4.白い冬


「うわ……益々すごくなってる……」
 ハボックは窓から外を眺めて呟く。ソファーで寝ころんで本を読んでいるロイに向かって言った。
「これじゃあイルミネーション見に行くの、無理っスかね?」
「そうだな、下手に出かけて帰ってこられなくなったら堪らん」
「ですよねぇ……」
 後から後から降ってくる白い綿のような塊を見ていれば強ち言い過ぎとも言えない。ハボックは「はああ」とため息をついて言った。
「今年こそはゆっくり見に行けるって楽しみにしてたのになぁ」
 毎年この時期、イーストシティの駅前から続く通り沿いはクリスマスイルミネーションが見事だと話題になる。いつも新聞の写真でみるだけ、実際に見る事が出来ても車の中から通りすがりにチラリとみるだけと、なかなか見に行く機会がなかったのだが、今年は珍しく時間がとれて見に行くことが出来そうだとわくわくしながら待っていたのに折悪しくイーストシティはクリスマス大寒波にみまわれてしまっていた。
「しかし、すごいっスね。イーストシティでこんな大雪、見たことないっスよ」
 冬になれば雪が降ることもあるが冬中雪に閉ざされるような地域ではない。すげぇとハボックが飽きもせず外を眺めながら半ば感心したような吐息を零した時。
「えっ?」
 バッと突然家中の灯りが落ちた。瞬間身構えて、ハボックはまだ闇になれない目をソファーの方へ向ける。
「大佐っ?」
「大丈夫だ、ブレーカーが落ちたのか?」
 特に電気を使いすぎたつもりはないが可能性として言ってみる。ハボックは窓から外を伺って言った。
「いや、この辺一帯真っ暗っスね。停電みたい」
「停電?ちょっと待て」
 この大雪の中、エアコンが使えなかったら朝になるまでに家の中といっても氷点下になりかねない。流石にソファーから飛び起きるロイにハボックが言った。
「暖炉、つけましょうか。たまにはいいっしょ」
「いいもなにもつけなかったら凍える」
 まだ十分に暖かい部屋の中、寒がりのロイが大袈裟に訴える。ハボックはクスリと笑って窓から離れるとリビングを出て、家の裏手から薪を一抱え持ってきた。一緒に持ってきた懐中電灯をロイに渡して暖炉に火を熾していく。ある程度火を大きくすると二人して暖炉の前にクッションを運んだ。
「外に食いに行くつもりだったからろくなものないっスよ」
 ワインとグラスを手にソファーの前に座り込むロイにハボックが言う。少ししてソーセージや野菜をスライスして串に刺したものをハボックが持ってきたのを見て、ロイが言った。
「それだけあれば十分だろう」
 ワインを片手に暖炉の火でソーセージを炙る。しんしんと降る雪に閉ざされた家の中は、パチパチと火が爆ぜる音と二人が炙るソーセージや野菜から立ち上るいい香りに満ちていった。
「偶にはこういうクリスマスもいいっスね」
「明日のことを考えないならな」
 ハフハフとポテトを齧りながらロイが言う。
「明日のためにたっぷり食って力つけとけよ」
 とロイが続ければハボックが思い切り顔を顰めた。
「せっかく考えないようにしてたのに……あーあ、きっとすごい事になってんだろうな」
 雪の重みで断線して停電になっている現状を考えれば、明日は朝から雪塗れでの作業が待っているに違いない。げんなりとため息をつくハボックにロイがクスリと笑った。
「サンタさんからのプレゼントだと思えば嬉しいだろう?」
「嬉かねぇっス」
 ムゥとハボックが唇を尖らせる。恨めしげに窓の外へ目をやって言った。
「なんか外、明るくねぇっスか?」
「雪が積もってるからだろう。昔は雪灯りで勉強したそうだぞ」
「嘘でしょ?雪で勉強出来るほど明るくなるんスか?」
「さあな。試してみるか?」
 肩を竦めて言うロイにハボックが答える。
「そうまでして勉強したくねぇっス」
 それくらいなら寝る、と言うハボックにロイがクスクスと笑った。
「まあ、今夜はゆっくり飲んで食べるとしよう」
「そうっスね」
 二人はそう言ってグラスにワインを注ぐと、メリークリスマスとグラスを合わせたのだった。


2010/12/20


「クリスマスで10のお題」四つ目「白い冬」です。今年のクリスマスはクリスマス寒波らしいですね。流石に東京じゃ雪降らんだろうけど。サンタさんはソリでガンガン滑れていいだろうな(笑)