5.キミとクリスマスツリー


「今年ももうこんな季節か」
 ロイはハボックが屋根裏から下ろしてきたクリスマスのオーナメントが入った箱に目をやって呟く。今ハボックはクリスマスツリー用のもみの木を買うために出かけているところだった。
 11月の感謝祭が終わり、アメストリスもいよいよクリスマスシーズンに突入していた。街のあちこちにクリスマスツリーやリースが飾られ、店のショーウィンドウも緑と赤のクリスマスカラーに染められている。夜ともなればあちこちにイルミネーションが一際鮮やかに輝き、たくさんの人がクリスマス気分を味わうために集まってきていた。マスタング家でも感謝祭が終わってすぐからハボックがツリーを飾ろうと騒いでいたのだが、なかなかもみの木を買いに行く時間がなく今日に至ったのであった。
「そろそろ帰ってくるかな」
 ロイが懐中時計を取りだしてそう言った丁度その時、家の前で車が止まる音がする。暫くして玄関の方からハボックの声がした。
「ただいまぁ」
 ガチャリとリビングの扉が開いてハボックが顔を出す。ワサワサとハボックの肩の上で揺れているもみの木を見て、ロイは目を見開いた。
「なんだ、随分可愛らしいのを買ってきたな」
 普通、家で飾るものでも大人の背丈ほどのもみの木を用意するのが一般的だ。だが、ハボックが買ってきたのは長身のハボックの腰ほど迄しかなかった。
「いや、普通にデカい奴買うつもりだったんスけど」
 とハボックはあらかじめ用意していた水を張った鉢にもみの木を下ろす。倒れないよう固定してパンパンと手に着いたゴミをはたいて言った。
「コイツが店の隅っこにポツンと置かれてるの見たらなんだか可哀想になっちゃって」
 思わず買ってきてしまったのだと言うハボックにロイは呆れてため息をつく。それでもそんなところがハボックらしいと思いながらも、それは口に出さずにオーナメントの入った箱を見て言った。
「だが、その大きさじゃオーナメントが余ってしまうな」
 元々大きなツリーを飾るために用意したオーナメントだ。ひとつひとつの大きさが大きいし数もある。
「いいじゃないっスか。賑やかで楽しいっスよ」
「賑やかねぇ」
 ハボックは言って箱をもみの木の根元まで運び、オーナメントを取り出す。飾ろうとしてクスクスと笑い出すハボックにロイは首を傾げた。
「ハボック?」
「いや、飾るの楽だなぁって思って」
 自分の背丈ほどもあれば上の方はそれなりに腕を伸ばさなければならない。だが、腰の高さしかないツリーはてっぺんの星も飾るにも何の苦労もなかった。
「そういえば子供の頃、オヤジがやっぱりこんな小さなツリー買ってきたことがあって」
「へぇ?」
 読んでいた本を置いてハボックと一緒にツリーを飾っていたロイが促すようにハボックを見る。ハボックは毛糸で作った靴下を下げながら続けた。
「まだ小さかったオレにもオーナメントを飾れるようにって買ってきてくれたみたいなんスけど、オレ、こんな小さなツリーじゃ嫌だって大泣きしちゃって」
「かえってそういうものだろうな。父上も気の毒に」
 そう言ってロイが苦笑すればハボックが答える。
「友達の家のツリーはみんな大きくて立派なのにうちのこんな小さなツリー、サンタさんがプレゼント置く時気がつかなくて通り過ぎちゃうって泣いたんですよねぇ」
 ロイは懐かしそうに話すハボックの顔をじっと見つめる。そうすればサンタさんが通り過ぎちゃうと心配して泣く金髪の子供の顔がだぶって見えて、ロイはクククと笑った。
「なんスか」
 突然肩を震わせて笑い出したロイをハボックは訝しげに見る。ロイは笑いを押さえきれずにクックッと笑いながら言った。
「いや、今のお前もさして変わらないんじゃないかと思って」
「大佐」
 そう言って笑い続けるロイをハボックは唇を突き出して睨む。そうすれば益々子供っぽく見えてロイの笑いは止まらなかった。
「いっス。勝手に笑ってればいいっしょ」
 ハボックはムゥと頬を膨らませて言うと、次々とオーナメントを飾っていく。小さなツリーは瞬く間に飾りでいっぱいになったが、ハボックは構わずオーナメントを下げ続けた。
「……これ以上かかんねぇ」
 流石にもう吊り下げる場所がなくなりハボックはツリーを睨みつける。そうすれば漸く笑いの発作を治めたロイがハボックの手からオーナメントを取り上げ、ハボックのシャツのボタンに吊り下げた。
「ここにかければいいじゃないか。これならサンタさんも可愛いハボックぼうやのプレゼントを忘れたりしないだろう?頭には自前の星もついてることだし」
「たーいーさー」
「ほら、可愛いぞ。全部飾ってやるから」
 ロイはそう言って箱に残ったオーナメントをハボックのシャツのボタンやベルトにひっかけてしまう。最後に金色のモールを肩にかけてよしよしと一人悦に入っているロイに、ハボックは思い切り顔を顰めて言った。
「別にいいっスけど。ツリーならここに座って動かないでいいし、晩飯は適当に作ってくださいね」
「えっ?!」
 ハボックの言葉にロイがギョッとする。
「冗談だろう?判った、オーナメントを外してやる!」
「いいっスよ。オレはコイツと一緒にひと月ほどここに座ってるっスから」
 ハボックは言ってツリーの横に座り込んだ。
「ハボック〜」
「ツリーに話しかけないで下さい」
 そう言ったきりそっぽを向いてしまったハボックをツリーから人に戻すのに、ロイは煙草3カートンとビンテージもののワインを一瓶、リボン付きで根元に置くしかなかった。


2010/12/21


「クリスマスで10のお題」五つ目「キミとクリスマスツリー」です。可愛いハボックの話を書くつもりだったんですが、気づけばこんな話になってました(苦笑)そういや最近ツリー出してないなぁ。出してあるとジャマなんだもん(苦笑)この間省スペース用で壁にぴったりくっつけて置くことが出来る、半分しかないツリーっていうのをテレビでやってました。確かにあれは便利かも。