意味を込めてハボックがロイを見る。だが微かに眉を寄せて歌声を探していたロイは、ハボックの言葉には耳を貸さずに曲がった角を先に進んだ。 「大佐!」 仕方なしに後を追ってハボックはため息をつく。やれやれと辺りを見回した時、屋根の間に教会の十字架が覗いているのが見えて、ハボックはロイを呼んだ。 「大佐、あれあれ!」 ロイは呼ぶ声に足を止めて戻ってくるとハボックが指さす方を見る。 「あそこじゃないっスか?」 「たぶんな、行こう」 言い終わらぬうちに歩き出すロイを追ってハボックが歩きながら言った。 「なんで反対方向から聞こえてきたんスかね」 「風向きと細い道や建物で反響したからだろう」 言いながら歩いていくうち歌声が大きくなる。最後の角を曲がれば小さな教会が建っていた。 「キャロル!ここだ、よかったっスね」 ハボックの言葉に微かに頷いて、ロイは短いステップを上がるとそっと扉を押し開く。教会の中ではステンドグラスから降り注ぐ光の中、少年たちがクリスマス・キャロルの練習をしているところだった。ロイとハボックは一番後ろの座席にそっと腰を下ろし少年たちの声に耳を傾ける。時折止まっては指揮をする教師の指示に従って歌い直す様を聞きながらロイが小さな声で言った。 「士官学校に入った頃、迷ってた時期があってな。自分の進むべき方向が判らなかった。苛々する私を見かねてヒューズが私を東部の田舎に旅行に引きずり出した。そのとき聞いたのがクリスマス・キャロルだったんだ」 歌に導かれるようにして入った小さな教会で少年たちがキャロルを歌っていたという。ロイは大きく口を開いて歌う少年の一人を指さして言った。 「丁度あんな金髪の子がいてな。金色の髪に綺麗な空色の瞳で天使がいたらきっとあんな風なんだろうと思ったよ」 「へぇ」 頷くハボックをロイは見る。 「そういやお前も金髪に空色の瞳だな」 「オレは合唱団なんて入ってなかったっスよ」 「そうなのか?」 ハボックの言葉にほんの少し残念そうにロイが言った。 「もう一度会えたら礼を言いたかったんだがな」 「オレが代わりに言われてあげましょうか?」 「はあ?」 思いもしない返事が返ってきて眉を顰めるロイをハボックが笑みを浮かべて見る。ロイは暫くの間ハボックをじっと見返していたが、視線を少年たちに戻して言った。 「あのときはありがとう」 「どういたしまして」 答えてハボックはロイの黒髪にコツンと金色の頭を預けたのだった。 2010/12/23 |
| 「クリスマスで10のお題」七つ目「Chant de Noel」です。フランス語でクリスマス・キャロルのことだそうです。最初ごうつく張りな金貸しをロイにして話を書こうかとも思ったのですが、そんなもの書いたらそれこそめちゃくちゃ長くなりそうなのでやめました(苦笑)それでこんな話かいって言われちゃうとアレなんですが(苦笑) |